金熊賞
 GEGEN DIE WAND (Head-On) by Faith Akin
銀熊賞
 審査員賞
  
EL ABRAZO PARTIDO (Lost Embrace) by Daniel Burman

 最優秀監督賞
  
SAMARIA by KIM Ki-Duk  

 最優秀女優賞
  Catalina Sandino Moreno “MARIA, LLENA ERES DE GRACIA”
  
Charlieze Theron “MONSTER”

 最優秀男優賞
  Daniel Hendler “EL ABRAZO PARTIDO”

アルフレッド・バウアー賞
 MARIA,LLENA ERES DE GRACIA (Maria, Full of Grace)
  by Joshua Marston
キンダーフィルム部門
 スペシャルメンション
 
「バーバー吉野」 荻上直子監督
国際批評家連盟賞
 GEGEN DIE WAND (Head-On) by Faith Akin

*日本からの出品作品はこちらから


概観
 街のあちこちにポスターが飾られ、テレビをつけると映画祭絡みのニュースが連日大きく報じられている。そしてレッド・カーペット上を闊歩するスターたちをひと目見ようと会場に詰めかける多くの市民たちの姿を見かけるたびに、ベルリン市における映画祭の存在感を実感する。三大映画祭の中でも上映される作品の総数は群を抜いている上映本数だが、プログラムを熟読し作品を選び、辛抱強くチケット販売窓口の前に整然と列をなす市民に一種の感動を覚えたりもする。東西冷戦期は西陣営に属しながらも、東欧の映画が観られる貴重な場所であった同映画祭の特色は様変わりしたが、市民に誇りと愛着を持って受け入れられている状況は変わりがない。

 今年の新しい試みとして、ラテンアメリカ特集、アパルトヘイト政策廃止10周年を記念しての南アフリカ特集各部門を、共通の映画祭としての統一テーマに設定、各部門に関連作品が選ばれた。

 メインとなるコンペ部門23本の中で、最高賞(金熊賞)を授与されたのはベルリンに生きるトルコ移民に材を得た「HEAD-ON」。監督自身トルコ移民ドイツ人で、このテーマを身近に感じるドイツ人の間で評価の高かった作品であった。その他、洒落ていてその実、奥の深いパトリス・ルコント監督「CONFIDENCE TROP INTIMES」や、カメラワークの妙やセンスの良さにジャーナリストから喝采の起こったアメリカ映画「BEFORE SUNSET」なども注目された。が、コンペティション出品作品の低調さを指摘する声も残念ながら少なからず聞かれもした。

 恒例のレトロスペクティブは‘ニューハリウッド・1967-1976’と銘打って、アメリカン・ニューシネマの大特集を催した。「イージー・ライダー」「俺たちに明日はない」など著名な作品も多く上映される中、デニス・ホッパーやテレンス・マリック、ピーター・フォンダといったアメリカン・ニューシネマを象徴する俳優・監督の来訪に湧いた充実した企画だった。

 ベルリンのヨーロピアン・フィルム・マーケット(EFM)はここ数年アメリカン・フィルムマーケット(AFM)の影響で苦戦を強いられてきた。ベルリン映画祭直後にスタートするAFMに優先順位をつける業者たちが多く、EFMへの参加を見送る、もしくは早々に切り上げる人々が後を立たなかった。が、AFMの時期が来年から秋に変更されるのを受け、EFM場所は会場を移し、規模を拡大する方向で進んでいるという。今年から企画マーケットも併設された。前進を続けるEFMを見守っていきたい。


日本からの出品作品
 四半世紀ぶりに日本作品がコンペティション部門に入らなかったという意味ではたいへん残念な年ではあった。が、まあそれは選考委員会の決定なので仕方がない。パノラマ部門、フォーラム部門にもそれぞれ3作品で数年前の状況とは大きく異なっている。フォーラム部門では清水宏監督特集として映画祭会期中に3作品が上映され、映画祭後にも他作品の上映が続く。海外にほとんど知られていない日本の巨匠監督が紹介されるというたいへん喜ばしい試みである。キンダー部門で荻上直子監督の「バーバー吉野」がスペシャルメンションを受けたのは朗報であった。


タレント・キャンパス

 昨年から設立された映画制作者育成のためのプロジェクト。映像作家志望だけでなく、俳優、脚本家、プロデューサー、シネマトグラファー、映画音楽家も含まれている。応募に当たっては1分間の映像作品を作成して、その他の申請書と供に提出する。昨年は日本人参加者が皆無であったのが、今年はPRの甲斐あってか、8名が難関を突破し、晴れて参加となった(そのうちNY、イタリア、ドイツからそれぞれ1名ずつ参加)。
 事務局のスタッフにいろいろお話を聞いたところ、やはり前提条件として「英語は、できて当たり前」だということが、どうしてもアジア人応募者を制限してしまう。応募者数という点ではドイツ、イギリス、アメリカがベスト3だというのも納得。世界中の才能ある若者が集まっていたのだが、ジャーナリストはもちろん、そうした若い人々は、皆英語を話す。当然みんな英語がわかる、というところから話がスタートしているので、ベルリンでも、つまりドイツ語圏でも、映画に字幕スーパーもなければ、トークに通訳もおらず、全てが英語で行われる。

