パルムドール
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The White Ribbon by Michael Haneke |
グランプリ |
The Prophet by Jacques Audiard
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審査員賞 |
Fish Tank by Andrea Arnold |
最優秀監督賞 |
Brillante Mendoza
(Kinatayのディレクションに対して) |
最優秀女優賞 |
Charlotte Gainsburg
(of Antichrist by Lars Von Trier) |
最優秀男優賞 |
Christoph Waltz
(Inglorious Bastards中での演技に対して)
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最優秀脚本賞 |
Lou Ye (Spring Fever) |
特別賞 |
Alain Resnais (Les Herbes Folles) |
カメラ・ドール
(新人監督賞) |
Samson and Delilah by Warwick Thomton |
黄金の馬車賞 |
河瀬直美監督 |
*日本からの出品作品はこちらから
メイン会場のパレ
パレの前に集まるたくさんの人々 |
◆概観◆
昨年秋からの世界的大不況の影響はカンヌ映画祭をも直撃した。昨年のカンヌでも全体的な参加者の減少を感じてはいたが、今回はその比ではなかった。目抜き通りも映画祭会場もレストランも例年みられる大混雑はなかった。パーティも減少もしくは規模縮小(食事をカットし、ドリンクのみに抑えるなど)。期間中に映画祭側が出した発表によると微減とのことだが、最終的な数字を待ちたいところである。
コンペティション部門のアメリカ映画はタランティーノ監督最新作『イングロリアス・バスターズ』一本ということもあってか、ハリウッドスターの来訪も比較的少なかった。TV・雑誌等のメディアにとっては絵になるシーンが減少したのは痛かったのかもしれないが、落ち着いていてこれはこれで良い。映画祭会場パレの入場時のチェックも大幅に緩和され、スクリーニングも通常より遅い時間に到着してもほぼ問題なしで、参加者としては観賞時の快適さは増したといえる。
今回は3Dアニメーションの『カールじいさんの空飛ぶ家』が開幕作品として選ばれた。アニメ映画での開幕は史上初。しかも3D。このあたりにも新しいものへの挑戦も果敢に推し進め、伝統の死守に走らないカンヌの精神を感じる。コンペ部門の20作品のうち、アメリカ映画は前述のとおりタランティーノ作品のみで(しかも今回は舞台は第二次世界大戦中のフランス。英語・フランス語・ドイツ語が飛び交う作り)、全体としてはヨーロッパ映画とアジア映画の存在感が際立った。ラインナップ発表時にはカンヌの常連である監督たちの作品が羅列されたリリースを見て期待を膨らませたが、実際にはそれらの監督たちの最高作とはいえない、少々残念な作品が多かった。とはいえ、全体的に満足度の高い作品が多かったのは多くの人の意見が一致するところである。2時間を超える長尺な作品がほとんどであったのも今年のコンペ部門の特徴であった。そして今回もまた、中国政府からマークされているロウ・イエ監督やパレスチナ人としてパレスチナ問題を取り上げるエリア・スレイマン監督など、政治的にセンシティブな監督たちの作品を積極的に応援する映画祭側の姿勢が見て取れた。(もちろんこれらの作品に力があるからであるが)
沿道に掲げられた映画祭のポスター |
今回の審査委員長は女優・イザベル・ユペール。女優としてはカンヌの常連でフランスを代表する演技派として名高い彼女を含め、審査員9人中女優が5人を占めるという、やや異例の構成であった審査員団の下す結果の行方に注目が集まった。その中でミヒャエル・ハネケ監督の深い人間洞察に基づいた、非常に完成度の高い『ホワイトリボン』のパルム・ドール、フランスのとある刑務所内での勢力抗争とその中でのしあがってゆくアラブ青年の姿をスリリングに時にスタイリッシュに描いた『預言者』のグランプリ、また『イングロリアス・バスターズ』において、ナチス将校を多言語を駆使して演じ切ったクリストフ・ワルツの主演男優賞にはほぼ誰もが納得であったが、それ以外の賞に関しては総じて驚きをもって迎えられた。
ある視点、監督週間部門にも秀作が目立つ回であった。しかし外国映画の不振の日本映画興行の折、コンペ出品作であっても日本での配給が決まっている作品はごくひと握り。商業的な大成功とはいかないまでも、日本において良質な外国映画がきちんと上映され、しかるべき観客たちに評価される日は戻ってこないものだろうか。
◆日本映画◆
昨年に引き続き、コンペ部門への日本映画出品は叶わなかった。公式部門の中では‘ある視点’部門の『空気人形』のみ。また監督週間には諏訪監督とイポリット・ジラルド監督の共同監督作『ユキとニナ』が一本。この二作ともにそれぞれ好意的に受け止められていた。この日本映画の出品作の少なさに関しては政治力やセールスエージェントの有無云々、いろいろな要因を挙げる人がいるが、またそういう力が全く作用しないとは言えないが、突き詰めれば映画祭がぜひとも上映したいと欲する作品が今回の日本からの応募作品の中に上記作品以外見当たらなかった、という極めて真当な理由が一番当てはまっているのではと改めて思う。もちろんコンペ出品作品の中にも首をかしげたくなるものも混ざってはいるので、「時の運」も大きく作用しているのは否定できないが。
カンヌ映画祭に出品するのがすべての作り手にとっての目的なわけではないことや、映画祭の好む作風とは合致しない秀作も多く存在するのは言うまでもないことだが、カンヌ映画祭を目指している作り手の多さを考えると、この食い込めなさはどうなのだろうという気になる。是枝監督、諏訪監督もカンヌ映画祭は初めてではない。加えて昨年の黒沢清監督、今回監督週間より‘黄金の馬車賞’という功労賞を贈られた河瀬監督など、この10年ほどでカンヌに作品が選出された日本人監督は非常に固定化されていて、新規参入がほとんどなされていない。いろいろな意味で圧倒的なインパクトを持った作品を矢継ぎ早やに見せられたカンヌ期間中、日本映画の繊細さに物足りなさを覚えずにはいられない。製作体制、人的交流どちらの面においても海外との連携がその突破口のひとつのように思われる。
ビーチに設置された大型スクリーンでの無料上映 |
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