公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2013/10/3-12
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents賞 Pascha - AHN Seonkyoung (韓国)
Remote Control - Byamba SAKHYA (モンゴル/ドイツ)
Busan Bank賞
(*Flash Forward部門の観客賞)
Home
- Maximilian HULT (スウェーデン/アイスランド)
NETPAC賞 Shuttlecock - LEE Yubin (韓国)
国際批評家連盟賞 10 Minutes - LEE Yong-seung (韓国)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
Jalanan (“Streetside”) - Daniel ZIV (インドネシア)
Non-fiction Diary - JUNG Yoonsuk (韓国)
Sonje 賞
(短編)
A Lady Caddy Who Never Saw a Hole in One
- Yosep ANGGI NOEN (インドネシア)
In the Summer - SON Tae-gyum (韓国)
KNN観客賞
(*ニューカレンツ部門の観客賞)
10 Minutes - LEE Yong-seung (韓国)
Asian Filmmaker
of the Year賞
Rithy Panh(カンボジア)
Korean Cinema Award Charles Tesson(フランス)

(『』内は英語題名) *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**

釜山シネマセンター周辺。
映画祭メインベニューとして定着した。
 
巨匠イム・グォンテク監督の
大特集が行われた。
 

 例年、好天がお約束の釜山映画祭であるが、第18回の今年は会期半ばに台風に見舞われ、数々のイベントが中止や場所変更を余儀なくされた。10月に上陸した台風は15年ぶりとのことである。会場周辺のバナー(旗)やポスターも一時撤去された。台風が去った後も日本のようにすっきりと晴れ渡ることはなく、ぐずついた空模様が続き、折り畳み傘が手放せない日々だった。例外的なこととはいえ、映画祭に悪天候はやはりきつい。台風上陸に先立つ数日間は天気も上々で、韓国やその他の国々からのスター、映画人がオープニングのレッドカーペットを彩った様子が各国で大々的に報じられていた。

 今回のレトロスペクティブの目玉は韓国映画界の重鎮で、101本もの作品を作り上げており、今も現役であるイム・グォンテク監督の大規模な特集上映であった。上映可能な素材が現存している70本以上を上映、識者によるレクチャーやセミナーも数多く設けられ、映画祭に先立つこと11日前から特集を始めているという熱の入りようであった。

 毎回思うことだが、韓国映画をとにかく見せよう、という映画祭側のブレのない姿勢には驚きと敬意を覚える。今年も韓国映画ショーケースの部門は言うまでもなく、それ以外の部門でも大小さまざまな規模の話題作が目白押しであった。韓国国内での上映を可能にするために、いくつかの問題とされた場面を削除したことで話題になった『メビウス』(キム・ギドク監督)、ハリウッド大作『スノーピアサー(雪国列車)』(ポン・ジュノ監督)がそれぞれ韓国版・海外版のどちらで上映されるかがあえて記者会見で言及されているのをみるにつけ、韓国映画の世界規模での広がりを改めて感じた。ちなみにどちらも韓国版での上映であった。

 クエンティン・タランティーノ監督の突然の釜山訪問は後半の大きな話題であった。純粋に「ポン・ジュノ監督に会いたいから」との理由だったらしい。そこで予定外のポン・ジュノ監督とのトークショーが実現した。こういったサプライズは釜山映画祭としては大歓迎であろう。

 メイン会場である釜山シネマセンター周辺は映画祭拠点としてすっかり定着している。近代的な設備、地下鉄の駅も至近、飲食の場にも事欠かない、といった様子で映画祭会場の環境としては非常に優れている。海雲台(ヘウンデ)地区の会場周りを運行する無料シャトルバスも機能していた(今年は英語の車内アナウンスもあった)。が、夜8時半頃が最終、という点は変わらず。まあタクシー代が安価で、他の交通機関も熟知している市民にとってはそう問題ではないのだろう。

より充実した観客のためのラウンジ。
 

 釜山映画祭は‘観客志向’の映画祭として、映画祭の創立間もない頃から工夫を凝らし続けている。現在はオープントーク、野外舞台挨拶、観客とのQ&Aなど様々なイベントを設け、常に大いに盛り上がっている。釜山シネマセンター内には観客のための休憩エリアや映画祭グッズの売店、カフェ等が整備され、映画の鑑賞以外の時間も充実するように、との配慮がうかがえる。映画祭の日程に合わせて釜山を訪れる外国人も増加しているという。またこの10月末にはいよいよKOFIC(韓国映画振興委員会)がソウル市から釜山市海雲台区に移転、映画都市としての性格を強化している。

 順風満帆に見える同映画祭であるが、問題がないわけではない。韓国人女優たちの露出合戦のような様相を呈してきたレッドカーペットの様子や、各種イベントに登場するアイドルの話題を連日過剰に取り上げ、肝心の映画に関しては二の次になっているマスコミの報道の仕方に対しての批判の声が韓国内で強まっている。また釜山市は面積的にかなり広がりがあり、海雲台地区以外の人々の中には「映画祭は海雲台限定のイベント」と冷ややかに捉えている市民も少なくはない、との話も耳にした。映画祭発祥の地である、南浦洞(ナンポドン)など、他地区とのより密な連携が課題のひとつのようである。



**「アジアの映画祭」**

今年の出品作品の監督たち。
 

 オープニングセレモニーの司会は、韓国人女優、カン・スヨン氏と香港の人気俳優、アーロン・クウォック氏が務めた。昨年に引き続き韓国以外から1名が選ばれた形である。「アジアの映画祭」をコンセプトに掲げる釜山映画祭、おそらくこの形式が定着するのであろう。オープニング作品にはブータンの僧侶でもあるケンツェ・ノルブ監督の『Vera:A Blessing』。ブータン映画がオープンニング作品となるのは初めて。クロージング作品は韓国映画『The Dinner』であった。

