公益財団法人川喜多記念映画文化財団

千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル

国際交流

映画祭レポート


◇ウーディネ・ファーイースト映画祭 2013/4/19-27
  Far East Film Festival

 

 

受賞結果概観日本からの出品作品



**受賞結果**
*観客賞(三種類の観客賞が存在する)
Golden Mulberry:
<来場者の
投票で決定>
1位 『How to Use Guys With Secret Tips!』
by Lee Won-suk (韓国)
2位 『Count Down』
by Nattawut Poonpiriya(タイ)
3位 『Ip-Man The Final Fight』
by Herman Yau(香港)
Black Mulberry:
<映画祭の発行している‘Black Dragon’パス所有者の投票により決定>
『Touch of the Light』
by Cahng Jung-chi(台湾)
My Movies賞
<インターネットによる投票で決定>
『俺俺』
by 三木聡監督(日本)

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

街の中心、リベルタ広場。
 

 ウーディネ・ファーイースト映画祭はヴェネチアから車で1時間半のイタリア北部、ウーディネ市にて毎年4月に開催されている。香港映画祭の開催に端を発し、東アジア・東南アジアの国々の作品のみを上映する映画祭として1999年に始まった同映画祭も今年で15回を数えた。一般的に、世界中の「映画祭」の多くはアート色の強い、いわゆる「尖がった」作品を集めようとするものだが、ファーイースト映画祭は設立当初から、基本的にアジアの一般大衆に支持されている作品を選定するという方針を貫き、独自の性格づけに成功している。が、大衆にアピールする作品群がメインとはいえ、それとは別に個性溢れる特集上映が行われる年も多い。日本関連では過去に日活アクション映画、新東宝の作品集、石井輝男監督特集、市川準監督特集などが設けられた。また同映画祭は運営母体である、Centro Expressioni Cinematograficheの主導で、2008年に映画会社Tucker Filmを設立し、アジア映画のDVD販売と配給業務にも着手した。日本映画としては『おくりびと』『テルマエ・ロマエ』、『告白』などが映画祭で支持を得たのを機に同社によって配給され、イタリア公開が実現している。

メイン会場、テアトロ・ヌーヴォ前。
平日でも賑わいをみせる。
 
充実のグッズ売り場。
 

 上映会場は市の文化の中心地ともいえるテアトロ・ヌーヴォ、一か所のみ(かつては2会場あったそうだが)。映画祭の時期以外は音楽会や演劇など、さまざまな文化活動に使用されているという。プレスセンターもゲストオフィスもすべてこの会場内にあり、記者会見も行われる。あちこち動き回らなくて良い、この場所に行けばほぼすべての参加者に会えるなど利点は多い。これから観る、または観てきたばかりの作品について語り合うちょっとしたカフェやラウンジも完備しており、上映の前後は特に人でごった返し、熱気を帯びる。平日も夕方以降は勤め帰りの人々も加わり、たいへんな人出となり、週末はさらなる混雑ぶりである。ただ1200名収容可能な大会場とはいえ、各作品の上映が一回だけなのはやはり残念なようにも思えてならない。全作品とはいわないまでも、二回上映の作品があっても良いのではないだろうか。会場内にはなかなかの広さを取って映画祭公式グッズ売り場が設けられ、気の利いたアイテムが所狭しと並んでいた。映画祭スタッフたちが着用していたエプロンも洒落ていて、観ていて心躍った。このあたりはさすがイタリア、である。

 2012年に新設されたゴールデン・マーベリー賞(生涯功労賞)は今回は釜山映画祭の名誉執行委員長キム・ドンホ氏に授与された。キム氏の長年にわたる映画界における献身的な活動に敬意を表しての贈賞である。そもそも釜山映画祭とウーディネ・ファーイースト映画祭の関わりは長く、深い。両映画祭は2006年よりEUのメディアプログラムからの出資による組織’EAVE’とも提携し、共同で合作映画の制作、マーケティングのためのプロデューサー向けワークショップ、‘TIES THAT BIND’を催している。アジアと欧州のプロデューサーにより構成されており、5回目の今回は10作品のプロデューサーが集った。今回のウーディネ・ファーイースト映画祭でのセッションに加え、10月には釜山映画祭の開催期間に続いての協議が予定されている。

