コダックVISIONアワード
(福岡観客賞)
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『私はガンディーを殺していない』
(I Did Not Kill Gandhi)(インド)
監督:ジャヌ・バルア
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映画祭カタログ表紙 |
「・・・私たちは、アジアの近隣諸国についてどれくらい知っているだろうか。アジアの映画作品にフォーカスを当ててきたこの映画祭に惜しみない賞賛を贈ります。この先進的な精神が続きますように。」レスター・ジェームス・ピーリス監督のメッセージを読み上げた監督の妻、スミトラ・ピーリスさんに大きな拍手が贈られた。
アジアフォーカス・福岡映画祭2006は、スリランカ映画『母』で幕を開けた。スリランカ映画の父と謳われるピーリス監督の通算20作目となる最新作で、これが世界プレミア上映となる。戦地に行った次男を心配するあまり病んでしまう母と、仏僧であるが故に家族として母に付き添えないジレンマに悩む長男。内戦を背景に、年老いた母と3人の子の関係を静かに描いた作品である。映画祭ディレクター佐藤忠男氏の上映希望に、ピーリス監督はワールドプレミアの場所に福岡を選んだ。これまでスリランカ映画を正当に評価してきた場所への敬意を込めて。87才でこの映画を完成させた監督は、高齢のため来福こそ適わなかったものの、上映前にスミトラ・ピーリスさんに電話で福岡を称えるメッセージを託した。
アジアの映画人との信頼、永年の実績とお互いを尊重し評価する心。それを基に成り立っている貴重な映画祭。私はそこに参加できたことを本当に幸せに思った。
開場を待つ観客 |
16回目となる映画祭に、アジア15カ国25作品が集まった(協賛企画を含めると15カ国47作品)。25作品中16作品が日本初公開。ここでしか観られない作品もある貴重な機会だ。作品上映後には、福岡市民だけでなく、海外のゲストからも質問が寄せられ、会場は映画祭ならではの空気に包まれる。
台風が福岡に最も近づいた17日の晩も、映画祭上映は予定通り行われた。アジアマンスの野外イベントは、16日午後のみの決行と大幅な変更となり、17日夕方からは商店やデパートも閉店。上映の前後に交通情報を随時アナウンスしたり、会場出口に問い合わせ電話番号を掲示したりと、映画祭スタッフも対応に追われていた。会場では、悪条件の中で集まった観客を前に監督が感動している様子が伝わってきた。映画祭が作品を大切にしていることは、映画の字幕を訳した人が、原則としてその作品のゲストの通訳をしていることからも感じられた。「まず作品ありき」、その精神なのだと思った。
参加ゲストのサイン |
今年は、コダックVISIONアワード(福岡観客賞)が創設された。対象作品の第1回目上映時に、観客に5段階評価で投票してもらい、その平均点が最高になった作品が選ばれる。細長い投票用紙を思った点数のところで折るだけの簡単な方式に、初めて投票する観客も楽しんで参加していた。投票の結果、インドのジャヌ・バルア監督の『私はガンディーを殺していない』が初の受賞作となった。バルア監督も、今までの作品が福岡で何度も上映されている監督のひとり。『私はガンディーを殺していない』は、インド・アッサム語映画監督として知られる彼の、初のヒンディー語映画。ガンディーの非暴力精神を比喩に、現代社会の問題が認知症の父と家族の姿を通して描かれる。冒頭から映像の力に引きこまれる力強い作品で、インド国内でも高い評価を受けている。監督には、次回作のためにフィルムが授与された。
ディレクターの佐藤忠男氏が校長を務める日本映画学校卒業制作として作られた2本も大きな実りのひとつだと思う。
『エイン』(「エイン」は「家」の意)は今年卒業したばかりのミャンマー出身モンティンダン監督作品。『はい毎度!』は日本に留学していた韓国のファン・ビョングク監督が1998年に撮ったもの。どちらも日本で暮らす外国人の姿を追った作品で、一緒に上映されたことでそれぞれの個性と国の背景が伝わる好対照な2作品となった。ファン・ビョングク監督は、新作の『ウェディング・キャンペーン』も上映された。
タイの青春映画『親友』が西鉄ホールを満場にした翌々日、タイのクーデターのニュースが届いた。『母』の上映時の佐藤忠男氏の言葉を思い出した。「戦争、内戦、テロの頻発、民族紛争。今、この厳しい状況の中でアジアの映画人が平和を求めてメッセージを発している。それをきちんと受けとめたい。」
映画館を“台風の目”にしたアジア映画旋風は9月24日まで吹き続いた。
モンティンダン監督(左)とファン・ビョングク監督(右)
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