公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
コラム
◇アメリカ映画といえばゲーリー・クーパー 2012年5月1日掲載
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2012年 4月1日(日)〜7月1日(日) 映画の都 ハリウッド 〜華やかなるスターの世界〜 |
詳しくは、 鎌倉市川喜多 映画記念館ホームページ |
本文でとりあげられた映画作品 |
6月5日(火)〜7日(木) 「昼下りの情事」 (1957年/130分) 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:I・A・L・ダイアモンド 出演:オードリー・ヘプバーン ゲイリー・クーパー モーリス・シュヴァリエ |
執筆者紹介 岡田晋吉 |
1935年、「鎌倉」生まれ、慶応義塾大学文学部仏文学科1957年卒業。 石原裕次郎とは慶応義塾大学の同期である。 1957年、日本テレビ放送網株式会社に入社。アメリカ製テレビ映画の吹き替え担当を経て、1964年から日本製テレビ映画のプロデューサーとなる。 作品は、アメリカ製テレビ映画:「世にも不思議な物語」「幌馬車隊」など、テレビ映画としては、「青春とはなんだ!」「飛び出せ青春」「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「俺たちの旅」「俺たちの朝」「あぶない刑事」「いろはの“い”」「俺たちは天使だ!」「忠臣蔵」「白虎隊」「警視K」など多数。 竜雷太を初めとして、松田優作、中村雅俊、勝野洋などを育てた。 現在は「公益財団法人川喜多記念映画文化財団」の業務執行理事。 |
「映画の都ハリウッド」の企画のなかで、どんなアメリカ映画を上映するかを決めることは難しい仕事だった。記念館で上映するには、日本語のスーパーが入っているプリントを探さなければならないのだが、アメリカ映画で、今上映出来る「日本語スーパーの入った映画」は数が少ない。その少ない作品の中から、鎌倉の皆さんが見たいと思われる作品を14本も選び出さなければならないのだから大変だった。おまけに、映画というものは、その映画を見た年齢、男女の違いなどによって、感動の度合いが違い、善し悪しの判断も変わってしまうので、Aさんが面白いと思った作品でも、Bさんが面白がってくれるとは限らない。出来るだけ幅広い年齢の方、男の方にも女の方にも喜んでもらいたいと思うのだが、そんな映画はなかなかない。苦心惨憺して集めたのがこのラインナップだ。
アメリカ映画の魅力は、きら星の如く輝くスターたちの魅力であろう。われわれは、出演俳優から上映作品を選ぶことにした。クラーク・ゲイブル、ジェームズ・スチュアート、タイロン・パワー、ケイリー・グラント、ヴィヴィアン・リー、イングリッド・バークマン、オードリー・ヘップバーンなどアメリカ映画を代表するスターの作品を選び出した。しかし、私にとっての最大のスター、ゲーリー・クーパーの主演する映画が見つからない。なにしろ、私が初めて見たアメリカ映画がクーパー主演の「打撃王」だったし、「摩天楼」を土台にしたテレビ映画まで作ってしまった熱狂的クーパー・ファンなので、何としてもクーパーの映画を上映したかった。そこで、本財団を支援して下さっている東宝東和さんに頼み込んでやっと「昼下がりの情事」の上映権利をとってもらった。自分の趣味で上映映画を決めさせてもらったような次第だが、この作品なら鎌倉のみなさんにも喜んでもらえると思った。
クーパーはアメリカ中から、否世界中から愛された俳優だ。良きアメリカ人の典型なのかも知れない。この映画でも、他人の奥さんと不倫をし、世間知らずの娘を誘惑する。しかし、観客は彼を非難しようなどとは決して思わない。むしろ、女性を心地よくもてなす金持ちのプレイボーイとして羨望の眼で見つめつづける。大人の優しさ、温かさを感じさせるからだ。彼は西部劇から、文芸もの、恋愛ものと実に幅広いジャンルの作品に出演しているが、その根本にある極めてアメリカ的な優しさと、頼もしさで、あの人懐っこい立ち居振る舞いとともに、アメリカの良さを表現しつづけてくれたからこそ、大スターになったのだと思う。日本人は戦後敵国だったアメリカの文化を意外とあっさり受け入れてしまったが、アメリカを認めるきっかけにクーパーがいたといっても過言ではないと思う。ぜひ、このクーパーの主演する「昼下がりの情事」を見て、「魅惑のワルツ」の名曲にのったラストシーンに酔いしれて、“おじさま”の魅力を堪能していただきたい。