公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇全州(チョンジュ)国際映画祭 2014/5/1-10
JEONJU INTERNATIONAL FILM FESTIVAL
**受賞結果** | ||||
---|---|---|---|---|
International Competition部門 | グランプリ |
『History of Fear』 Benjamin Naishtat監督 (アルゼンチン) |
||
最優秀作品賞 |
『Coast of Death』 Lois Patino監督(スペイン) |
|||
審査員特別賞 |
『Hotel Nueva Isla』 Irene Gutierrez、Irene Gutierrez Javier Labrador監督(キューバ・スペイン) |
|||
Korean Competition部門 | グランプリ |
『A Fresh Start』 Jang Woojin監督 |
||
Korean Competition for Shorts(短編)部門 | グランプリ |
『How long has that door been open?』 Kim Yuri監督 |
||
最優秀監督賞 |
『12th Assistant Deacon』 Jang Jaehyun監督 |
|||
審査員特別賞 |
『Hosanna』 Na Youngkil監督 |
|||
CGV Movie Collage Award | -(配給支援) |
One for All,All for One(『60万回のトライ』:韓国・日本) Park Sayu/Park Donsa監督 |
||
-(次回作制作支援) |
『The Wicked』 Yoo Youngseon監督 |
|||
The Korea Cinemascape(観客)賞 | 『Glory For Everyone』 Lim Yucheol監督(韓国) | |||
NETPAC賞 | 『東京家族』 Lim Yucheol監督(韓国) |
**概観**
第15回全州映画祭は 史上二番目の観客動員数を 記録した。 |
上映会場から少し離れた 屋台村″でも映画祭のバナーが はためいていた。 |
第15回全州国際映画祭は、4月半ばに発生したセウォル号沈没事故で犠牲になった人々への哀悼の意を表す、厳粛な雰囲気の中で始まった。韓国第2とも第3ともいわれる規模と実績を備えた映画祭なだけに、韓国映画界の重鎮やスター俳優の来訪も例年通り多かったが、開・閉会式は黙祷から始まり、皆、一様に控えめな服装、表情で臨んでいた。韓国の映画祭には不可欠ともいうべきレッド・カーペットや各種レセプションなど華やかなイベントはすべてキャンセルとなり、映画の上映、上映作品関連のトークショー、マスタークラス等のみが粛々と行われた。(が、主に外国人ゲストを対象にした小規模な親睦会は適宜開かれていた)。確かに現地では、セウォル号沈没事故が韓国社会に与えた衝撃の大きさをいろいろな場面で感じた。他の多くのイベントが中止もしくは延期される中、全州映画祭の開催も見合わせる案も出たとのことだが、すでにチケットを購入済みの人々のことなど諸事情を勘案した結果、開催に踏み切ったとのことである。ものすごい人出の全州を目にするに、その判断は正しかったのであろうとの感を強くした。映画祭開催時期は子どもの日(5日)・釈迦誕生日(6日)など韓国でも祝日の多い時期で、今年は特にカレンダーの並びが良く大型連休になったとか。加えて、全州が誇る伝統家屋が数多く残る保存地区、「韓屋村」の人気が近年飛躍的に高まっていること、そもそも豊かな食文化を誇る、観光地としても魅力的な市であることも相まって、この連休中は地元の人々も驚くほどの人出となった。映画祭側の発表によると、観客動員数は2009年の70.762人に次いで68.477人にのぼったとのことである。メイン会場であるシネコン、メガボックスやCGV、人々の集いの場JIFF広場のある「シネマストリート」は文字通り連日ごった返していた。以前に同映画祭を訪れた時は、シネマストリートではバンド演奏やストリートパフォーマンスが盛大に繰り広げられていたが、今回は自粛されており、仕方ないとはいえ少々残念であった。
**出品作品**
賑わうシネマストリート″ |
JIFF広場に集う人々 |
昨年から新ディレクター、新プログラマーの下、運営体制が大きく変わった全州映画祭。