 今回初めて朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)からのゲストを迎えたのも話題のひとつであった。同映画祭においては過去に北朝鮮製作の映画を上映した実績はあったものの、ゲストの来訪は今回が初めてとのことで、イタリア入国のビザの取得には少なからぬ時間を要したという。招聘されたのは上映作品『Comrade Kim Goes Flying』(北朝鮮・イギリス・ベルギー合作)の主演女優・ハン・ジョンシム氏とプロデューサーのリョム・ミファ氏。舞台挨拶に加え、上映の翌日に開かれた、ジャーナリストたちとのトークセッションに参加し、北朝鮮の映画事情に興味津々の聞き手たちの質問に応じた。

東洋市″開催中のサン・ジャコモ広場。
 
コスプレコンテストの
気合いの入った出場者たち。
 

 広く多くの人にアピールするであろうタイプのプログラムも功を奏し、今ではウーディネ市の一大文化行事として定着、支持を得ていることが随所から見てとれた。人口約10万人の落ち着いた佇まいの街は映画祭期間中は少々性格を変える。メイン会場テアトロ・ヌーヴォでの映画の上映のみならず、街の中心的な広場での「東洋の品マーケット」やアニメやゲームのキャラクター、ミュージシャンなどの扮装を競う「コスプレ・コンテスト」など、数々の個性的なイベントが繰り広げられ、多くの市民で賑わいをみせる。市内の飲食店も協力を惜しまない。映画祭の参加者にはハッピーアワーなど、さまざまな特典を用意している店も多く、それらの店のウィンドーには’Far East Off’と書かれたステッカーが貼られていた。加えて同映画祭の公式ポスター、もしくは’I Love Far East’ステッカーが市内中心部のほとんどの店のウィンドーを飾っており、映画祭及び来訪者を歓迎してくれている姿勢がうかがえた。

 きめ細かな気配りが行き届いた同映画祭のホスピタリティは評判以上だった。リピーターが多いのも頷ける。映画祭からの招待ゲストは皆、毎日ランチとディナーに招かれる。招待ゲストも総勢50人くらいなので、アットホームな雰囲気の中関係者同士気軽に話ができ、いろんなネットワークも生まれやすい。とにかく参加者たちがリラックスできているので、自然と話も弾む。その雰囲気を作り出すために、程よい距離感を保ちつつさりげなく尽力してくれている映画祭スタッフの心配りは特筆に値する。

 総じて大規模映画祭とはまた違った魅力に富む映画祭である。アジアの各地のコンサルタントと頻繁に連絡を取り合い、その国で話題となっている作品、これから完成するであろう作品の情報収集を地道に続け、またディレクター、サブリナ・バラチェッティ氏及びスタッフ自らが創始以来足繁くアジアを訪れ、ネットワーク構築に努めてきた成果の賜物、また地元で受け入れられる努力が実を結んでいる結果ともいえる。同映画祭の財政事情は公的機関の助成金が主であり、来年度は大幅な予算削減が決定しており、規模の縮小などの可能性も出てきているという。現在の形を保ち、市民や参加者に親しまれる映画祭であり続けてもらいたいものである。



**日本からの出品作品**

トークセッション
(左端)日本作品選定コンサルタント
マーク・シリング氏
(左から2人目)中村義洋監督
(右端)樋口真嗣監督
 

 今年も多くの日本作品が出品された。日本でもヒットした作品、同映画祭での上映がワールドプレミアとなった作品合わせて12本。総じて良質のコメディ作品であった。なかでも映画祭を沸かせたのは映画祭のオープニング作品、三木聡監督の『俺、俺』。同映画祭では過去に三木監督特集が組まれたこともあり、かねてからの固定ファンが見込めた上に三木監督と主演の亀梨和也氏が来訪。地元イタリアはもちろんのこと、アジアからも観客が押し寄せ、深夜の上映にも関わらずたいへんな盛り上がりをみせ、日本国内でもその模様が大きく報道された。同作はその熱気を反映するかのように、観客のネット投票で決定するマイムービーズ賞を受賞した。

 『のぼうの城』の樋口監督、『みなさん、さようなら』の中村監督、ともにイタリアの観客の生の反応を堪能した様子であった。『のぼうの城』はこの上映に合わせて、外国の観客の方のより深い理解を得るべく、字幕を一部修正したという。その甲斐もあって、長尺の作品ながらも途中退出者もなく、スペクタクルな映像、巧みなストーリー展開に皆、一心に見入っていた。




受賞結果概観日本からの出品作品




映画祭情報トップページへ