ベルリン国際映画祭
Internationale Filmfestspiele Berlin
2005/5/11-22

パルムドール
 L'enfant (Child)  by Jean-Pierre&Luc Dardennes
グランプリ  Broken Flowers  by Jim Jarmusch
最優秀監督賞
 Michael Haneke(Cache のディレクションに対して)
最優秀女優賞
 Hanna Laslo  (Free Zone 中での演技に対して)
 最優秀男優賞  Tommy Lee Jones  
(The Three burials of
     Melquiades Estrada
中での演技に対して)
最優秀脚本賞  Guillermo Arriage
(The Three burials of Melquiades Estrada)
審査員賞  Shanghai Dreams  by Wang Xiaoshuai
カメラドール
(新人監督賞)
 The Forsaken Land  by Vomukthi Jayasundra
 Me and You and Everyone we know  by Miranda July

*日本からの出品作品はこちらから

概観
 
連日多くの催しが執り行われ、上映作品の部門も多岐にわたるカンヌ映画祭だが、柱となるのはやはりメインコンペティション部門である。そのラインナップが発表されると、大御所監督が勢揃い、昨年と異なりアニメーションもドキュメンタリーも一切含まれない正当派過ぎるともいえるセレクション。あまりに保守的なのではないかとの声さえ聞かれた。いざ始まってみると、突出する作品こそなかったものの軒並み平均点以上で、失望する作品はかなり少なかったといえる。最終的にはDardennes兄弟が「L’Enfant」(Child)で二度目のパルム・ドールを受賞した。前評判の最も高かったMicheal Hanekeの「Cache」(Hidden)は監督賞に、ジム・ジャームッシュ「Broken Flowers」はニ等賞に相当するグランプリに、と収まるべきところに収まった印象。受賞結果発表後、さまざまな論議を呼んだ昨年に較べると、全体に受賞結果は妥当・穏当なものして受け止められた。そもそも受賞結果は審査員の顔ぶれ(その中でも特に審査委員長:今回はエミール・クストリッツァ監督)に大きく左右されるもので、必ずしも作品の優劣ではないのは十分理解しているものの、カンヌに関して言えば宣伝効果が絶大なだけにどうしても注目して、あれこれ言いたくなってしまいがちである・・・。
(写真:本年映画祭カタログの表紙)

 コンペ部門の大部分を巨匠が占めたのに対し、バランスを取る関係か「ある視点」部門では新人監督の作品が並んだ。また「アウト・オブ・コンペ」部門も忘れてはならない。‘スターウォーズ’シリーズの完結編「スターウォーズ・エピソード3/シスの復讐」、「オペレッタ狸御殿」、「マッチ・ポイント」(ウッディ・アレン監督)など話題性・娯楽性に富んだ作品が出演したスター俳優・監督の登場とともに上映され、映画祭を華やかに彩った。特に「スターウォーズ・・・」の上映日はパレ(映画祭メイン会場)近くの沿道に、スターウォーズのキャラクターの扮装をした人々が現れたり、大変な盛り上がりであった。


日本からの出品作品
 
今年は特にラインナップ発表直前まで朗報が聞こえて来ずやきもきさせられたが、結果的にはシネフォンダシオン以外の全部門に日本映画が入った。メインコンペ部門には「バッシング」。過去にも他部門への参加ということでカンヌ入りしていた小林政広監督の4度目にして満を持してのコンペへの出品となった。映画祭開催翌日に上映されたこの作品は主演女優・占部房子氏の演技には賞賛が集まり、公式上映終了後には温かい拍手に包まれた。しかし一部に好意的意見を耳にするも、残念ながら全体的には厳しい評価となってしまった。中東で人質となった後、帰国した女性が日本でバッシングを浴びる、という現実に起こった事件を下敷きにした作品だが、バッシングを受けた背景説明が排除されていてなぜバッシングを受けるかがまったく理解できない、と不可解さを嘆く声も聞かれた。「ある視点」には青山真治監督の「エリ・エリ・レマ・サバクタニ」、カンヌに馴染みの深い浅野忠信氏、青山監督には固定ファンもいるらしかった。「監督週間」には小栗・柳町両ベテラン監督という顔ぶれ。10年近くの歳月を経て完成させたそれぞれの新作の恰好のお披露目の場となった。ちなみにカンヌ再訪は小栗監督は15年ぶり(90年「死の棘」:審査員賞受賞)、柳町監督は20年ぶり(85年:「火まつり」)とのことであった。好感触を得て、両監督ともに久しぶりのカンヌを堪能していた様子だった。
(写真:監督週間出品作「カミュなんて知らない」の柳町光男監督と、主演の吉川ひなのさん)

