釜山国際映画祭
10th PUSAN International Film Festival
2006/1/25-2/5
Special
今回のロカルノ国際映画祭に作品を出品された方に、
映画祭について振り返っていただきました。
松本紀子プロデューサー
(Talking about Cinema出品作品、合田経郎監督「こま撮り映画・こまねこ」)

−ロカルノへっぽこ日記−

初めてプロデュースした劇場用映画『こま撮りえいが こまねこ(「こまねこ」って略します)』が「ロカルノ映画祭」に招待されました。これは、その初めてのロカルノ…映画祭行きの日記です。
初めてだし、一人で行ってるんだから時間もあるだろうし、日記でもつけるか…と思ったんですが、たらたらたらたら書いてたら、ひどくへっぽこな日記になってしまいました。

でも、まあ、いいか。未熟なプロデューサーの初体験日記。臨場感と思ってそのへっぽこ振りを見てやってくださいませ。

DAY0:8月4日以前
「ロカルノ映画祭」にエントリーしている『こまねこ』。
7月14日にサイト上で発表された入選作品に入ってない…といったん落胆したものの、しかし、やっぱり正式招待したいという連絡が18日に入った。結局は、「今年から新しく作ったセクション『About Cinema』に、やはり正式に招待したい。映画祭ホームページの最終選考結果をアップした時点では、『こまねこ』の招待は決まっていなかったので、掲載できなかった。」とのことらしい。
製作委員会で出品を担当してくださっているミコットの狩野さんのメールに「それなら、全部決まるまで発表しないでよ!んもー!」見たいなニュアンスを感じてシンパシー。
でもまあ、正式招待は喜ばしいこと。

ところで、あまり「どのようなところで、どんな映画祭なの?」とか意識していなかった「ロカルノ」。招待されるってコトは誰かが行ったほうがいいんじゃないの?ねえ?ねえ?と思いつつ、まあ、ここんところ、海外出張も多かったし。。。と控えるモードの私をはじめとするTYOプロデューサーチーム。監督の合田くんは次の作品の撮影が始まったばかり(これまた駒撮でけっこうボリュームあるわけだからさ…)で、出張なんてとんでもないっす、って状況。

そこへ、狩野さんから「プロデューサーとディレクターの2名は宿泊費を持ちます」って映画祭事務局から連絡がありましたよ〜という旨の連絡が…。
そこへ、追い撃ちで東沢(会社の後輩・プロデューサー)から「紀さん、フツーの映画祭にも行っといたほうがいいですよ。(私と合田くんは数年前から『どーもくん』と『こまねこ』のショートフィルムで海外のアニメーション映画祭には何本か参加しているが、いずれもこってりアニメばかりだったことを彼女は危惧しているらしい。)」と言われてだんだんその気に。「ホラ。そのうち、アカデミー賞とか獲ったときに、映画祭初めてだったってんじゃ格好つかないじゃないですか。」
よーし、いっそ休暇ってコトで、行くかァ!!!
映画祭デビューってワケね。

というわけで、半ば無理やり、「こまねこ」上映の前後の国内における己のスケジュールをぶっ飛ばして、ロカルノに向かうこととなる。

無理やりスケジュールを空けたときの常として、出発直前は酷い多忙期。
すなわち、「ロカルノってどこ?」ということを調べる暇もない。
「ロカルノってどこ?」…スイスだってことがわかったところまでで精一杯。
事務局からの連絡では、「ミラノのマルペンサ空港からシャトルバスが出ている」ということ。あれ?ロカルノってスイスじゃないの?スイスって空港ないの?
その謎を明かすこともなく、綾乃(会社の後輩、今回の手配を猛烈に手伝ってくれた)に言われるままにとりあえずミラノ行きの飛行機に徹夜明けで乗る私…
行ってきますー!


DAY1:8月5日(土曜日)
なにがなんだかわからず、綾乃の作ってくれた「バス乗り場はここですよ」の紙を持ってマルペンサ空港に降りる私。
すると…「Locarno Festival Shuttle Bus」と豹柄のプラカードを持ったおじさんが!!
「ロカルノ映画祭ロカルノ映画祭」と言いつつ近寄ると、すかさず豹柄のポロシャツの女性がやってきて「ここで待っててね」と英語で誘導。他にも何人かが集まって来て、やがて満員になるフェスティバル行きのバスに乗ることになる。