 特集上映のひとつとして‘Unknown New Wave Central Asian Cinema’と題し、中央アジア4国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン)から8本の作品を上映。昨年はアフガニスタン映画の特集であったように、アジア地域でもなかなか注目されにくい国々の作品の紹介に熱心である。

 今回のプログラム編成を振り返ると、‘フラッシュ・フォワード部門’に大きな変化があった。前回までは、アジアの新人監督の作品を対象とするコンペティション部門・ニュー・カレンツ部門に対し、非アジアの新人監督作品のコンペティション部門としてフラッシュ・フォワード部門が存在していた。が、今回からはフラッシュ・フォワード部門の上映本数を大幅に増やした一方で、審査員による審査は廃止し、代わりに釜山銀行をスポンサーとする観客賞を設けるという方式に変更された。非アジア圏の良作を釜山の観客に紹介する重要性は認識しつつも、アジア圏重視の姿勢をより明確化したように思えなくもない。



**日本映画・日本人ゲスト**

 日本映画の存在感は今回も健在であった。成田もしくは羽田から2時間ほどの飛行で到着する釜山はとにかく近い。選出された作品の関係者たちは多少強行な日程でもやり繰りして現地に赴こうとする(西島秀俊氏は日帰りだったとのこと)。福山雅治氏、渡辺謙氏、前田敦子氏などネームバリューのある俳優の来訪が例年より多かったせいか、日本のメディアも空港から彼らを追いかけるかのような報道ぶり。映画祭の知名度アップに一役買っているには違いなく、一概に悪いことではないが、それ以外の映画祭全体にわたる報道が少しは欲しい、と思ってしまうのは望み過ぎだろうか。そして釜山を訪れた日本人ゲストたちは一様に歓迎を受けていた。

 監督第一・第二作を対象にした長編コンペティション部門であるニュー・カレンツ部門には金井純一監督の『ゆるせない、逢いたい』が出品された。金井監督は昨年、『転校生』で短編映画賞であるソンジェ賞のスペシャルメンションを獲得しており、今回は長編作品を携えての二年連続の釜山入りとなった。李相日監督、山下敦弘監督など釜山映画祭の常連、ともいうべき監督も増えた。オダギリジョー氏も来韓のたびに話題になる。もう少し‘新規’な顔ぶれがあってもいいような気がするが、‘常連’がいろいろな意味で貴重な存在なのは間違いない。



**「アジアの映画祭」**

 オープニングセレモニーの司会は、韓国人女優、カン・スヨン氏と香港の人気俳優、アーロン・クウォック氏が務めた。昨年に引き続き韓国以外から1名が選ばれた形である。「アジアの映画祭」をコンセプトに掲げる釜山映画祭、おそらくこの形式が定着するのであろう。オープニング作品にはブータンの僧侶でもあるケンツェ・ノルブ監督の『Vera:A Blessing』。ブータン映画がオープンニング作品となるのは初めて。クロージング作品は韓国映画『The Dinner』であった。

 特集上映のひとつとして‘Unknown New Wave Central Asian Cinema’と題し、中央アジア4国(カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタン)から8本の作品を上映。昨年はアフガニスタン映画の特集であったように、アジア地域でもなかなか注目されにくい国々の作品の紹介に熱心である。

 今回のプログラム編成を振り返ると、‘フラッシュ・フォワード部門’に大きな変化があった。前回までは、アジアの新人監督の作品を対象とするコンペティション部門・ニュー・カレンツ部門に対し、非アジアの新人監督作品のコンペティション部門としてフラッシュ・フォワード部門が存在していた。が、今回からはフラッシュ・フォワード部門の上映本数を大幅に増やした一方で、審査員による審査は廃止し、代わりに釜山銀行をスポンサーとする観客賞を設けるという方式に変更された。非アジア圏の良作を釜山の観客に紹介する重要性は認識しつつも、アジア圏重視の姿勢をより明確化したように思えなくもない。



**日本映画・日本人ゲスト**

 マーケットは今年もBEXCO内において映画祭中盤〜後半の4日間、行われた。まさに同時期にカンヌ市でMIPCOM(=テレビ番組を中心とした、世界最大級の映像コンテンツ国際見本市)が開催されているのは致命的な打撃であろう。マーケットをより実りある内容にしようという釜山側の努力は伝わってはくるものの、結果としては相変わらず人出も少なく、少々寂しいという印象が否めない。そんな中でも相変わらず注目を集めるのが企画マーケット、APM(Asian Project Market=かつてのPPP)である。1998年にPPP(釜山プロモーションプラン)としてスタートした時代から、有望な監督や製作者と投資家、共同製作者の出会いの場として話題作を輩出し続けている。今回、あらかじめ選定された30作品の企画の中には、河瀬直美監督(日本)、ガリン・ヌグロホ監督(インドネシア)、モフセン・マフマルバフ監督(イラン)など、すでに知名度の高い監督のプロジェクトも多数見受けられた。韓国のキム・ジウン監督のプロジェクトは日本のアニメーション映画『人狼』の実写版で、アニメーション版のファンからも完成が心待ちにされており、釜山市より贈られる「Busan Award」を受賞した。今回、日本が関係しているプロジェクトはすべてが<日本と韓国><日本と米国>など、共同制作だという点が興味深かった。最終日にはAPMのスポンサーや主催の釜山映画祭から賞が授与される。今回は日本のプロデュース作品では『While Women Are Sleeping』(監督は香港系米国人のWayne Wang氏)にCreative Director Awardが贈られた。




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