公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇カンヌ国際映画祭 2022/5/17-28
  Festival de Cannes

 

**主な受賞結果**
パルム・ドール Triange of Sadness  Ruben Ostlund
グランプリ Close  Lucas Dhont
Star at Moon  Claire Denis
審査員賞 The Eight Mountains Felix Van, Groeningen, Charlotte Vanderneersche
EO Jerzy Skolimowski
名誉パルム・ドール Tom Cruise, Forest Whitaker
最優秀監督賞 Park Chan-Wook(for "Decision to Leave")
最優秀女優賞 Zan Amir Ebrahim ( in "Holy Spider" )
最優秀男優賞 Song Kang Ho ( in "ベイビー・ブローカー" )
最優秀賞脚本賞 Tarik Saleh ( for "Boy From Heaven")
カメラ・ドール War Pony Riley Keough, Gina Gammell
(スペシャルメンション): PLAN 75 早川千絵
エキュメニカル賞 ベイビー・ブローカー  是枝裕和
ある視点賞 Les Pires  Lisa AKOKA & Romane GUERET
ある視点・審査員賞 Joyland  Saim SADIQ
ある視点・監督賞 Alexandru BELC  (for "Metronom")
国際批評家連盟賞 ・コンペ部門: Leila’s Brothers  Saeed Roustaee
・ある視点部門: Le Bleu du caftan Maryam Touzani

 *日本からの出品作品はこちらから



**概観**


レッドカーペット。ビジュアルはトゥルーマン・ショー」のワンシーン
 

3年ぶりの通常開催となった第75回カンヌ国際映画祭。映画祭開催時のフランスは、新型コロナウイルス感染防止のための規制がほぼなくなっており、観光客も多数押し寄せ、終始好天に恵まれていたカンヌの街は祝祭感に溢れていた。(帰国後の検査や隔離がまだ残っている)日本を含むアジアからの参加者はまだ例年より少なかったとはいえ、ミーティングや各種パーティーも制限なしで決行されており、映画祭全体としては十分賑わいを取り戻していた。『トップガン マーヴェリック』『エルヴィス』といった大型ハリウッド作品のワールドプレミア上映がさらに映画祭を盛り上げた。なかでも名誉パルム・ドールを受賞し、マスタークラスも行ったトム・クルーズはファンサービスも含め存在感が別格で、映画祭スタッフからも感嘆の声が聞かれた。スターはやはり違う。

一方で、ロシアによるウクライナ侵攻が世界を揺るがせている最中での開催であり、その影響はあちこちに見受けられた。ウクライナのゼレンスキー大統領のオープニングセレモニーにおける演説の中継には驚きを禁じ得なかったが、政治色を明らかにすることに躊躇いのないカンヌ映画祭ならではといえる。ロシアの扱いに対しても映画祭側は「国としては拒否。体制に抗っている映画人たちの個人としての参加は歓迎する」との言葉どおり、国としての’ロシアパビリオン’の設置は許可しなかったが、ロシア人監督、キリル・セレブレンニコフの『チャイコフスキーの妻』をコンペティション部門に選出。この決定に対してウクライナ人からの抗議も少なからずあったとのことだが、以前より反体制の姿勢を明確にしており、現在はロシアから亡命し、他国にて創作活動を続けている同監督への判断は変わることがなかった。また、4月にウクライナのマリウポリで撮影中にロシア軍に殺害されたマンタス・クベダラビチュス監督の撮影映像を編集者と監督の婚約者がまとめた『Mariupolis 2』やウクライナ人監督のセルゲイ・ロズニツァによる新作『Nat?rali naikinimo istorija』がスペシャル・スクリーニング部門にて上映されるなど、カンヌ映画祭のウクライナ支持は明確であった。ちなみに日本からのカンヌ映画祭参加者への影響として、ロシア上空を通過する通常のルートでの渡航が叶わないため、大きく遠回りになったり、フライトがキャンセルになったりといった事態が多数発生した。





総じて好天に恵まれた
  
各種パーティが復活

昨年との大きな違いは、事務局やマーケット会場などが入っているメイン会場、パレに入るにあたってPCR検査の陰性証明も、ワクチン接種済み証明も求められなかったことである。マスク着用も推奨はされたが、義務ではなく、ほとんどの人が付けておらず東洋人と高齢者、そして映画祭スタッフのみに限られていたといっても過言ではない。通常の場面ではそうでもないとはいえ、大勢の人が密集し、大声で歓談・飲食するパーティー会場ではさすがに不安を感じた。だから、というわけではないが(たぶん)、映画祭期間中に陽性者がそれなりの数、出ていたそうである。日本からの参加者の場合、陰性が判明するまでは帰国できず、しばらくフランスに足止めされたという話を耳にした。

映画祭スタッフはマスクを着用

映画祭と連動して開催されるマーケットは、今年は基本的にリアル開催に戻り、一見するとまずまずの活況を呈している様子であったが、実際にはまだコロナ禍前の数字には戻っていなかったという。実際、日本からのマーケット参加者はかなり限られていた。オンラインスクリーニングは今年も実施しており、そちらを日本で利用した配給関係者も多かったようである。現地で顔を合わせる利点は数多いとはいえ、出張費や移動費を考慮するとためらうところがあるというのも頷ける。

今回の映画祭は度重なるシステム障害に見舞われ、アクレディテーションやチケット確保に苦心した人が続出した。一説では「サイバーテロ」との声もあったが真偽は定かではない。