 2回目の今回は世界84カ国から520人ほどの「タレント」が難関を突破し、このプロジェクトに参加。第一線で活躍するプロ(今年はアンソニー・ミンゲラ監督など)の講義、指導を受けられる。受講料はすべて無料なのに加えて、映画祭側がユースホステル風の宿泊地をそれぞれに無料で提供するなど経済的なサポートも怠らない。
 しかし改善点も少なくはないようだ。特にワークショップほとんどは定員が40人であるため、受講にあたっては(先着順なため)早朝から何時間もならばなければならない点に苦痛を訴えていた参加者が目立った。
 とはいえ、世界中から志を一にする若者たちが接触し刺激しあうことによって生まれるエネルギーが充満し、会場は熱気に溢れていた。昨年度は具体的な仕事に結びつくという成果を得た参加者も多いと聞く。ベルリン映画祭の大きな特色となりつつある試みなだけに、試行錯誤を繰り返す中でより充実した内容のプロジェクトになっていってほしいものである。



今回のベルリン映画祭に出席された日本人の方々の中から、
以下の3名の皆さんに、映画祭について振り返っていただきました。

石橋義正さん (「The Fuccon」監督:パノラマ部門で上映)

 10年前に旅行でベルリンに行ったことがあります。私は当時まだ学生で、ロンドンに交換留学していた時の日本への帰りに遊びに立ち寄ったのです。壁が壊れてそんなに経っていない時だったので、街も今の様に綺麗ではなく、かなり寒々しい印象がありました。私は彫刻家のヤノベケンジ氏と一緒にいろんなアーティストのアトリエを訪問していました。かなりキテレツな作品制作をしているクレイジーな若い作家たちが集まっていましたし、その時の印象が非常に強いため、ベルリンはアーティな街というイメージが私の中であります。
 ベルリン映画祭に参加したのは今年が初めてのことでした。街が10年前とはすっかり変わって綺麗になっていました。昔の廃虚のような寒々しいベルリンも好きですが、今のベルリンも住んでみたいいい街だなと思いました。でもあらためて考えると、54年もこのベルリンという土地でこの大きな映画祭が続いているということ自体驚きです。
 今回出演者であり、マネキンであるマイキーを連れて行きました。マイキーは機内に入れてもらえず、カウンターで荷物預けの扱いとなってしまいました。大切なものだからと説明しても、航空会社は「割れ物」のシールすら貼ってくれませんでした。他のスーツケースやらと一緒にベルトにのって流れて出て来たマイキーは、毛布で厳重に梱包していたため、なんとか怪我もなく無事でした。1999年に「フーコン・ファミリー」で誕生したこのマイキーというキャラクターは、もともとテレビ番組のワンコンテンツでしかなかったのですが、長年この話を作り続け、そして今回5年目にしてスタッフ達と一緒に、この世界3大映画祭であるベルリン映画祭に来れたという事実、そしてベルリンの街でも道行く人に「Oh! Mikey!」と楽し気に指を差され、劇場でも笑いと拍手がおこっている状況を目の当たりにすると本当に感慨深いものがある、はずだったのですが、映画祭しょっぱなからひどい風邪をひいてしまった私は、そんなことを感じている間もなくホテルのベッドで熱を出してぶっ倒れているという残念な参加でした。

船橋 淳さん (タレントキャンパス参加)

 
タレントキャンパス、私はとても面白い現象だと思いました。
 ショートフィルムや処女作長編を撮ったばかりの監督、プロデューサー、俳優、作曲家などのクリエーターを世界中からかき集めて、出会いの場を提供するCo-Production Market でジンバブエとフランス、パキスタンとドイツ・オランダなどの共同製作のリンクが縦横無尽に行き交っているのを見ましたが、タレントキャンパスはその予備軍の予行演習の場と言えるのではないでしょうか。500人以上もいるのだから、オーガナイズが充分に出来ないのは当然。むしろ、そのカオスの中でいかに有益な出会いを見いだすかは参加者に掛かっているのだと思います。
 実際、私も何人か話の合うドイツ、フランス、アメリカ西海岸の監督・脚本家と出会い、互いにscript coverage をやって助け合おうという話になりました。この万博的なエネルギーは素晴らしいと思います。

小沢 禎二さん (タレントキャンパス参加)

 
朝早くに行って列に並ばなくてはならないのはかなりの苦痛です。それでなくても、遠くの国から来ているのですから体力的にも最後にはぼろぼろでした。
 世界文化館は良かったのですが、ケイタリングの食べ物が高すぎるって感じです。お皿に少しだけで5ユーロもとられるなんて、って気がしました。あと、スペシャル・プログラムの中にタレント・ムービー・オブ・ザ・ウィークっていうのがあるんですが、プロの経験のある人達が自分達の腕自慢をするために短編映画を1週間で撮るっていう企画です。プロ経験のある人よりも、ない人にチャンスを与えてきっかけにしてもらうほうが有意義だと思います。このタレント・キャンパスの主旨だってこれからの映画人を育てるっていうものだったはずですし。
 少し気になったのが、アジア系の人が一人もどの特別企画にも参加していなかったようなので残念でした。気のせいかもしれませんが・・・。

 


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