公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇全州(チョンジュ)映画祭 2012/4/26-5/4
  JeonJu International Film Festival

 
 
今年の映画祭ポスター(左・右)と映画祭広報大使イム・ソロン(2AMのメンバー)と女優ソン・ウンソ(中央)
 

受賞結果概観上映作品日本映画全州プロジェクト・マーケット



**受賞結果**
Woosuk Award
(最優秀劇映画)
 『Summer of Giacomo』(伊・仏・ベルギー)
 Alessandro Comodin監督 
JB Bank Award
(審査員特別賞)
 『Ex Press』(フィリピン) Jet B. Leyco監督
JJ-Star Award
(韓国映画長編部門
コンペティション・最優秀賞)
 『Sleepless Night』(韓国) Jang Kun-jae監督
Zip& Award
(韓国映画短編部門コンペティション・最優秀賞) 
 『Noodle Fish』(韓国) Kim Jin-man監督
NETPAC賞   『Florentina Jubaldo,CTE』(フィリピン) Lav Diaz監督
観客賞   <国際コンペ部門>
 『The River Used to Be a Man』(ドイツ) Jan Zabeil監督
 <韓国映画>
 『Sleepless Night』(韓国) Jang Kun-jae監督
(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

メイン会場のひとつ、メガボックス前
バンド演奏等、催し物が頻繁に行われた。
 
シネマストリート入口
 

 全州(チョンジュ)国際映画祭は良質で斬新なインディペンデント映画を数多く上映する映画祭として、アジアのみならず世界で有数と評されるに至っている。13回目を迎えた今回は「共に変化する映画祭」をテーマに掲げて催された。

 上映会場のほとんど、及びプレスセンター、JIFFスクエア(イベント会場)が集中するシネマストリートと呼ばれる通りは若者や家族連れでたいへんな賑わいを見せていた。特にシネマコンプレックス、メガボックス前ではバンド演奏やストリートパフォーマンスが行われたり、フリーマーケットが開かれたりと終始文字通りお祭りの様相を呈し、通行もままならない時間帯もあった。全州映画祭では毎年若手芸能人の男女ひとりずつが「映画祭広報大使」に任命され、広報活動にいそしみ華やぎと話題性を提供しており、今年は人気K-POPグループ、2AMのメンバー、イム・ソロンと女優ソン・ウンソ。ふたりの登場にファンのみならず居合わせた観客たちは大いに沸いていた。

 映画祭で活気づくシネマストリートの入口広場付近では、一方で不穏な動きも見られた。全州市営バス労働組合の組合員十数人が「労働者は次々と死んでいくのに何が映画祭だ」と書かれたプラカードを手に、抗議行動として拡声器を使って演説を行ったり通行人に罵声を浴びせたりといった行動を展開し、通りを行き来する市民・ゲストたちは(事情は良く分からないながらも)異様な様子の組合員らを避けながら通行していた。


優秀で頼りになるボランティアの人々
時々、路上でダンスも披露
 

 海外からのゲストはヨーロッパ、南米、アメリカ、そして日本や中国、とバラエティに富んでおり、温かく活気ある雰囲気の中ゲスト同士気軽に交流を深めていた。韓国映画の多様性がうかがえる出品作品、ビデオルームの充実ぶり、有能で感じの良いボランティア等々の理由からゲストの満足度が非常に高い映画祭と言って良いように思える。反面、上映開始後1分ほどでも入場できない、上映中はトイレに中座することも許可されない、などの不満の声も聞こえた。途中入場をどこまで認めるかは映画祭によってばらつきがあるが、開始後数分間は許されて良いのでは、と個人的には思う。

 ソウルから全州市までは高速バスで3時間〜3時間半ほど、高速鉄道KTXを利用しても3時間ほどかかるという。近いとは言い難いが高速バスは朝から22時台まで頻繁に出ており、その気になれば日帰りも十分可能なことから、週末はソウルからやってくる映画業界関係者の姿も多く、週末の夜はかなりの盛り上がりをみせる。全州市は食(「飲」も含む)の町としても有名で、特に‘マッコリタウン’と呼ばれる一画では開放的な雰囲気の中、夜明けまで映画談議に明けくれる関係者の姿も目立った。