**受賞結果**


コンペティション部門21作品は、過去のパルム・ドール受賞監督作品が4本(ダルデンヌ兄弟、ムンジウ、オストルンド、是枝)、加えて錚々たるベテラン監督たち、そして「ある視点」を経てコンペ入りした新鋭監督たち、といった内訳であった。秀作揃いというか、甲乙つけがたいというか、頭ひとつ抜ける作品がなかったというか、下馬評も割れる中、21作品10作品がなんらかの賞を受賞した。グランプリと審査員賞が二作品、75周年記念賞も。近年、同一の賞を二作品が受賞する傾向が続いている。決め切れないというのもわかるのだが、それを決めるのが審査員団ではないかと思えてならない。フランスの俳優、ヴァンサン・ランドンを委員長とした9人の審査員団がパルム・ドールに選んだのは、リューベン・オストルンド監督の『Triangle of Sadness』であった。オストルンド監督にとっては『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(2017年)に続き2回目の受賞となり、’パルム2回受賞監督’の仲間入りをした(他にビル・アウグスト、今村昌平ら8名と1組が存在する。3回受賞者は現在のところ出ていない)。オストルンド監督らしいといえばそのとおりなのだが、露悪的な場面も多々あり、過剰ともいえるグロテスクな表現に拒否反応を示す向きも当然あったが、それを上回る風刺の妙、次の展開が読めないスリリングで練られた脚本、現代社会への問いかけなど映画としての完成度には圧巻であった。
次点のグランプリ、新鋭ルーカス・ドン監督作の『Close』は期待どおりの傑作で、ベテラン監督、クレール・ドゥニの『Star at Noon』と賞を分け合った(グランプリがベテランと新鋭が揃って受賞する例もこの10年近く目立つ)。その他、概ね順当と言って良いであろう受賞結果であった。


Salle du SoixantiemeからSalle Agnes Vardaに名称変更した会場
 





**日本映画**


『PLAN75』公式上映

日本映画の存在感はそれほど高かったとはいえないが、一定の存在感を示していた。是枝監督の6回目のコンペ部門出品作『ベイビー・ブローカー』は、韓国のスタッフ・キャストで韓国語の韓国映画であるが、是枝監督の作品ということで日本と絡めての紹介をされていることが多かった。全面的な‘生命の肯定’を緩やかに表現する同作にはキリスト教団体からの賞であるエキュメニカル賞が授与され、主演のソン・ガンホ氏は最優秀男優賞を受賞した。韓国人俳優として初の快挙だという。日本映画としての朗報はある視点部門に選出された早川千絵監督の『PLAN75』であろう。今作は監督の長編初監督作品。早川監督は2014年に短編『ナイアガラ』がシネフォンダシオン部門選出されており、カンヌ映画祭へは二度目の参加であった。公式上映後には熱い感想が寄せられ、手ごたえを十分に感じたという早川監督であるが、結果、初監督作品のみが対象になる賞「カメラドール」の次点にあたる、‘スペシャルメンション’の授与という栄誉を得た。日本のメディアでも想像以上に大々的に取り上げられ、6月の公開への大きな追い風となった。公式上映の際に、作品紹介に立ったカンヌ映画祭選考委員のクリスチャン・ジュンヌ氏が「われわれが日本から‘新しい’監督をお迎えするのは久しぶりです」と言っていたが、これはカンヌ映画祭に出品する監督の固定化が進んでいたことを踏まえてのものであり、‘新しい’監督のカンヌ入りはたいへん喜ばしい。監督週間、批評家週間への日本作品の選出はなかったのは残念だが(この二部門への日本映画参加はどんどん厳しくなっている)、インディペンデント映画普及協会が運営するACID部門において、山崎樹一郎監督の『やまぶき』が上映されたのは快挙である。『ベイビー・ブローカー』は韓国資本、『PLAN75』そしてこの『やまぶき』、いずれも日本単独ではなく、他国との共同制作であり、スタッフや俳優も複数の国籍の人々が参加しているのが特徴である。今後もこの傾向は進むであろうと思われる。クラシックス部門では河P直美監督が総監督を務めた、東京オリンピック2020の記録映画『東京2020オリンピック SIDE:A』が選出された。公式記録映画を製作し続けており、2024年のパリ大会へも映画製作を継続することを明らかにしている国際オリンピック委員会(IOC)への敬意も込め、市川崑、クロード・ルルーシュら8名の監督による『時よとまれ、君は美しい/ミュンヘンの17日』(原題『Visions of Eight』1973年公開)とともに上映された。



『PLAN75』は ある視点部門で上映された
 


オープニングは日本で大ヒットを記録した『カメラを止めるな!』(2018)のミシェル・アザナヴィシウス監督によるリメイク作品、『キャメラを止めるな!』(英語題『Final Cut』)で幕を開けた。日本のオリジナルとは異なり、十分な予算をかけたフランス人スタッフ・キャストによる作品であるが、オリジナルに非常に忠実なストーリーで、オリジナルをたびたび思い出す不思議な作品に仕上がっており、観客の反応も総じて良好であった。


ジャパンパビリオン

今回、文化庁の「日本映画海外発信事業」の一環としてユニジャパンが運営にあたった’ジャパンパビリオン’は、マーケット会場至近で、人の往来も多く、ビーチが目の前に広がっている好位置に設置され、日本映画関係のイベントや来訪した監督、俳優等のインタビューに活用されていた。日本映画の情報を得に、ふと訪れる人々も例年以上に多かったとのことである。日本映画の拠点として存在し続けてもらいたい。






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