カンヌ映画祭
 Festival de Cannes
  2007/5/16-27

金豹賞  ABRIR PUERTAS Y VENTANAS (Back to Stay)
 
 by Milagros Mumenthaler, Argentina/Switzerland
金豹審査員特別賞  青山真治監督
  「東京公園」及び同監督のこれまでの業績に対して
審査員特別賞  HASHOTER (Policeman) by Nadav Lapid, Israel
最優秀監督賞

 Adrian Sitaru for
  DIN DRAGOSTE CU CELE MAI BUNE INTENTII
  (Best Intentions)
, Romania/Hungary

最優秀女優賞  Maria Canale for
  ABRIR PUERTAS Y VENTANAS (Back to Stay)
   by Milagros Mumenthaler,Argentina/Switzerland
最優秀男優賞  Bogdan Dumitrache for
  
DIN DRAGOSTE CU CELE MAI BUNE INTENTII
   (Best Intentions)
新進監督コンペ部門
CONCORSO CINEASTI DEL PRESENTE
[Cineasti del presente金豹賞] L’ESTATE DI GIACOMO
   by Alessandro Comodin, Italy/France/Belgium
観客賞  MONSIEUR LAZHAR by Philippe Falardeau, Canada
新人監督賞  NANA by Valerie Massadian, France
VARIETYピアッツァ・グランデ  MONSIEUR LAZHAR by Philippe Falardeau, Canada
顕彰 [生涯功労賞] Harrison Ford
[ベスト・インディペンデントプロデューサー賞] Mike Medavoy
[名誉金豹賞] Abel Ferrara
[Excellence Award Moet & Chandon] Isabelle Hupert
*日本からの出品作品はこちらから



ディレクターのオリヴィエ・ペール氏

概観
 オリヴィエ・ペール氏がディレクターに就任して2年目、ペール氏の路線変更が順調に軌道に乗っているのが見て取れた映画祭であった。ロカルノの特徴であるインディペンデント作品の充実度は維持しつつも、大衆的な作品・クラシック作品等がバランス良くプログラミングされ、プレスの評判も上々。‘さまざまな種類の映画を愛し、敬意を持っている’というペール氏の、多岐にわたるジャンルから巧みにセレクトする技は、やはりさまざまな国・ジャンルの秀作の特集上映を組み続けるシネマテーク・フランセーズでのプログラミング経験が功を奏しているように思えてならない。ちなみに現在、ロカルノ映画祭の作品選考はペール氏を含む4人の専門家からなる委員会によってなされている(昨年の6名から2名減)。
 ここ2年の変化としてまず言及すべきはロカルノの一大特色である、大屋外上映会場・ピアッツァ・グランデの効果的な活用であろう。そもそもピアッツァ・グランデへやってくる観客の多くは映画もさることながら、あの壮大な野外空間での「イベント」体験を期待して来場する。深遠なテーマの、テンポの緩慢な作品は適しているとは言えない(が、その手の作品もかつては混ざっていた)。ペール氏の指揮の下、ピアッツァ上映は思い切りよく、祝祭的なステージへとシフトした。ハリウッド夏の大作3(Super 8』『Friends with Benefits』『カウボーイ&エイリアン』)がヨーロピアン・プレミア上映としてピアッツァ・グランデで華々しくお披露目されたのはその象徴ともいえる。観客にとっては言うまでもないが、配給会社等にとってもピアッツァでのプレミア上映は魅力的な選択であったことであろう。5月のカンヌ映画祭で上映された作品の中では『ル・アーヴル』及び『ドライヴ』の二作品がピックアップされたが、観客が大画面で楽しめる作品として非常に適していた。またピアッツァ・グランデはハリソン・フォード、ダニエル・クレイグ等のハリウッドスター、クラウディア・カルディナーレ、イザベル・ユペール、ジェラール・ドパルデューといった豪華ゲストが登壇する場でもあった。かなり先鋭的かつ芸術色の濃い映画祭、という評価を長年にわたって得ていたロカルノ映画祭に華やかさが加わった。ハリソン・フォードが生涯功労賞受賞というのには正直なところ少々驚きがあったが、十分な実績を有している俳優であることに間違いはない。
 ピアッツァ・グランデの最大の弱点は大雨になるとどうしようもないということである。が、こればかりは映画祭事務局の努力で何とかなるものではない。
 実際、会期前半の雨には悩まされたが、幸いにも上映直前に雨が上がってなんとか事なきを得た回が何度かあった。