 そして今回、日本映画の中で最も明るい話題をふりまいたのは批評家週間の「運命じゃない人」であろう。監督作品第1,2作のみの作品を7本選出するこの部門は、大変アットホームな雰囲気に包まれている。傾向はまちまちの7本の中でもこの「運命・・・」は軽快なリズム、巧みな構成力に加え、笑いの要素も十分にとりこまれ好評を博した。結果、‘フランス作家協会賞(優れた脚本に与えられる)’と‘金のレール賞(Rail d’Or)’、最優秀ドイツ批評家賞、最優秀ヤング批評家賞の各賞を受賞するに至った。
 映画祭終了直前に鈴木清順監督へのオマージュとして上映された「オペレッタ狸御殿」もたいへんな盛り上がりを見せた。カラフルな映像、突飛なストーリーのミュージカルは特に外国人の目に新鮮に映ったようだ。

 アメリカで映画製作の勉強をしてきた内田けんじ監督は英語にも堪能、パーティの場等でも積極的に交流を図っていた。最近の監督・俳優の方々には英語に長けている人々が増えていて頼もしい限りである。また俳優のオダギリ・ジョー氏が「オペレッタ狸御殿」の上映に大幅に先立ってカンヌ入りし、単独でどんどん映画をご覧になっている様子が見受けられ、こちらもまた頼もしい限りであった。


日本ブース
 
カンヌ映画祭は大国際映画マーケットでもある。従来からリヴィエラ(パレ隣接のマーケット会場)内に個別にブースを構えていた数社に加えて、今年はさらに出店が増加、この現象は日本の芸能誌にも取り上げられた。日本映画が「売れる」時代になりつつあることの一証明といえそうだ。昨年に引き続いてInternational Village内に「ジャパン・パビリオン」がジェトロ(日本貿易振興機構)とユニジャパン(日本映像国際振興協会)によって設けられ、日本映画関係者の集いの場として、日本映画関係の取材・インタビューの場として、日本映画情報発信の場として多くの人々に利用されていた。ハッピーアワー時に振る舞われる日本酒も好評。またパレ(メイン会場)内には「ジャパンパビリオン・アネックス」としてのブースも設置、単独でのブース出店が難しい日本の業者の商談の場としても機能していた。
 多くの人が足を運ぶマーケット会場だが、よりプライヴェートな状態での商談を好む業者の中には会場内へのブース出店ではなく、パレ近くのホテル内の一室を拠点にする会社も多い。日本からは鰹シ竹が長い間この形を取っている。知名度も浸透し、外国の業者との繋がりもある程度確保した後には、松竹に続く日本の会社も増加するかもしれない。


日仏映画協力覚書

 映画祭会期半ばには日本映像国際振興協会(ユニジャパン)とフランスのCNC(国立映画センター)との間で、「日仏映画協力覚書」の調印がなされた。両国間でお互いの国の映画がより多く公開されるための環境整備、両国間の共同製作協定締結に向けた関係構築を目指すもの。調印式後に行われたジャパンパビリオンでの記者会見には、与謝野馨氏(財団法人・日本映像国際振興協会会長)、渡辺修氏(ジェトロ理事長)、角川歴彦氏(東京国際映画祭チェアマン)が出席。またパリ在住の映画監督、辻仁成氏が自身の原作をもとに監督する「幸福な結末」が、日仏合作の第一作となる見込みであるとの発表もあった。
(写真:調印の記者会見にて。左より渡辺氏、与謝野氏、角川氏、辻氏)



今回のカンヌ映画祭に出席された日本人の方々の中から、
映画祭について振り返っていただきました。


内田けんじさん (批評家週間出品作「運命じゃない人」監督)

 
カンヌ映画祭の印象といっても、僕にとって映画祭自体がはじめてのことだったので、他の映画祭とくらべてどうのうということは言えないわけですが、とにかく昔から持っていたカンヌ映画祭のイメージとは全然違いましたね。なんかもっと上品で静かで文化的な感じなんじゃないかと勝手に想像してました。実際は非常に活気があって下世話な感じでしたね。いきなり「宇宙戦争」と「スターウォーズ」のでっかい看板が目に入ったのが影響してるのかもしれませんが。 街のあちらこちらにある映画館にパスをぶら下げた人たちが行列を作っている様子は遊園地みたいでしたし。意外と言えば「運命じゃない人」みたいなタイプの映画が出品されたこと自体も意外だったですね。批評家週間では、上映後にQ&Aの時間がありまして、直接観客からの質問なんかに答えたんですが、始まる前はなんか妙に怯えてましたね。きついこと言われるんじゃないかとか、小難しいこと聞かれるんじゃないかとかですね。実際は全然フレンドリーな雰囲気で、みんなやさしかったんですけれども。考えてみればもともと僕のほうに相当カンヌに対して偏見があったような気がしますね。フランス人はアート系の映画しか好まない、みたいな。ブラジル人は全員サッカーうまい、みたいなアホみたいな偏見が。最後の上映の後に、高校生くらいのフランス人の集団が、緊張した顔で、一生懸命英語で話しかけてきてくれたのがうれしかったですね。一緒に写真撮ってくださいとか言われて泣きそうになりました。





内田けんじ監督と、
批評家週間の選考委員、
ヴァレリー・ディベールさん



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