カンヌ映画祭
  Festival de Cannes
  2007/5/16-27

Special
今回のカンヌ映画祭に出席された吉田大八監督に、
映画祭について振り返っていただきました。

吉田大八監督(批評家週間出品作品「腑抜けども、悲しみの愛を見せろ」

腑抜けカンヌに行く

5月20日 夕方カンヌin。17年前に広告祭で来て以来だけど、なぜか同じ場所のような気がしない。派手な看板や人出のせいで、「祭」が「街」を覆っているからだろうか。

5月21日 Canal+主催による、批評家週間の監督を集めた昼食会。定刻通りに行ったらもうなんとなく始まっていた。通訳の高橋さんと、空いた席に座ってビュッフェ。親善大使(?)ガエル・ガルシア・ベルナルは隣のテーブル。やがてディレクターのジャン・クリストフの司会で自己紹介大会が始まる。スペイン語圏の人が多かったので、なんとなくスペイン語6割・フランス語3割・英語1割な感じ。迷ったけど英語で喋ってみたら、意外とウケた。変な事言ったんだろうか?ガエルのスピーチ。7年前に「アモーレス・ペロス」で批評家週間に来て、人生が変わったというような話。誠実な人柄が出ていて、なかなか感動的だった。終わりの所で僕を見て「チョガッコイ」と言うので何かと思えば各国の監督に、お国の言葉で「映画を完成させたあなたたちは、それだけでsuper coolだ!」と賛辞を送ってくれていたのだった…いい人だ!続いて「友人」アルフォンソ・キュアロンもスピーチしたが、訛りがキツくてよく聞き取れず。夕方から、メイン会場となるEspace Miramarで批評家週間出品作の“Parpados Azules”観る。メキシコ映画。カウリスマキのような、日本の深夜ドラマのような、丁寧で小さいお話。主演女優が魅力的だった。夜、ビーチ沿いで批評家週間のパーティ。

5月22日 取材の日。パレの上にあるカメラドール・テラスにて、日本のメディアの皆さんからたくさん質問を受ける。夕方、ユニジャパンのパーティ。初対面の河瀬直美さんに挨拶。ちょっと会話しただけなのに、その落ち着きとオーラに正直ビビる。いちおう年上なのに情けない。外に出たら、ちょうどジュリアン・シュナーベル「蝶々は潜水服の夢を見る」の公式上映で続々とセレブがレッドカーペットを上っていく様子を、終わりまで見届ける。最後に大量の蝶を放した。夜、明日の正式上映を前にスタッフ・キャスト皆でクスクスを食べにいく。美味しかった。

5月23日 Espace Miramarにて第一回目の上映。午前中なのに入り口前に長い列が出来ていて感激。挨拶の後、客席で一緒に鑑賞。
批評家週間は、必ず短編と長編のペアで上映される。「腑抜け」とペアを組んだのは、ブルガリアの二人組が監督した“Rabbit Trooubles”という不条理モノ。自主映画っぽいアイディアだけど、空撮ありCGありで結構お金はかかっている。偶然「腑抜け」のファーストシーンと被っているところがあって、こっちの幕開けに意図しない失笑が起こってしまったのはやや無念だった。ブルガリア兄弟は「ベストなマッチングだよね!」と無邪気に喜んでいたが、そりゃそっちの映画は終わった後だからいいよな!とも言えず。しかし、全体に観客はよく笑い、拍手も出て、反応は良かった。といっても、初体験なので他と比較しようがないのだが。終わって皆と昼食の後、一度ホテルに戻って正装に着替える。夕方からカメラドールのイベントで、レッドカーペットを佐藤江梨子嬢をエスコートして歩くという大仕事が待っている。集合場所に “Parpados Azules”の主演女優がいたので、とりあえず映画を絶賛して歓心を買う。彼女も含めて、女優は皆サトエリが横に来ると反射的にイヤな顔をするのが面白かった。なにしろこの日のためにオーダーした着物ドレスを装着したサトエリは無敵のビジュアルインパクトを誇っていた。並んでカメラの前に立たなきゃいけないという立場を別にすれば、「腑抜け」の監督というよりは日本人として、ちょっとだけ痛快な気分だった。魚河岸か昔の証券取引所のようなカメラマンの怒鳴り声をくぐり抜け、ソワレでコンペの“The Edge of Heaven”鑑賞。ドイツの、トルコ移民の話。あまり共感できない登場人物たち。皆自分勝手だったりヒステリックだったり諦めが良すぎたり。すっかり太ったハンナ・シグラが出ていた。映画終わって、観客の拍手も今イチっぽいかんじですぐ途切れたのだが、監督・出演者たちに照明が当たると、また拍手が始まってそれが延々続いた。結局、儀式として必要なのだろうか?2階にいたのでよくわからない部分もあるのかも。
その後、Carltonに移動してディナー。普通のフランス料理を食べる。
同じテーブルにいた、おとなしいイスラエルのカップルが後にカメラドールに輝く二人と言う事をその時は知る由もなかった。
食事が終わってから、Espace Miramarでの3回目の上映をちょっと覗く。遅い時間にしては上々の入り。終わって、ホテルに歩いて戻る。へとへと。シャワーも浴びずベッドへ倒れ込む。昨夜から事務局が用意してくれたホテルなのだが半地下でバスタブも無いカビ臭い部屋で、息を深く吸うと具合が悪くなるような気がする。

