公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇ドバイ国際映画祭 2012/12/9-16
Dubai International Film Festival
**受賞結果** |
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〈Muhr AsiaAfrica Feature(アジアアフリカ長編部門)〉 |
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最優秀作品賞 |
『YERALTI (INSIDE)』 Zeki Demirkubuz監督(トルコ) |
審査員特別賞 |
『VALLEY OF SAINT』 Nicholas Bruckman監督(インド) |
最優秀監督賞 | 『PIETA』 Kim Ki-duk監督監督(韓国) |
最優秀男優賞 | 『YERALTI (INSIDE)』 Engin Gunayd1n(トルコ) |
最優秀女優賞 |
『SHIP OF THESEUS』 Aida El-Kashef(インド) |
〈Muhr AsiaAfrica Documentary (アジアアフリカ・ドキュメンタリー部門)〉 |
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最優秀作品賞 |
『GULABI GANG』 Nishtha Jain, Torstein Grude, Signe Bryge Sorenson (India, Norway, Denmark) |
審査員特別賞 |
『KAHRIZAK, CHAHAR NEGAH (KAHRIZAK, FOUR VIEWS)』 Mohsen Amiryoussefi, Pirooz Kalantari(インド) |
最優秀監督賞 |
『SAN ZIMEI (SAN ZIMEI THREE SISTERS))』 Wang Bing(フランス、香港) |
**概観**
オープニングセレモニー会場内 |
ドバイ国際映画祭はアラブ諸国の映画振興の推進力となるべく、また、多様な文化の架け橋となることを目標に2004年に創設された。人口の8割(それ以上との説もある)を外国人が占めるドバイにまさに適したテーマであるといえる。映画祭は2004年のスタート以来毎年12月に開催され、今年で9回目を数えた。ドバイでは90年代から観光振興に力を入れ、世界のトップレベルを目指したホテル、夥しい数とスケールの高層ビルなど商業施設の活発な開発が進められてきた。数々の見本市も常時開催されており、2020年のエキスポの誘致にも成功、中東経済の中心都市としてその地位を確固たるものとしている。映画祭も観光振興の一環としての意味合いも濃く、国を挙げての一大イベントとして発足当初からエミレーツ航空や高級ホテルチェーンのジュメイラグループといったドバイ有数の大企業がスポンサーについて、映画祭を大々的にバックアップしている。オープニング、クロージングの各セレモニーとそれに続く大パーティーをはじめ、全体的に非常に豪華で祝祭感に溢れ、海外からのゲストに対しても手厚くこまやかなケアが行き届いている。ドバイはイスラム教の国とはいえ、他のイスラム諸国に較べ規律は緩やかで、特に外国人の服装、行動に関してはかなり寛容であるため、海外からのゲストが不自由な思いをすることはほとんどない(ホテル内などでは飲酒もできる)。
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映画祭のほとんどの機能が入っている スーク、「マディナ・ジュメイラ」 |
映画祭事務局、マーケット会場、メイン会場、ゲストの宿泊するホテルの一つはマディナ・ジュメイラという広大な複合コンプレックスのような「スーク」の中にあり、またゲストの多くが宿泊するもう一か所のホテル、ジュメイラ・ビーチ・ホテルもマディナ・ジュメイラとは人工運河でつながっており、ゴンドラ型小舟やバギーで移動(映画祭の出しているシャトルバスでも移動可能)、さながら‘ディズニーランド’の様相を呈している。このように映画祭参加にあたって必要な場所はある程度まとまって位置しているが、ほとんどの作品の上映場所となる大ショッピングモール、「モール・オブ・エミレーツ」内のシネマコンプレックスまではそれなりに距離がある。ちなみにこのモール内には人工のスキー場が入っていて、通年スキー客で賑わうらしい。
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スターの来場を待つ人々 |
今回は60か国から158作品を上映、日本からは6作品が出品された。ドバイ映画祭のラインナップはメジャー感の強いハリウッド大作から、かなりの低予算で作られたであろう、作家性に富んだドキュメンタリー作品まで、幅広いタイプの作品で構成されている。同映画祭は各地にネットワークをもつ、熟練の選定委員たちを国籍を問わず積極的に登用しており、その成果がヴァラエティに富んだ水準の高いプログラミングとなって表れている。今回のオープニング作品はアン・リー監督による3D作品『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』。残念ながらリー監督は来場しなかったが、主演俳優であるインドのシュライ・シャルマの存在が上映を盛り上げた。映画祭会場内でも現地の方の中には男女共に民族衣装で闊歩する人々も多く、初めて訪れる者の目には非常にエキゾチックに映った(すぐに慣れたが)。また思いの外、子供の姿が目立つのも新鮮だった。それぞれの作品にレーティング(*その映画を見ることができる年齢の制限)がしっかり示されているので、親も安心して連れてくるのだろう。
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賑わう映画祭のマーケット会場 |
映画祭創設当初はアラブ圏の作品を対象としてきたが、現在はより広域の、主にアジア、アフリカ、そしてアラブ地域を中心に全世界を網羅している。コンペティション部門は長編(フィクション)、ドキュメンタリー、短編いずれも地域によって分かれており、アラブ諸国の作品が対象の「ムール・アラブ・アワード」とアジア・アフリカ地域の作品を対象とした「ムール・アジアアフリカ・アワード」が設けられている。それぞれのグランプリの賞金は期待を裏切らず、なかなかの高額である。(長編部門グランプリにはUSD50.000, 同ドキュメンタリー部門の最優秀賞にはUSD40.000)。ドバイ映画祭では近年は映画上映に加えて、ドバイ・フィルムマーケットを設けたり、アラブ映画への投資や共同制作に対する支援にも乗り出したりと産業面での活性化をはかる試みにも力を注いでいる。ここ数年は後発のアブダビ、ドーハといった近隣の都市で開催される映画祭とも競合関係にあるが、安定感や上映作品、知名度など総合的にドバイ映画祭が一歩リードしている感がある。
**日本作品**
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レッドカーペット:民族衣装で ゲスト・観客を迎える係員たち |
日本映画は毎年コンスタントに出品され、過去には受賞も多い。今回は長編コンペティション部門に園子温監督の『希望の国』が選出され、同監督の来訪も予定されていたが、急遽キャンセルとなってしまった。現地での熱い反応を聞くにつれ、監督の不在が残念に思われてならなかった。ドキュメンタリーコンペティション部門には2作品が招待されており、受賞には至らなかったもののそれぞれの監督たちは大きな手応えを感じた、との感想を語っていた。観客のほとんどはハリウッド映画以外の作品の鑑賞にはまだまだ慣れておらず、途中退場者が出がちな映画祭とのことであるが、今回上映された日本映画は総じて好評を博し、ほぼ席を立つ観客がいなかったとのことである。上映に先立って驚くのはレーティング(年齢制限)のシステム。ドバイはイスラム教国の中では何かと制約が緩やかとはいうものの、やはり日本とは勝手が違う。日本映画に限られたことではないが、レーティングに関してはかなり慎重な姿勢が取られている。カタログ内にもそれぞれのレーティングにその理由が添えられているのがなんとも律儀な気がした。そんな中、日本でもその激しさが話題となった三池監督の『悪の教典』は「暴力・男女のヌード・性的描写あり、大人向け」との理由でR18+での上映となった。とはいえ、観客の入りは上々で、反応は賛否両論ながらも熱気溢れる質疑応答が繰り広げられ、同映画祭初参加の三池監督も満足げな様子であった。