マルペンサを離れるとすぐに山に入るカンジ。緑に囲まれた中を走る車。
40分くらい走ったところで国境。係官らしき人がパスポートのチェック。スイスに入ったってコトだね。
ロカルノは「あ、ここがロカルノか」と高速から見ただけで判る、山に囲まれた湖のほとりの、暖かな灯りがいい感じの街。
バスが広場に着くとスタッフが充分な人数来て書類を渡し、必要な人は送っていってくれるわけ。予約が遅かった所為か、私のホテルは会場から遠くはなれた丘の上。きちんと送りの車が用意されている。これまた豹柄の車。
要するに豹柄はこのフェスティバルのアイコンなわけ。


豹柄グッズの並ぶスタンド
というわけで、ホテルに入った。(豹柄のタペストリーがかかってるね!)
湖にかかる港が見下ろせる素敵な場所だが会場は遠いだろう。ちゅーか、どの様に行けばいいのかわからない。まあいいや。
この街はまったくもって、フェスティバルに慣れているようで、突如やってきた映画関係者をこの豹柄アイコンでとても温かく迎えてくれるわけ。きっと明日も豹柄を目指せば会場につくことでしょう。
ホテルは小さくアットホーム。まあ、狭いんだけど、バスタブもあるし。
インターネットは「思ったとおり」使えない。まあ、思ったとおりだよ。
今日は早寝して、明日に備えよう。
明日は13時ピックアップでランチらしい。14時半からの「こまねこ」上映も見たいんだよなー。どうしよか。まあ、明日起きて考えよう。ちゃんとこういうメッセージが事務局から残っていることも安心感がある。豹柄のメモでね。


DAY2:8月6日(日曜日)
「こまねこ」めちゃめちゃ子供に受けた。
すごくこまかいところで子供が笑い、見ていた大人も喜んでくれた。
すごい充実感。エンドクレジットが始まったら拍手が沸いて、もうなんかジーンと来ちゃったよ。それだけで「来てよかった」と思われる瞬間。いろんなものが吹っ飛び、そして、面白いと信じてよかったと本当に嬉しかった。プロデューサーとして、自分の作ったものだから面白いと思ってしまっているのではないかという不安を、実はずっと持ち続けていたのかもしれない(意識してなかったんだけど、ここで気づいた)けど、本当にこれで安心した。
ありがとう。ロカルノの子供達。
本当にね、もう、「はじめのいっぽ」の電気スタンドから始まり、もちろん目が取れるところも笑い、「カメラの練習」の花が開くのを撮り損ねたところで笑い・・・ってもう、細かいところまで受けすぎ。終わったあとで沢山の人が「ありがとう」「メルシー」「サンキュー」「グラッチェ」と言いに来てくれた。すごいうれしかったよ。(注:「こまねこ」は60分の映画なんですが、それは「はじめのいっぽ」「カメラのれんしゅう」「こまとラジボー」「ラジボーのたたかい」「ほんとうのともだち」の5本の短編・中編からなるオムニバス形式で構成されている映画なのです)

今日は9時に起きて(9時間以上寝たな、日本じゃ考えられない)朝ごはんを食べた。
朝ごはんはパンがいろいろとチーズにハム、そして大きな壜にジャムが入ってる。
その後、腹ごなしに周囲を散歩したが、実は激しく山の上なのでちょっとした散歩が実はすごく大変で、1時間くらい歩いただけでかなりへばる。部屋に戻ってひとしきりへばった後、迎えの車でランチミーティングに。
そこでTizianaさんというプログラムディレクターと会い(この人がめちゃめちゃこまねこに惚れて上映を決めたらしい。ゆえに今日のPARDO新聞に「こま」が載ってたりもするんだろう。ちょっと誤植が多くて笑えるけど、すばらしいことだ!!)バイキングでランチ。
事務局のAlessiaさんという女性が本当に良くしてくれる。
2時過ぎにランチの場所を離れて、上映館へ。聞いたとおり子供が沢山。
で、上映前にTizianaさんに紹介されて、会社の国際部のスタッフに手伝ってもらった英語原稿でスピーチして、上映・・・で、今日の日記のアタマに戻るんだけど、本当に良かった。
終わったあと、何人かの人に声をかけられ、ベルギーのディストリビューターがコンタクトすると言っていた。すごい好きになってくれた模様。
もう、持ってきたチラシは日本語のものも含めてあっという間になくなる。みんな競って持って行ってくれる。
いや、もう、ここで日本に帰ったほうが良いかもってくらい充実感。
ああ、こういう映画を持ってこられるのはありがたいなあ。
合田くんありがとう。
素敵だよ。本当にね。
興奮して合田くんと東沢に電話。(深夜だっちゅーの。で、留守電に熱くメッセージ…ウザイ私)
明日の上映も張り切って行こう。


