釜山国際映画祭
10th PUSAN International Film Festival
2006/1/25-2/5

the VPRO Tiger Awards
 Love Conquers All  by Tan Chui Mui (Malaysia 2006)
 The Unpolished  by Pia Marais (Germany 2007)
 Bog of Beasts  by Claudio Assis (Brazil 2006)
 AFR  by Morten Hartz Kapler (Denmark 2006)
Tiger Awards for Short Film  Video Game by Vipin Vijay (India, 2006)
 Hinterland by Geoffrey Boulange (France, 2007)
 Bayrak (The Flag) by Koken Ergun (Turkey, 2007)
The NETPAC Award  「14歳」廣末哲万監督
国際批評家連盟賞
(The FIPRESCI award)

 YO by Rafa Cortes

The KNF
(the jury of Dutch film critics)

 Operation Filmmaker by Nina Davenport

the KPN Audience Award  Das Leben der Anderen (Lives of Others)
 by Florian Henckel von Donnersmarck (Germany 2006)
*日本からの出品作品はこちらから


アムステルダムから電車で約1時間のオランダ第2の都市、ロッテルダム。第2次世界大戦で破壊された後に建てられた、個性的な近代建築物で知られている。今年で36回を数えるロッテルダム国際映画祭も、独立系で革新的、また実験的な映画作品のセレクションで著名な、世界有数の映画祭だ。今年のロッテルダム国際映画祭は、昨年を上回る、のべ367,000人(映画上映の他、イベント等も含む)の入場者数を記録して12日間の幕を下ろした。



De Doelen内。エスカレーターの踊り場には
ポスターがびっしり貼られている

The VPRO Tiger Awards
監督第1作、または第2作が対象となるコンペ部門には、8つのワールドプレミア、4つのインターナショナルプレミア、3つのヨーロピアンプレミアからなる、15作品が上映された。映画祭のオープニングをコンペ部門のLa Antena(The Aerial)(Esteba Sapir監督、ブラジル)が飾ったことも話題であったが、通常3作品が選ばれるTiger Awardsが、今回は4作品が選ばれる結果になった。各作品には、賞金として10,000ユーロが与えられ、オランダの公共テレビVPROでの放映が約束される。今回は、Bog of Beasts(Claudio Assis監督、ブラジル)とAFR (Morten Hartz Kapler監督、デンマーク)が10,000ユーロの賞金を折半することとなった。

その他、主な部門として、新進の監督作品を紹介するCinema of the Future: Sturm & Drang、映像作家の個性に焦点をあてるMaestros: Kings & Aces、世界各国作品のパノラマCinema of the World: Time & Tide とそのドキュメンタリー部門である Images from the Region、強烈な個性を放つRotterdammerungなどの長編部門と、短編部門のShort: As Long As It Takes、実験短編映画を扱うShort: Starting from Scratchが設置されている。また、毎年2人の監督作品の特集上映が行われるが、今年は、アフリカのAbderrahmane Sissako監督と香港のJohnnie To監督が選ばれた。なお、ほとんどの作品は、英語字幕(あるいは英語作品)で上映される。オランダ語字幕上映は、今回約300の長編の内、25作品だった。また、映画・ビデオ作品の枠を超えた、インスタレーションも多数展示されていた。

上映会場に入る際、観客賞投票用紙(写真左)を配られる。5段階で採点し該当の箇所を破る方式だ。連日、日刊紙Daily Tigerと映画祭ウェブサイトで、この平均点のランキングの累計を刻々と公表しており、観客の映画選びの良い指標にもなっている。最終結果の日本映画の最高位は、『パプリカ』の31位だった。


De Doelen のBox Office

市の中心部にあるDe Doelenは、コンサートホールに会議場の機能を備えた施設で、上映の他、賞の発表やミーティングの場として、映画祭の主な機能を果たしている。1FのBoxOfficeには毎朝9時からチケットを求めて長い列ができ、隣のCafeは終日映画祭ゲストで賑わっている。映画祭ゲスト/シネ・マート/プレスの各デスクのフロア、映画祭出品作のビデオ鑑賞ができるVideo Libraryや今年新設されたSales Club(売買担当者が自由にミーティングに使えるスペース)、ビジネスセンターが設置されているフロア、そしてCineMartのフロアに分かれている。ほとんどの映画祭会場とホテルは、このDe Doelenから徒歩圏内にある。この区域に世界各国からの数千人に及ぶゲストや地元のシネフィルが集まり、600人のボランティアが働くこととなる。