5月24日 朝一の上映は当然パス。13時からプレスランチ。批評家週間選出委員会メンバーたちと昼食、のはずなのだが結局監督で来たのは僕一人だけ。4人の批評家が分厚いステーキを平らげながら次々と質問し、メモをとる。皆「君の映画が一番好きだ」と言うので、何か賞でも取れそうな気がしてくる。当然フランスにも社交辞令というものがあったわけだが。そのまま通訳のヴァレリさんと、Theatre La Licorneへ車で移動して上映。普通の観客が多い。例のブルガリア兄弟と一緒。上映後に出た質問は、FUNUKEという言葉の意味や、日本の夫婦関係、原作との違い等。一番前に座っていた真夏のサンタクロースのような老人が、「SAKURA SHIHORIの出ている忍者映画のタイトルを教えてくれ」と聞いてきた。申し訳ないが知らない。一度解散して、夜は車で30分くらいにあるValbonneという村にある映画館で挨拶とQ&A。シリコンヴァレーのような、技術者が多く住んでいるところらしい。インテリが多いので面白い質問が多く出るという話だったが、昼間とあまり変わらなかったような気がする。客は老夫婦が多く、変わった映画を監督したアジア人に、皆ニコニコしながら話しかけてきてくれて嬉しい。挨拶とQ&Aの間に村の広場で食事していたら、鳥にフンをかけられた。明日の批評家週間の賞の発表に向けてウンがついたね、などと言われて力なく笑うしかなかった。

5月25日 予定は夕方から。朝早く目が覚めたので8時半からの監督週間“Foster Child”をHiltonで観る。フィリピンの貧民街を舞台にした、社会派の人情ドラマ。出演者は素人だろうか?終わって出たところで、眼鏡のおじさんに呼び止められる。「昨日お前の映画を観た。俺は好きだ。お前にとっていいキャリアのスタートだと思う」と言われる。顔に見覚えがある。LicorneのQ&A の時、質問もせずニコリともしないでこっちを睨みつけていた人だ。意外な人に褒められていい気分になった。柿本プロデューサー達と待ち合わせて昼食。賞は何も取れなかったと連絡があったと聞く。少し落ち込む。身体が米を欲していたので、中華で白飯にスープをぶっかけて食べる。気を取り直して、午後一から、ある視点“Night Train”鑑賞。かなりスローな展開の中国映画。好きなところはあるけど、とにかく長かった。夕方から車に乗って Studio13でカンヌ最後の上映。「映画の最後で、待子は自由になったのか?」と聞かれる。幸せ/不幸せではなく、自由/不自由という軸で捉えようとするのはやはりお国柄だろうか。外国で質問されてる感じがして、ちょっと嬉しい。戻ってきて授賞式に行こうと思ったが、ヴァレリさんが「何も貰えないのに何故行くのか」と不思議そうな顔をしていたこともあり、会場から離れてシーフードを食べに行く。その後取材を一本受けた後、Miramarに戻って批評家週間グランプリの“xxy”を観る。ついに一日三本達成。アルゼンチンの女性作家が監督した、両性具有のティーンエイジャーを巡るドラマ。なかなか重量感のある演出、だったような気がするが途中で長い時間寝てしまったのでよくわからない。もちろん映画のせいではなく疲れのせいです。もし機会があればもう一度ちゃんと観たい。終わって、顔見知りのジャーナリストの皆さんを誘って一杯。閉店間際の店で、しみじみとカンヌを振り返ったりする。何が面白かったとか、何がつまらなかったとか。そういえば昔から映画祭というものに憧れていて、それは非日常の空間で浴びるように映画を観て暮らす、ということをしてみたかったからだった。そこで自分に質問。カンヌの最後で、幸せだったか?自由になれたのか?           うーん。


左から佐津川愛美さん、吉田監督、佐藤江梨子さん、柿本プロデューサー



      
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