DAY3:8月7日(月曜日)
8時40分の迎えの車でリアルト1(劇場)へ再び。
客は・・・・流石に少ないよね。月曜日の朝9時だし。
昨日もいた劇場付きの男の子が「少し時間を遅らせて客を待ってもいいか?」と言われる。
気を遣うよね。ごめんね。

結局20〜30人くらいかな・・・そんなカンジで開始。
今日は英語をイタリア語に訳してくれる人もいないようなのでスピーチはなし。

今日の子供は人数が少ない所為か昨日より勝手気ままにリアクション。
「うふふふふふ」と笑うんだよな。字に書いたように。「うふふふふ」。
人数が少ないと、気ままな証拠に、途中から子供達が何かあると(特に不満があると)「にゃー」「にゃー」と言い出したりするわけ。それはそれで可愛くておかしいけど。(注:「こまねこ」は日本語のせりふのない映画。たとえば、主人公の「こま」は「にゃー」としか言わないので、そのまねをしているんですね)

でも、見入っている子供たちもいる。うれしいなあ。
で、やっぱり子供に一番受けるのは、「ラジボーのたたかい」の最後かな。(要するに、鳥のフンとかそういうところに反応するわけよ。んもー子供は万国共通。こういうネタが好きねえ)
上映が終わったら、また、ロビーで3,4歳の娘を連れたお母さんに「すごく良かった」と言われた。最後の1本(「ほんとうのともだち」という中篇)が「ハートウォーミングですごく感動した」と熱を込めて言われた。うれしい。「あなたはなんなの?」と言われて「プロデューサー」と答えると「ディレクターにも素晴らしかったと伝えて。本当にありがとう」と。
「スイスのオタク中学生っぽい3人組の少年」が近寄ってきて、イタリア語でにこにこと身振り手振りで話しかけられる。要するにやはり「よかった。可愛かった」といってくれている。何かグッズはないか、と言われて、日本語のチラシをあげると大喜び。

さて、夜はピアッツァ・グランデ(いちばん大きい屋外上映場)で映画でも観てみようかと。今まで入場のたびに事務局の人がアテンドしてくれてたけど、自力入場すると首からかけたパスがフリーパスだってことが実証されたよ。いやー素晴らしい。

ところで、ピアッツァ・グランデでいつもどおり「こま」ぬいぐるみと一緒に写真を撮ってたら(「こまねこ」のHPにスタッフ日記をアップするために、「こま」のぬいぐるみ込みで日々写真を撮っているんです)、「その人形が出ている映画を昨日観ました。あなたはその関係者なの?」と隣の人に声をかけられた。
ジュネーブから来た女の子2人組。
「彼女と一緒に映画祭に来ているんだ」と「こま」を指すと「えっ、女の子だったの?」ってやはり言われた・・・とほほ。「男の子が裁縫をするのは新しいなと思ってた」と・・・すごい解釈だ。「じゃ、最後の話のあの白い子(いぬ子ね)は、男の子なのね?」と言われて、「いや、やはり、女の子なんだけど」と言ったら「あら。。ごめんなさい。あはははは」みたいな。うーむ。合田キャラはユニセックスだけど海外だとさらに誤解濃度が高いよ。。。
しかし、こんな風に会話が弾むとは「面白い映画の関係者」であることは幸せだなあ・・・。
「動きもスムーズで素晴らしかった」「どのくらいの長さ撮影してたの?」と、流石に片方は映画を勉強している人らしい質問も。
いや、「こま」との記念撮影も馬鹿にしたモンじゃないね。
1本、スペインの映画を見てタクシーでホテルに。
ホテルに戻ると川喜多財団の坂野さんからちょうど電話。
明日は12時にランチの約束。


DAY4:8月8日(火曜日)即ち「終日ある映画祭生活」最終日。

坂野と松本氏。真ん中には「こま」も。
12時に坂野さんとのランチにあわせてケーブルカーで下界へ。
高台のホテルのそばにはケーブルカー乗り場があり、そこから会場へ行くのがとても便利だということで私の「通勤手段」はケーブルカーなわけ。ちょっといいでしょ。
坂野さんお勧めのイタリアンの店へ。チョウチョ型のパスタとサラダベルデを注文。ここでは意外と野菜を食べるチャンスを大事にしないといけない。
坂野さんは英語とフランス語がお出来になるわけだが、ここロカルノは「イタリア語」「フランス語」「ドイツ語」そして「英語」で映画祭が運営されている。
そうなんですよ。「英語」のプライオリティが低いわけ。いや、それでも坂野さんはきっとぜんぜん困らないんだけど、私は、いずれも不自由で英語さえもあまり自由でないので、結構スリリングな思いもあるんですよ。でも、今日は坂野さんのおかげでちゃんと食べたいものが食べられて幸せ…

