2006/1/25-2/5

長編劇映画部門
グランプリ
 Izobrajaya Zhertvy (Playing the Victim)
     by Kirill Serebrennikov (Russia)
審査員特別賞
 This is England  by Shane Meadows (UK)
最優秀女優賞
 Adriane Ascaride  for Le Voyage en Armenie
    by Robert Guediguian
最優秀男優賞  Giorgio Colangeli  for L’aria Salata  by Alessandro Angelini
功労賞  ショーン・コネリー
*日本からの出品作品はこちらから



CINEMAバス

CINEMAバスの発着所

概観
 ローマにおける本格的な国際映画祭の発足はイタリア国内のみならず、世界中の映画(祭)関係者の一大関心事であった。ローマ市、ラツィオ州、そして民間スポンサーからの莫大な予算(約15億円)とバックアップを背景に、ローマ市長Walter Veltroni氏が発案した同映画祭は華々しく開幕した。メイン会場はローマ市北部に位置するレンゾ・ピアノの設計によるオーディトリウム。本来は音楽ホールであるが、映画祭期間中は4つのスクリーニングルームを中心に映画祭事務局、レストランや書店が含まれた広々とした一大ベニューとなっていた。オーディトリウム以外にも市内各所の映画館での上映。観光名所にも即席のモニュメントやビデオクリップ上映、市内各所で映画祭の開催を謳っていた。特筆すべきは市内中心部とオーディトリウムを結ぶ運賃無料の‘CINEMAバス’。相当な頻度で運行しており、大変に便利(明らかに映画祭べニューまで行くのではないと思われる市民も多数乗車・・・が、それはそれで良しという雰囲気であった)、他の映画祭でシャトルバスを当てにすることはほとんどできないことを考えるに驚きである。
 懸案の‘ベネチア映画祭との差別化’であるが、世界の映画人の集う優雅なリド島で繰り広げられる非日常感溢れるベネチア映画祭に対し、ローマ映画祭は大都市ローマの市民を観客の中心して、市民参加型の映画祭として性格付けようとしている印象を受けた。市民衆知の、市民の参加しやすい映画祭として2002年の開催以来ニューヨーク市民に支持されているニューヨーク・トライベッカ映画祭との提携関係を発表し、プログラムの一部に同映画祭からの作品を取り入れたり、同映画祭創設者のひとり、俳優ロバート・デ・ニーロ氏がゲストとして登場するなどトライベッカ映画祭のような位置付けを目標としていることをうかがわせた。

 
街の中に飾られた映画祭のポスターや看板

 「市民参加型」を標榜する姿勢はユニークな審査形態にもうかがえる。公募で映画祭審査員を募ったところ3000人の応募者があり、その中から面接などを経て選出された50人の市民審査員の意見をエットーレ・スコラ監督を団長としたプロの審査員団がまとめるという形。審査結果発表後、スコラ監督はこの形式での審査を振り返り「オーケストラのようだった」とポジティヴなコメントを出した。
 会期中に不幸にもローマの地下鉄事故が発生し、数名が死亡、複数名が負傷したことを受けてレッドカーペットなど華やかな催しが一時自粛された。そのあたりにも「ローマ市の」映画祭である、ありたいという思いが感じられた。



映画祭を訪れた子供たち

ALICE NELLA CITTA
 
市民重視の映画祭としての姿勢は随所にうかがえるが、その際だった例が‘ALICE NELLA CITTA(=Alice in the city)’セクションであろう。既存の児童映画祭をローマ映画祭の一セクションとして取り込むことで、児童層を獲得することに成功。引率の先生に連れられてレッド・カーペット上で集合写真を取ったり、遠足または社会科見学の様相で映画鑑賞を楽しんでいる様子であった。その日のことはパスをもらってうれしそうにしている彼らの記憶に刻まれるであろうし、次世代の観客育成という意味でも好ましい。このセクションの映画上映は大人の観客の少ない日中に行われ、映画祭べニューを終日賑わわせることにも貢献していた。



オーディトリウム(奥)とレッドカーペット

オーディトリウム内で
映画祭ディレクターのジョルジョ・ゴゼッティ氏(左)

出品作品
 1回目の今回はイタリア及び近隣のヨーロッパからの参加者がほとんどであった。とはいえ作品そのものは世界各国より集まった。169の上映作品のうち、アメリカ合衆国から52(回顧上映含む)、イタリアより48作品は群を抜いているが、選考委員たちの努力の甲斐あってトータル32カ国からの秀作が選出、上映された。
 話題性の高いハリウッド映画の上映に際しては知名度も華もあるハリウッドスターを多数招聘、彼らの姿はレッドカーペットに彩りを加え、一般紙の見出しを飾るなど祭典ムードを盛り上げた。インターネットを通じて早々とチケットの先行販売を行ったことが功を奏して売り切れの上映が続出、「チケットが手に入らない」との苦情が多く寄せられたという。映画祭事務局にとってはうれしい悲鳴だったに違いない。
 映画祭のスタイルに関してはさておき、作品選考においてはベネチア映画祭との違いを打ち出すのは容易ではないようだ。高い芸術性をもった映画のプレミア上映で定評のあるベネチア映画祭に対して、では大衆的な作品で展開するのかと思いきや、そうでもない。ベネチアで上映されても違和感のないであろう作品も多く・・・。選考委員たちのジレンマがうかがえる。これからの課題であろう。
 日本からはコンペティション部門にイタリアで根強い人気の塚本晋也監督の新作「悪夢探偵」、児童向け映画部門アリーチェ・ネラ・チッタに「ブレイブ・ストーリー」の二本が出品された。塚本監督は実際に出席、喝采を浴びた。・・・が、時差を利用して「同日ワールドプレミア」上映を行った釜山映画祭へ急遽飛ぶという事態になり、のちに見た‘釜山映画祭での塚本監督’の写真には心なしかお疲れの色が感じられた・・・。他にもスケジュールをやりくりして両方の映画祭へ出席した関係者も少なくはなく、新規映画祭開催における時期の設定の難しさを痛感する。


ビジネス・ストリート
 ローマ中心部の高級感溢れる、ヴェネト通りを「ビジネス・ストリート」と銘打って、ローマ映画祭を訪れる業者たちの商談の場となるようセッティング。10月14-16日バイヤー、セラーといった売買に関わる業者の人々はもれなくこの通り沿いの高級ホテルに滞在。毎日近隣の映画館(一般の商業映画館であるが、この期間貸切り)で数多くの試写が組まれた。かつて11月にミラノで行われていたフィルムマーケットの代替とは言わないが、それに準ずるような商談の場をヨーロッパで、という思いが発案の元であるという。今年は映画祭からの招待を受けて様子を視察するつもりで参加した業者がほとんどだったそうだが、同時期に釜山映画祭でのアジア・フィルム・マーケット、11月初旬に控えるアメリカン・フィルム・マーケットとの兼ね合いの中、来年以降はどのような展開を見せるのか、要注目である。



オーディトリウム敷地内にて
カフェ(左)と行き交う人々(右)




      
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