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**上映作品**

 今年は世界42カ国の長編・短編映画184本。昨年の190本に較べ、上映作品数は微減したものの、一部の上映作品に関しては上映回数を一回ずつ増やしたり、新セクションを創設したりの結果、総上映回数は297回に微増している(昨年は286回)。全州映画祭が単独製作・配給する短編作品企画『Short!Short!Short!』が3年ぶり復活、新進韓国人監督による2作品が完成、発表された。また興味深いふたつの特集も新設された。ひとつは一人の映画専門家が自身の観点から推薦する作品を上映するセクション。今回はエジンバラ映画祭のアーティステッィク・ディレクターを務めるアメリカ人批評家、クリス・フジワラ氏がその選に当たり、’Ruptures: Cinema in Breakdown’と題して、60年代〜70年代の選りすぐりの9本を紹介(そのうち1本は鈴木英夫監督の『その場所に女ありき』。他にBlake Edwards監督『The Party』、Claude Chabrol 監督『The Breakup』など)。そしてもうひとつは全州映画祭の精神と共通点の多い、一団体に焦点を当てるセクション。初回の今回は創設50周年を迎えたオーストリアのウィーン映画祭を取り上げ、’Special:Viennale in 5 decades’と銘打って、同映画祭で上映された出色の作品を5本、各年代ごとに紹介(70年代の代表作として選ばれていたのは寺山修二監督の『書を捨てよ町へ出よう』)。ウィーン映画祭のチーフプログラマーがウィーン映画祭の軌跡を語る一幕もあり、観客は熱心に耳を傾けていた。

 全州映画祭の創設とともにスタートし、同映画祭の看板企画である’デジタル3人3色’は例年斬新な作品を輩出し、各地の他の映画祭への出品歴も数多い。今回はアジア人監督Ying Liang(中国)・Vimukthi Jayasundara(インドネシア)・Raya Martin(フィリピン)の3人が40-70分の作品を手掛け、注目集めた。(Ying Liang監督の『When Night Falls』は6人の警察官を殺害し、死刑判決を受けた犯人とその母についてのドキュメンタリーで、中国政府が全州映画祭に著作権の売買を持ちかけた、とのまことしやかな噂が流れている意欲作)

 開幕作品には今年のベルリン映画祭で銀熊賞を受賞した、フランス・スイスの合作『シスター』(ウルスラ・メイヤー監督)、閉幕作品は昨年のヴェネチア映画祭出品(主演女優賞受賞)の香港映画、『シンプル・ライフ』(アン・ホイ監督)というヨーロッパの大映画祭で高評価を得た作品を配した一方で、創設当初から一貫している非常にチャレンジングな作品選定は今回も健在であった。たとえばイ・ミョンバク現大統領の言動やフッテージを織り交ぜ、同大統領の政権を濃厚な批判的視点をもって描いた風刺ドキュメンタリー、『Rememberance of MB』(MB=「ミョンバク」の意)。運営母体は現在の政権寄りの立場を取っていないことから上映が可能だったのだと思われる。立ち見も出るほどの超満員の入りであった。

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**日本映画**

全州独立映画館
 

 国際コンペティション部門をはじめ、各セクションに万遍なく日本映画が登場した。昨年『サウダージ』で注目を集めた富田克也監督の小特集が組まれ、同作を含む三作品が上映された。富田監督の作品をともに作り続けている映像制作集団‘空族’のメンバーの多くが全州映画祭に参加し、韓国の観客の熱い反応に手ごたえを感じていたようであった。また内田吐夢監督の特集上映では厳選された七作品が上映され、特に無声映画が大いに受けていたとのことである。

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**全州プロジェクト・マーケット**

 全州映画祭は、インディペンデント映画製作を振興するべくプロジェクト・マーケットを立ち上げ、2009年以降さらに充実度を高めている。メインとなるのは「全州プロジェクトプロモーション(JPP)」。プロデューサー・ピッチング、ドキュメンタリー・ピッチング、ワーキング・プログレス(すでにある程度まで作品が形を成している企画)の3部門に分かれ、事務局によってあらかじめ絞られた5-6作品の企画をそれぞれの部門の審査員がプレゼンテーションや書類をもとに選考し、賞を授与する。公開で行われるプレゼンテーションはアクレディテーションを持つ人なら誰でも聴取でき、ソウルからこの時期に合わせてやって来る業界関係者も少なくない。各スポンサーから与えられる賞には現金の他に具体的な制作補助などもある。プレゼンテーションの行われる全州デジタル独立映画館はラボや上映会場も兼ね備えており、全州のみならず韓国の独立系映画における重要なスポットとなっている。


受賞結果概観上映作品日本映画全州プロジェクト・マーケット



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