ゴミ箱にも、映画祭のシンボルである豹が
可愛くペインティングされています

 日本の松本人志監督の場合と同様に、通好みの監督や俳優の3-4本規模のミニ特集上映が複数設けられた(クラウディア・カルディナーレ、ブルーノ・ガンツ、顕彰されたアベル・フェラーラ等)。特集される本人も映画祭に来場、ファンにはさらにうれしい企画である。通常、特集上映となると集大成に近い形となるため、一映画祭にひとつになりがちであるが(もちろんそれはそれで意義深い)、このミニ特集上映はコンパクトで比較的融通が利きそうな点も好ましい。大映画祭の常として、ロカルノにはこの‘集大成系特集上映’レトロスペクティブもかねてより存在し、毎回好評を博している。今回はヴィンセント・ミネリ監督の大特集。上映館のロケーションの良さや固定ファンに支えられ、ほぼいつも観客の入りが良い。そして内容はいつも期待を裏切らない。
 他の映画祭にも言えることであるが、ハード面でも進化し続けている。公式会見やセレモニーの様子がリアルタイムでストリーミングできるようになった。もっとも受賞式よりも前に受賞結果が公式HPに出てしまっていたのは残念といえば残念であったが・・。
 少々苦言を呈すると、上映会場のうち、空調に難があったり、老朽化が目立っていたりと改善の余地があると思われる場所も少なくはなかった。またヨーロッパ以外の地からロカルノへの渡航は決して楽ではない。日本から来訪する場合、多くの人はミラノ・マルペンサ空港とロカルノ間のシャトルバスを利用することになる。所要時間はだいたい1時間半〜2時間。このシャトルの便数、日に5本程度で、場合によってはひたすら待機を余儀なくされる。もう少し増やせないものだろうか・・。長距離のフライト後、さらに空港での待ち時間はかなりこたえる。
 そしてこれは特に今年の現象であるが、スイスフランがなんとも強く、ユーロとほぼ同等。もともと物価の高い場所だけに外食の際の値段には閉口した。(東京と変わらない、もしくはそれ以上)さらにきつかったのがタクシー代。ロカルノ市内だけのホテルでは収容しきれず、今年も隣町・アスコナにも多数のゲストが滞在した。昼間はシャトルバスでなんとかなるが、夜は早々になくなってしまい、毎回のこととなるとタクシーでの帰宅はなかなかこたえた。(ちなみに料金は日本の2倍くらい)



金豹賞審査員特別賞を受賞した
青山真治監督(中央)

日本映画
 今年のロカルノ映画祭においては日本映画の存在感が抜きんでていた。まずは5月末に早々に公式発表された松本人志監督のミニ特集上映。監督作は最新作を含め計3本にとどまる監督が映画祭で‘特集’されるのは例外的である。同映画祭ディレクターのペール氏は数年前に同監督のデビュー作『大日本人』をカンヌ映画祭監督週間に招待したまさに「発見者」、同監督の才能への敬意は並々ならぬものがあるゆえに実現した企画といえる。『大日本人』『しんぼる』の上映に加え、ハイライトは8000人収容のピアッツァ・グランデでの新作『さや侍』上映。通常コメディは外国ではなかなか理解されにくいものであるが、今回のロカルノにおいては大好評を博し、松本監督も感激の面持ちであった。
 最も注目を集めるインターナショナル・コンペティション部門に二本の日本作品が出品されたのも快挙であった。青山真治監督は静謐なタッチで東京の風景と、生死や人々の関係性を描く『東京公園』を出品、同作及び同監督のこれまでの業績に対して金豹賞審査員特別賞を受賞した。青山監督はかつて同映画祭で審査員を務めたこともあり、またスイスの名匠・故ダニエル・シュミット監督と旧知の間柄であったりと同映画祭とは縁が深い。またもう一本のコンペ作品『サウダーヂ』は受賞こそ逃したものの、(特にフランスの)批評家たちの間での評価が実に高く、各有力紙で絶賛を浴びた。批評家週間部門、アウト・オブ・コンペティション部門にも日本映画が出品され、批評家週間部門の『スケッチ・オブ・ミャーク』は同部門にてスペシャル・メンションを授与された。批評家週間は出品数が7本のみで、この部門に日本映画が選出されるのも非常に珍しい。それぞれの作品の関係者が多数参加したこともあり、日本映画関係の来訪者は総勢50名以上にのぼり、特に会期後半は稀にみる日本人の多い回であったといえる。

 観客が会場周辺の店などで、監督や制作者のところに直接感想を述べに来る場面に何度も遭遇した。いわゆるセレブリティや監督・俳優に関してもセキュリティーが過剰ではなく、交流の場が一般の人々にもある程度開かれており、作り手たちと大らかに語らえる雰囲気がある。作り手と観客、批評家やバイヤーなどプロフェッショナルな人々、そして映画祭で働く人々、皆が交流しやすい垣根の低い、フレンドリーな空気がロカルノの特色であると再認識した回でもあった。





      
映画祭情報トップページへ

Home | お問い合わせ| ©Kawakita Memorial Film Institute All Rights Reserved.