いろいろな話をしながらランチ。
映画業界の話は新鮮。知っている(私のもともとのルーツである広告業界の)人の名前が出たりするけど、業界という「その人を見るアングル」が変わると違った人となりが見えてくる。でも、初対面の坂野さんともランチをしながら楽しく話が出来るのは、映画祭ならではなんだなーと思う
電話が壊れてる坂野さん(大変ダ、でも、海外においてはそれでいいのかも)に、Alessiaにかけるため電話を貸すと、「紀子と一緒なら彼女と話したがっている人がいる」と電話を替わられて英語でアタアタする。Alessiaから電話を替わったその人(Jayneさん)と8時に会うことになる。(こないだのランチのときにそばにいたから判るはず、と言われたものの、会ってみたら思ってたのと違う人だったんだけど。)
坂野さんとのランチで久々に日本語を喋り捲るカンジ?ちゅーかおしゃべり自体があまり無いからね。この「休暇」中は。

一旦ホテルに戻って荷物を置いて、Jayneさんに会うために下界へ。再びケーブルカーに乗って往復チケットを買おうとすると、「映画祭のパス持ってるならディスカウントだよ」と半額になる。なんダーもっと前から言ってよ、と思う。まあ、いっか。しかしこんなところまで、この街は映画祭参加者に優しいんだなあ。
Jayneさんにまた、「こま」を褒められまくり、そして「オフィスの男の子がめちゃめちゃ良いって言ってたわよ」とこれまたうれしいことを。(その「男の子」は25歳らしいけど)Jayneさんは要するにイギリスのいろんなフェスティバルを仕切ったり学校でアニメーションを教えている人なんだけど、来年の2月に行うロンドンの子供のためのフェスティバルに「こま」を貸してくれってことが話のテーマ。
「こま」って実は見てもらったほうがその良さがわかってもらえるんじゃないか、と思う。「キャラそのもの単体」より「映画」になったほうがキャッチーって言うか…こうやって世の中に出していくことは良いことなんじゃないか?戻ったら製作員会と相談しよう。こんな報告をしよう。アートアニメ談義に花を咲かせつつJayneさんとお茶をする(彼女はワイン、そしてタバコだけど)。

ところで、部屋に戻ってみると、月が山の陰からちょうど現れるところで、それは明るくて本当に美しかった。ほぼ、満月なのかな。。
月明かりの下でベランダに出て日記を書く。良い休暇ってカンジ。
あんまり休まなかったけど、スイッチはいつもオンだったけど、充実の休暇だ。


DAY5:8月9日(水曜日)ロカルノ本当の最終日
朝起きて最後の朝食を食べる。
小麦の粉のつぶつぶの美味しい茶色いパンよさようなら。
9時20分の迎えのタクシーで、そのまま下界に下りたらバスの出発の30分前に着いてしまう。荷物だけ預けて、絵葉書を出す。
本当にこのカンジをみんなと分かち合いたいから。若者よ(?)悪いコト言わないから、「いい作品を持って」この「映画を愛する街」に来てみるといいよ。
郵便局からもどったら、車を替わってくれと言われて、更に5分待ってと言われた。ちょうど車が着いてたのが事務局の真裏だったので裏口から事務局へ入り掲示板など見ているとAleesiaの後ろ姿。
声をかけてお礼を言う。「連絡を取り合い続けましょう」と言われる。
「あ、これ、ちょうど出来たの。来られなかったディレクターに渡して」と金色のPARDOのバッジをお土産にくれる。
Aleesiaとこまの記念撮影をしていよいよロカルノを発つ。
車中イタリア人(ナポリの人)の映画ジャーナリストと自己紹介しながら、マルペンサへ。
ずっと横向いて一生懸命英語しゃべってたらすっかり肩がこってきたけど、まあ、このあとも気楽な一人旅だから。(実はこの後飛行機がえらい混んでて大変なんだけど・・・)
というわけで、お疲れさま。

へっぽこ日記もここまで。にゃー。

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