公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇モントリオール世界映画祭 2010/8/26-9/6
Festival des Films du Monde
受賞結果 |
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Grand prix des Amerique (最優秀作品賞) |
OXYGENE (ADEM) by Hans van Nuffel (ベルギー/オランダ) |
Special Grand-prize of the Jury (審査員特別賞) |
DALLA VITA IN POI by Gianfrancesco Lazotti (イタリア) |
最優秀監督賞 |
LIMBO by Maria Sodahl (ノルウェー/スウェーデン/デンマーク/トリニテ・エ・トバコ) TETE DE TURC by Pascal Elbe (フランス) |
最優秀芸術貢献賞 |
VENISE (WENECJA) by Jan Jakub Kolski (ポーランド) |
最優秀女優賞 |
深津絵里 (「悪人」) |
最優秀男優賞 |
FRANCOIS PAPINEAU pour le film ROUTE 132 by Louis Belanger (カナダ) |
観客賞 |
PARAJOS DE PAPEL by Emilio Aragon (スペイン) DAS LIED IN MIR (THE DAY I WAS NOT BORN) by Florian Cossen (ドイツ) |
Golden Zenith for the Best First Fiction Feature Film (最優秀第一作作品賞) |
AMORE LIQUIDO (L'AMOUR LIQUIDE) by Marco Luca Cattaneo (イタリア) |
Best Documentary (最優秀ドキュメンタリー賞) |
CHE, UN HOMBRE NUEVO (CHE, UN HOMME NOUVEAU) by Tristan Bauer (アルゼンチン-キューバ-スペイン) |
◆概観◆
映画祭ポスターの飾られた街角 |
ショッピング・モール内にある 公式記者会見場 |
モントリオール世界映画祭は毎年8月20日過ぎに開催される。例年であれば秋の気配が漂い、年によっては寒いくらいであるが、今年は日本と同様に例外的な暑さ、9月に入っても30度以上という中で展開されていた。炎天下に長時間並んで開場を待つのはけっこうきついものだが(日傘をさすという習慣もない)、それでも相変わらず観客の入りが上々であることに驚かされる。忍耐強く列を作りつつ、お客さん同士が熱意をもって、そして楽しそうに情報交換をしている姿が印象に残った。
とにかくどこまでも市民目線の映画祭である。映画祭期間中はメインホテル地下のショッピング・モールにてあらゆる公式記者会見が行われる。まさに衆人環視の下で行われるのは見慣れたとはいえ、いまだ不思議な感じを禁じえないことがある。関係者以外でも自由に会見場に入場できる(質問もできる)。もちろん無料で事前予約も必要ない。このシステムはセキュリティ上、どうなのだろうかと思わなくもないが、映画祭側の姿勢はかなり楽観的で、どんな著名なゲストであっても基本的に同じ条件下で行う。いわゆるスターの来場の際に見物人で溢れ返ったとの話は何度か耳にしたが、アクシデントに発展したことはないそうだ。
また通常は関係者にしか門戸が開かれていない閉会式(とクロージング映画の鑑賞)もチケットの購入が可能(しかも10カナダドルと安価)。スター監督や俳優たちと晴れの場を共有できるのは映画ファンの市民にとってはうれしい措置に違いない。
野外の無料上映会場 |
メインホテルやコンペティション会場がある映画祭のメインべニュー一帯が再開発工事の真最中で、景観的には少々残念な状態であったが、この一帯をモントリオール世界映画祭やジャズフェスティバルなどの文化的催しのメッカとするための工事とのこと。完成予想図を見る限りでは期待できそうである。この工事に伴い、従来から好評を博していた夜間の野外無料上映の会場がより広場らしい場所へ微妙に移動(といっても100メートルも離れていないが)した。 映画祭のゲストはほとんど皆、事務局やインダストリーセンターが入っているメインのホテルに宿泊しており連絡を取り合うのは非常に容易だった。また映画祭側のはからいで、毎日夕方のハッピーアワーにはホテルのバーの一角が映画祭ゲストに開放され、ゲスト同士の交流を促進する一助となった。
ケベック州は北米唯一のフランス語圏、モントリオールは北米最大のフランス語が公用語の都市という背景も手伝って、同映画祭とフランス語映画との関わりは伝統的に非常に強い。フランスは言うまでもなく、ベルギー、スイスといった国の作品も数多く上映され、それらの国々からのゲストも多い。20本のコンペティション部門の作品の中に日本映画3本というのも多い気がするが、フランス映画はそれをさらに上回り4本(合作を含めると5本)入っていた。またマスター・クラスを行ったジェラール・ドパルドュー、特集上映に際してナタリー・バイなど華やかなフランス人ゲストが映画祭に彩りを添えた。
映画祭の財政事情は公的機関の助成金をはじめ、プライベートな企業からの援助も増し、数年前に較べて確実に好転している。モントリオール世界映画祭ならではの特徴を生かしつつ、市民に親しまれる映画祭であり続けてもらいたいとの思いを強くした。
◆日本からの出品作品◆
「BOX袴田事件 命とは」キャスト、スタッフの 記者会見の模様 |
今年は日本からは『必死剣鳥刺し』『BOX袴田事件 命とは』そして『悪人』、傾向の異なる三本がコンペティション部門に選出され、それぞれ好意的に受け止められた。三作品とも監督やキャスト、スタッフがモントリオール入りし、観客の生の反応を堪能した様子であった。一昨年の『おくりびと』のグランプリ、昨年の根岸吉太郎監督の最優秀監督賞(『ヴィヨンの妻』に対して)に続いて今年も日本映画の受賞が期待された。結果、『悪人』の深津絵里氏が最優秀女優賞を獲得するに至り、日本のメディアを大いに賑わせた。賞を決定する審査員団は国際色豊かでかつその顔ぶれも毎年変わり、映画祭の代表であるセルジュ・ロジーク氏は審査には加わらない。そんな中にあって日本映画の受賞が相次いでいるのは非常に興味深い事実である。ひと言で言ってしまうとこの映画祭との相性が良い、ということなのだろうが。『悪人』は受賞の数日後に日本での公開がスタートという絶好のタイミングで、公開への弾みをつけた。他の部門でもさまざまなテイストの日本映画が上映され、確固とした存在感を示していた。