De Doelen1Fのカフェ



上映会場Cinerama(7スクリーン)

CineMart
企画マーケットの元祖ロッテルダム映画祭。24回目を迎えるシネマート(CineMart)は、1月28日~2月1日の5日間、841組のゲストを迎えて開催された。CineMartへの出品希望企画は、年間520に及ぶ申込がある。ここから企画は45前後に選抜され、CineMartの場で、企画者である監督やプロデューサーが、出資を検討する側である共同プロデューサーや基金、配給会社、セールス担当者らと“お見合い”をする。今年は48のプロジェクトが選ばれ、日本からは、大森立嗣監督のTARO THE DUMBASSが出品された。1対1のミーティングやパーティイベントの他、CineMartゲストのための朝食やランチの場が設けられており、商談と人脈作りに効果的に機能している。
近年、アジアの状況で言えば、中国の作品をヨーロッパのプロデューサーがプロデュースして市場に出す、というケースが増えてきているそうだ。プロデューサーとしては、手腕をふるうキャリアとして中国作品を重要視する傾向があり、製作者の側では、自国で劇場上映が適わない場合でも国外にチャンスを見出すことができる、という状況があるのだろう。
今年の映画祭上映作品の中で10作品が過去にCineMartに出品された作品である。山下敦弘監督の『松ヶ根乱射事件』も2006年のCineMartに出た企画だ。

上映作品の情報だけでなく、インターナショナルな配給など、プロフェッショナルな質問にも答えられるコンサルタントを揃え、情報提供をするのは、ロッテルダムならではであろう。
また、直後に開催されるベルリン国際映画祭を始め、ニューヨークのIndependent Feature Projectや、カンヌやプサンなどの映画祭マーケットとの協力体制も整っている。



右奥:De Doelen
手前:上映会場Pathe(7スクリーン)

Hubert Bals Fund
ロッテルダム映画祭を創設したディレクターの名をとった、映画祭の核のひとつである基金、Hubert Bals Fund。資金援助の必要なアジア、中東、東欧、アフリカ、ラテンアメリカの国々の映画プロジェクトを援助する。年に2回、助成対象プロジェクトが決定され、制作・ポストスクリプト・配給の各段階でカテゴリー分けされた10,000から50,000ユーロの助成金が与えられる。完成した作品は、ロッテルダム映画祭でのプレミア上映が約束され、作品発表の機会を得られる。(だが必ずしもロッテルダムがプレミアでなければならないという束縛は無い。他の映画祭で先にチャンスに恵まれればその上映を妨げることはない)1988年のスタート以来、600以上の映画作品に資金が与えられてきた。だが今年、主な出資先であるthe Dutch Ministry of Foreign Affairsが、援助のカットを申し出てきた。HBFの120万ユーロの年間予算の内、ほぼ6割の収入が2年の内にストップするというのだ。映画祭側は正式に抗議をしているが、今後の動きが非常に心配だ。今年のロッテルダムでは、20作品がこのFundを得て完成・上映されている。Tiger Awardを受賞したLove Conquers AllもHBFを得た作品である。

Hubert Bals Fundを与えて企画を発展させ、CineMartに提出。更に資金等を得て形となった作品がTiger Awards部門で発表する機会が得られれば、新人監督にとって次につながる結果となる。次の作品企画をFundやCineMartに出す際にも前作がキャリアとなる。映画祭が単なる作品発表の場だけで終わらない、真の新人監督育成が、HBFとCineMartが加わることで実現しているのだ。助成金削減の打開策が、早急に望まれる。



『十四歳』のQ&A。左は脚本の高橋泉さん、
右は廣末哲万監督

日本からの出品作品
短編を含めると、9部門に30近くの作品が上映された日本映画。アクション映画から、スリラー、アニメ、若者や女性を描く作品まで、様々なタイプの作品がラインナップされ、満場になる上映が何度も見受けられた。ロッテルダムの観衆は、Q&Aで矢継ぎ早に質問を浴びせるタイプではないようだが、上映後のQ&Aでも多数の観客が残り、熱心に監督の話に耳を傾けていた。また、上映後に個々に監督に感想を一生懸命に話している観客の姿もあった。

