公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇モントリオール世界映画祭 2013/8/22-9/2
  Festival des Films du Monde

 

**受賞結果**
グランプリ
(Grand prix des Americas)
LIFE FEELS GOOD (CHCE SIEZ ZYC)
by Maciej Pieprzyca (Poland)
審査員特別グランプリ
(Special Grand Prix of the jury)
A THOUSAND TIMES GOODNIGHT
by Erik Poppe (Norway)
最優秀監督賞 HET VONNIS (THE VERDICT)
by Jan Verheyen (Belgium)
最優秀女優賞 JORDIS TRIEBEL (WESTEN (WEST))
by Christian Schwochow (Germany)
最優秀男優賞 MARCEL SABOURIN(ANOTHER HOUSE)
by Mathieu Roy (Canada)
PETER PLAUGBORG (THE MIRACLE)
by Simon Staho (Danemark)
最優秀賞脚本賞 IVAN SON OF AMIR by Maksim Panfilov, screeplay by Maksim Panfilov & Andrei Osipov (Russie)
最優秀芸術貢献賞 「利休にたずねよ」(田中光敏監督)
LANDES by Francois-Xavier Vives (France)
イノベーションアワード FEED ME
by Yazhou Yang & Bo Yang (China)

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

メイン会場入口で入場を待つ人々
 

 第37回にあたる今年のモントリオール世界映画祭のスローガンは、”World is Yours!”。世界74ヶ国から432本(長編218本、中編14本、短編200本)の作品が集まった。

 コンペティション部門に選ばれた『利休にたずねよ』(田中光敏監督)は、最優秀芸術貢献賞を受賞。市川海老蔵演じる千利休の美意識とその根源になった想いを描いた作品である。同賞は過去には『利休』(1989年、勅使河原宏監督)、『式部物語』(1990年、熊井啓監督)が受賞しており、日本映画としては1990年以来13年ぶりの受賞となった。また上映に先立ち、旧市街のノートルダム・ド・ボンスクール教会で茶会が催され、利休の妻役で出演した中谷美紀さんがお点前を披露した。中谷さんは2011年に初舞台『猟銃』をモントリオールで踏んでおり、その際の演出家フランソワ・ジラールさんらが招かれた。
 コンペ部門グランプリに輝いたのは、脳性麻痺の主人公マテウシュの少年〜青年時代を描いたポーランド作品『Life Feels Good』(マチェィ・ピエプルシツァ監督)。エキュメニカル賞、観客賞と合わせ3冠に輝いた。

 
舞台挨拶をする市井監督
 

 日本から、石井岳龍監督(『シャニダールの花』)、市井昌秀監督(『箱入り息子の恋』)、田中光敏監督(『利休にたずねよ』)の3人の監督が参加した今回、『箱入り息子の恋』の上映に立ち会うことができた。上映中は笑いの連続で、上映後のQ&Aでは、日本の親子間の感覚の違いについてなど、観客と監督との活発なやりとりが続き、時間が足りないほどだった。
 Focus on World Cinema部門に選ばれた『今日子と修一の場合』(奥田瑛二監督)や『四十九日のレシピ』(タナダユキ監督)など上映後に拍手が起こる作品もあり、『清須会議』(三谷幸喜監督)の上映には三谷作品のファンの姿が目立っていた。
 日本映画の短編作品では、鉛筆画とコラージュで構成された大須賀正裕監督のアニメーション『rhizome:リゾーム』(Focus on World Cinema部門)が観客の反響の大きかった作品をもう一度上映するプログラムSUGGESTIONS FROM THE PUBLICに選ばれ、映画祭最終日に再度上映の機会を得た。世界各地の学生の短編作品を集めたプログラムBest Student Films of the World内では、震災後の東北の海に生きる漁師の姿を描いた中野裕一郎監督(ニューヨーク大学院Tisch School of Arts Asia(シンガポール))のドキュメンタリー『海と生きる』が上映された。
 カナダに留学・移住した日本人の他、地元の映画ファンは比較的高年齢層の観客が多い。毎年日本映画を観るのを楽しみにしている地元ファンから声をかけられることもあり、日本映画がモントリオールで愛されていることを実感した。

