公益財団法人川喜多記念映画文化財団
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コラム
◇「父と暮せば」雑感 2010年7月7日掲載 <<コラム一覧へ戻る
8月31日から9月5日まで、私どもが鎌倉市の指定管理者をつとめる「鎌倉市川喜多映画記念館」で上映されることになった。黒木監督は私のもっとも尊敬する映画監督である。74年に黒木監督が発表された「竜馬暗殺」を見たとき、鮮烈な衝撃を受けた。というのも、その数年前、私もテレビで、竜馬と中岡慎太郎の友情をテーマにした“青春もの”を作っていたのだが、そのとき感じた“伝記もの”の難しさを見事に払拭されていたからである。私の作品では、竜馬と慎太郎が友情に結ばれていることを二人の生涯の出来事で綴ったものだったが、どうしても二人の人間像が浮かび上がらず、自分でもはっきりと失敗作と感じていた。ところが、黒木監督はわずか死の前の三日間の出来事で見事に二人の関係を描き出していた。私はこの作品を見たあとで、“伝記もの”を作りたいという相談を受けると、必ずこの話をし、描きたい人物のもっとも輝いている時点に絞ってシナリオ化することを薦めている。
そして、90年に勝新太郎主演の「警視K」シリーズで監督をお願いすることになった。長年の夢であった。早速に撮影現場を訪ねたのだが、驚いたことに、黒木監督はただニコニコされているだけで、勝さんが共演者に身振り手振りで演技をつけている。「勝さん、監督は黒木さんなんだから、少しひかえてくださいよ」と注文をつけると、「大丈夫だよ、黒木監督は誰がどんな芝居をつけても、出来上がればちゃんと黒木作品になっているよ」と全く意に介さない様子だった。確かに、出来上がってみると、勝さんの作品とは違う黒木監督の作品になっていた。勝さんの黒木監督への信頼の厚さに感心し、黒木監督の力量の素晴らしさに舌をまいた。
この黒木監督の反戦3部作といわれる「父と暮せば」は、キネマ旬報日本映画ランキング4位にランクされた名画である。戦争を直接描かずに戦争の恐ろしさを力強く訴えかけ、人の命の尊さを教えてくれる。ぜひこの名作映画を鑑賞していただきたいと思う。
主演の宮沢りえもこの映画でキネマ旬報ベスト・テン、ブルーリボン賞などで主演女優賞を獲得している。
岡田晋吉
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