ハレクラニ・ゴールデン・
オーチャード賞
(劇映画部門) |
Empire of Silver 「白銀帝国」
Cristina Yao監督 (中国・香港・台湾)
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ハレクラニ・ゴールデン・ オーチャード賞
(ドキュメンタリー部門) |
Petition 「北京陳情村の人々」 Zhao Liang監督 (中国) |
マーヴェリック賞
(演技賞) |
Maggie Q in Warrior & The Wolf 「狼災記」
(中国・香港・日本・シンガポール)
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プーマ新進監督賞 |
Children of Invention Tze Chun監督 (アメリカ) |
NETPAC賞 |
Castaway On the Moon 「キム氏漂流記」
Lee Hey-Jun監督 (韓国) |
観客賞 |
<劇映画>
Precious! Lee Daniels監督 (アメリカ)
Barbarian Princess Marc Forby監督 (アメリカ・イギリス)
<ドキュメンタリー>
Pidgin; The Voice of Hawaii Marlene Booth監督 (アメリカ) |
*日本からの出品作品はこちらから
オープニング記者会見の様子 |
◆概観◆
今年のハワイ国際映画祭はカンヌ映画祭でも絶賛された韓国映画『母なる証明」で幕を開け、2週間にわたる期間中に36カ国から170本あまりの作品が上映された。今回は経済不況の影響から大スポンサーが降板し、昨年に比べ厳しい予算の中での開催となったという。プログラミングは従来通り、環太平洋地域の作品が主で、実に多様性に富んでいた。なかでも開幕当初から話題を呼んでいたのはハワイ最後の王朝の王女、プリンセス・カイラウニを主人公に据え、その波乱に満ちた生涯を英国人監督が描いた『Barbarian Princess』であった。プリンセス・カイラウニはハワイでは非常に親しまれ敬愛を受けている歴史上の人物なだけに、製作者側の真意はどうあれタイトル中の‘Barbarian’(野蛮な・教養のない)という言葉への反発は相当強く、映画祭オープニングの記者会見でもちょっとした議論になってしまったほどであった。内容に関しても賛否両論あった同作品であったが、リクエストの多さから追加上映もなされ観客賞を受賞。今年のハワイ映画祭を大いに盛り上げた一作であったことは間違いない。
南国ムードいっぱいのメイン会場、
リーガル・ドールキャナリー・シアター18 |
メイン会場のリーガル・ドール・キャナリー・シアター18はワイキキ市中心部を抜けて空港へ向かう途中にある。車社会を生きている地元の人々にはそれほど不便ではないのだろうが、タクシーもバスもなかなか通らないため行き帰りはいつもなんとなく不安がつきまとった。映画祭の観客の年齢層はやや高め。上映前には老若男女問わずポップコーン(巨大)やコーラを買うべく長蛇の列に並ぶがあたりに‘アメリカ’を感じた。
今年も多くの日本映画が上映された。他国の作品はテイストもバラエティに富んでいるのだが、日本映画に関しては商業性の非常に強い作品が極端に多い。在ハワイの日本人の多くが望んでいるという事情もあるのであろうし、またたしかにどこまでもリラックスしたハワイの空気には、ひたすらストイックな、哲学的な作品はフィットしなさそうだが。
◆"A TRIBUTE TO MADAME KAWAKITA" (川喜多かしこトリビュート)◆
ジャネット・ポールソン・ヘレニコ氏(左)と、
ハワイ映画祭プログラムディレクターの
アンダーソン・リー氏(右)
第17回川喜多賞受賞者でもある
平野共余子氏
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川喜多記念映画文化財団は2008年に当財団創設者、川喜多かしこの生誕100周年を記念し、国内外でさまざまな記念行事を催した。その中のひとつとして東京国立近代美術館フィルムセンター及び国際交流基金との共催で、川喜多賞受賞者8名の監督の作品をそれぞれ3本、計24本選び、英語字幕付ニュープリントを世界10都市以上での巡回上映があり、今回のハワイ映画祭ではこの中から4本の作品上映と、川喜多かしこについて語るパネル・ディスカッションが行われた。川喜多かしこはハワイ映画祭の創設時からさまざまな形で同映画祭に協力しており、アメリカ人映画評論家で日本映画をいち早くアメリカに伝えたドナルド・リチー氏らとともにたびたび同映画祭を訪れており、審査員を務めたこともある。そんな縁もあり、個人的にもかしこにひとかたならぬ敬意を持ち続けてくださっている前・ハワイ映画祭ディレクター、ジャネット・ポールソン・ヘレニコ氏とハワイ大学名誉教授ヴィクター・コバヤシ氏の主導の下、Netpac (Network for Promotion of Asian Cinema), Asia
Pacific&Film.com, National Resource Center East Asiaそしてハワイ映画祭の共催でこの企画が実現した。ハワイではここに至るまでご尽力してくださった方々を実際に前にして感謝の思いを新たにした。また当企画のオープニングレセプションにおいては在ハワイ総領事、加茂佳彦氏が心のこもったスピーチをしてくださった。改めて感謝申し上げたい。
映画祭側が上映作品として選択したのは『羅生門』、『生きる』、『黒い雨』、『ツィゴイネルワイゼン』の4本。なかでも通好みの『ツィゴイネルワイゼン』は長尺な上に難解、かなりアート色が強いことから、入場者数や退席者の心配をしていたが、意外なほどに反応が良く、満員の客席からは途中退席者は出なかった。思えば約30年前にきわめて斬新であったこの作品だが、今観るとその意表をついた展開やシュールな映像はポップでスタイリッシュ、かなり現代的とも言え、現代の観客にはそれほどの違和感はなかったのかもしれない。黒澤監督の二作品の風格と完成度の高さには皆ひたすら満足げであった。どちらも非常に知名度の高い作品であるが、スクリーンでの観賞は初めてという人々も少なくなかったのではないだろうか。真珠湾や大規模な軍事基地を擁するハワイで『黒い雨』を上映するのはまたひと味違った意味合いがあったように思えた。4作品の上映の中で、観客の年齢層がもっとも幅広かったのはこの作品であったと思う。終映後、観客のひとりが発した「これは全世界の人々が観るべき、反戦映画だ」との言葉が印象に残った。
それぞれの作品の上映前には日本とニューヨークを拠点に幅広く活躍されている、映画評論家であり大学で教鞭も執られており、また川喜多賞受賞者でもある平野共余子氏による素晴らしい解説があった(『ツィゴイネルワイゼン』の回のみヴィクター・コバヤシ氏)。観客の方々は平野氏の語る、撮影・公開時のエピソードや当時の文化背景などに熱心に耳を傾けていた。上映後の質疑応答は時間の関係上どうしても短くなってしまったが、ロビーでも平野氏に質問や感想を語ってゆく観客が後を絶たなかった。
パネル・ディスカッションではコバヤシ氏の司会の下、平野氏とヴィマール・バラスバラマンヤン氏(The East West Center教授・かしことの面識も深い)が壇上で、ジャネット氏が客席から、かしこの行った活動の意義などをアットホームな雰囲気の中語ってくれた。川喜多財団作成のカタログやハワイ映画祭側が独自に制作した川喜多夫妻を紹介する小冊子を配布したところ多くの人々が熱心に読んでくれ、夫妻について、また特に川喜多財団の現在の活動に興味を示してくれる質問がいくつか出たのはうれしい限りであった。
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