 
毎晩8:30にスタートする野外上映
Movies under the Stars。
今年は『ゴッド・ファーザー』『裏窓』
『ローマ法王の休日』『炎のランナー』
などの12本。
涼しくて気持ち良いので映画鑑賞
にはもってこい。
 

 昨年のケベック映画13作品を上映したプログラムOur Cinemaには、昨年度Openness to the World Awardとカナダ映画観客賞をダブル受賞した『カラカラ』(クロード・ガニオン監督。日本カナダ合作)が入っていた。その他、韓国映画特集プログラムや、特別貢献賞として表彰されたキャサリン・ターナーへのオマージュとして『ボディ・ヒート』が上映されていた。

 今年のモントリオールでの上映作品432本は、すべてDCPやHDCAM、ブルーレイ等のデジタル素材での上映で、35mmプリントで上映された作品は1本もなかった。全上映がデジタル上映になったのは今回が初めてであったが、映像や音声が途中で消えてしまったり、違う色調で再生されてしまったりとデジタル機器上の上映トラブルに見舞われた上映もあった。一旦問題が発生してしまうと復旧に時間がかかる場合もあり、デジタル上映が本当に定着するまでには時間が必要だと感じた。映画祭側も不測の事態に備えて予備のブルーレイディスクを用意してほしいと力説していた。ただ、トラブルが起こってしまった劇場で、ヤジを飛ばしたりする観客を見ることはなく、客席は大らかに復旧を待っていることがほとんどだった。お国柄もあるかもしれないが、私には観客の質の高さが表れているように感じられた。



**第44回Canadian Student Film Festival**

学生コンペ授賞式会場での
青木義乃さん
左に今年の映画祭ポスター
 

 モントリオール世界映画祭の中で毎年開催されているCanadian Student Film Festival。カナダ国内の大学など教育機関での在学中、且つ今年度制作した作品が応募可能で、カナダ全土から集まった作品の中からコンペ上映作品が選出される。アニメーション、ドキュメンタリー、実験的作品、フィクションの4分野に分かれ、それぞれの部門と全部門にまたがって優れた作品に賞が贈られる。今年で44回目と世界映画祭よりも実は開催回数の多いカナダ学生映画祭。記録によると1985年からモントリオール世界映画祭内で開催されている。今年の学生コンペティションには、地元モントリオールのコンコルディア大学でアニメーションを学んでいる青木義乃さんの『Maple Syrup』が選ばれ、上映プログラムBの冒頭で上映された。蛇口とメープルの木の種の入っている缶詰から木を育て、シロップを収穫するまでを1分にまとめたストップモーションアニメだ。上映会場には多数の日本人の姿が見受けられた。青木さんはフィルム・アニメーション学科に所属。働きながら制作に励んでいる。日本の大学よりも長期間在籍できるカリキュラムなので、青木さんのような社会人にも門戸が開かれているそうだ。彼女の前作『Door』はイスタンブールやグアムの映画祭で上映され、グアム国際映画祭では最優秀アニメーション賞を受賞。『Maple Syrup』もモントリオールの後、ライプチヒ国際ドキュメンタリー・アニメーション映画祭での上映が決まっている。次作は卒業制作に取り組む青木さん。日本よりもオープンで、プロのアニメーターに直接学ぶ機会も多い学習環境を活かし、アニメーション作家として世界に羽ばたいてほしいと思う。

 世界映画祭のポスターは、毎年地元ケベックのアーティストによってデザインされている。今年のデザインはグラフィックデザイナーJacques Bourassa氏の手によるもの。映画祭の名前自体がデザインされ、多彩なアルファベットが躍動しつつ世界各地の映画の多様性を表している。「何でもあり」のバラエティーの豊かさからくるエネルギーが正にモントリオール世界映画祭の魅力のひとつであり、長年に渡って映画ファンを魅了してきた力だったと思う。今後もそのエネルギーを失うことなく継続してほしいと願っている。




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