コンペティション部門に日本映画として唯一選ばれた『14歳』が、最優秀アジア映画としてNETPAC賞を受賞した。廣末監督は、昨年の『鼻歌泥棒』に続く2回目のNETPAC賞受賞となる。この作品は、日本映画の中でも特に上映後のQ&Aの場で積極的に質問が出た作品。14才という年令を描く対象に選んだ理由として、「実体験で印象深い年代。未熟なのに内面的な感情の高まりがあり、不安定な時期。精神的に、ある一線を越える瞬間があり、魅力的な年令だから」と応え、「この年令の時に、どんなに“どん詰まって”いたかを忘れてしまった大人にその感覚を思い出してもらえれば」とQ&Aを静かに結んだ監督の姿が印象的だった。


Special
今回のロッテルダム国際映画祭に参加された方に、
映画祭について振り返っていただきました。

緒方直純さん(オランダ在住。映画祭にスタッフとして参加されました。)

普通映画を見る人に監督の顔は見えないのではないかと思う。観客主体のこの映画祭は実際に監督達に会える機会を作ろうとしているイヴェントだ。それはどう組織するかにも現れている。この期間働くことになった私の同僚は様々な国籍の人達で、英語は勿論日中仏伊独露が主言語だ。30人程の常任スタッフ以外に期間中130人以上に膨れ上がる。普段は全く映画産業に関係ない人達が映画祭に『参加』するために働いている。


監督が挨拶する映画館で関係者の出入りチェックをしていた人は建築科の学生だった。興味のある日本映画の多い上映室担当の彼は上映前に挨拶質疑応答にくる監督達に会うことができてよかったといっていた。

このような人達は数多くいた。スケジュール管理をする私の同僚達も期間中だけ参加する人達であった。スコットランドに住み映画祭で働いたことのあるスペイン人、オーストリアから来た東欧映画祭での実務経験のある映画史専攻の女学生、写真を学んだ女性等映画に興味が有る人達が選ばれていた。

監督達も当然様々な国籍に及んでいて私の担当は日本人監督が多かった。母国語で英語を話している人達は殆どいない。事務局主催のパーティでは毎晩関係者が集まってくる。マレーシアの監督は関係者に会う度に資金繰りが日本のようにはいかないことを話していた。ディナーで同席した東欧の有る国からきたプロデューサーは助成金を与える機関の検閲が製作内容と観客を限定する話を事務局長に話していた。皆資金繰りや映画の評判にいい影響を与えようとしている。製作資金や制度面からの問題を解決するための交渉をしているというのが多数の招待客達の印象だった。くつろいで楽しむ雰囲気の中でそのような話題が飛び交っていた。日本の監督達も批評家達と話していたし有る程度英語の出来る監督は自分で挨拶をしていた。その監督に触発されるように他の日本人監督達も何となく身振り手振りと単語でコミュニケーションを図っていた。

この国では『随伴者』(ベゲライダー)という役割を重要視する。我々が代わりにやってあげるのではなく当事者が独力で何かを行っていくのを横で見守っていて不安感の有る瞬間を一緒に乗り切れる様にするそんな感じの役割だ。

招待監督達と接触する人たちはその‘ベゲライダー’と定義されていた。そこにオランダ的な事務局の方針を感じ、気軽に何かを聞けて意思疎通を促進するという姿勢で監督達と接しようとしていた私は日本人監督と他国監督や観客の意思疎通の機会が自然に発生することを願っていた。

本部のチケット窓口には一般観客と関係者が混じってくつろげるラウンジがある。映画祭中盤にそこで 日本、マレーシア、台湾と様々な国の監督達をお互い紹介する機会があった。最初の緊張が解けると片言でも話が通じることがわかってきた監督達は話をするようになってきた。

ラウンジで監督同士が話しだした時ある青年が私に話しかけてきた。「日本やアジアの映画に興味があるけどどれがいいかわからない。」「ちょうど監督達がいるから直接話をきいてみればいい。」彼を監督達に紹介した。最初は戸惑っていたがその場にいた6人のアジアの監督に会える自分の幸運に気がついてどの映画がいいか(そしてそれを目の前の『どの』監督が作ったのか確かめながら)問いかけ始めた。私は日本の監督達が話をあきらめない程度に助け舟をだした。

全体として観客も映画祭で働く人も監督達も巻き込もうとしている映画祭だと感じられた。とかく監督と観客は双方の考えていることを知りたがりながらも躊躇してしまう。その躊躇を取り除くような事務局の努力が実ってくれることを願う。



      映画祭情報トップページへ

Home | お問い合わせ| ©Kawakita Memorial Film Institute All Rights Reserved.