より広く市民にアピールするべく、‘観客重視の映画祭’の方向に舵を切った、と聞いた際には一抹の不安がよぎったが、アート系の作品にも造詣の深いプログラマーを配し、良質のインディペンデント作品を精力的に上映し続けていることに安堵した。たとえばOrigin Of Three Masters : DOX と銘打った特集では、現在国際舞台でめざましい活躍をみせる日本の是枝監督、オーストリアのウルリッヒ・ザイドル監督、ベルギーのダルデンヌ(兄弟)監督はいずれもドキュメンタリー作家としてキャリアをスタート。今回は彼らのドキュメンタリーを3〜4本ずつ上映するという秀逸な企画であった。
プログラムの面での最大の変化は、全州映画祭の看板企画とみなされてきた「チョンジュ・デジタル・プロジェクト」の改革であろうか。。プログラムの面での最大の変化は、全州映画祭の看板企画とみなされてきた「チョンジュ・デジタル・プロジェクト」の改革であろうか。2000年の映画祭創設以来、当時はまだまだ新しかったデジタルで、共通のテーマ、同予算で約30分ほどの短編作品を3人の監督に依頼し、オムニバス形式で映画祭にて上映。韓国や日本からも錚々たる監督が選ばれており、三本のパッケージとして世界各地の映画祭で上映されることも多かった。が、15回目の今回からは長編作品3本に様変わりした。映画祭側によれば商業公開を含め、各作品がより多くの鑑賞機会を得られるよう、にという意図に基づく変更とのことである。変更後初となった今回はGyorgy PALFI(ハンガリー)、Shin Younshick、Park Jungbum(ともに韓国)の三監督が選出された。
今回の映画祭においては44か国、181本の作品が、全6つの映画館の計13スクリーンで上映された。オープニング作品となったのは、リュ・スンワンら韓国の若手3監督による3Dオムニバス作品『新村(シンチョン)ゾンビ漫画』。韓国映画アカデミー(KAFA)との共同プロジェクトで、同映画祭で初上映の直後、5月半ばから一般公開された。
インターナショナル・コンペ部門は、10本のうち4本が南米の映画で占められた。近年、釜山映画祭がよりアジア圏重視の姿勢を見せてきているのに対してなのかは定かではないが、今回の全州映画祭においては中南米、欧米のインディペンデント作品の紹介に、より積極的に取り組んでいる印象を受けた。そしてグランプリはアルゼンチン、最優秀作品賞はスペイン、審査員特別賞はキューバとスペインの合作が受賞。この部門に関して‘インターナショナルプレミアであること’等の条件は緩いため、すでに他の国際映画祭で上映済みの作品が多かった。‘プレミア’にこだわる傾向の強い韓国の映画祭にしては珍しい。中南米からのゲスト数人と話したところ、「アジアは初めて」という人が少なくなかった。馴染みのない食べ物に少々戸惑いつつも、リラックスし、映画祭を楽しんでいるようだった。
韓国映画の長編コンペティションに加え、「韓国映画」に限定した短編コンペティション部門があるのも全州映画祭の特徴といえるだろう。韓国映画界においては‘有望新人の発見’の意味合いもあり、短編作品への注目度は高く、各大学などの教育機関においても短編制作に力を入れており、総じてレベルは高い。今回のラインナップも見応えのある作品が並んでいた。
他にインディペンデント系作品の配給とマーケティングを支援する‘ムービーコラージュ賞’がCJ−GCV社によって設定されている。全州映画祭は、発足時よりインディペンデント映画製作を振興するべく各企業・団体と協力体制を築く努力をしてきており、昨年の体制変化後も無事継続されている。2009年に映画祭10周年を記念して立ち上げられたプロジェクト・マーケット「全州プロジェクトプロモーション(JPP)」。この企画のためにソウル等からやって来る業界関係者も多い。
**日本映画・日本人ゲストなど**
|
メイン会場『メガボックス前』 記念写真を撮る人々も 多く見受けられた。 |
日本からの招待作品のうち、ほとんどの作品の監督が映画祭に参加した。映画祭においては日本映画の人気は常にとても高いという。ボランティアスタッフのきめ細やかなホスピタリティ、和やかで肩の凝らない映画祭の雰囲気に日本人監督、ゲストの人々は一様に感激の面持ちであった。上映後のQ&Aでは観客の方々から出る質問の質の高さに感嘆していた監督もいた。質疑応答の時間はそれなりにたっぷり取っているのだが、それでも時間が足りず、ロビー等で監督を囲んで熱心な討論が繰り広げられることも珍しくない。ソウルから高速バスで4時間近くかかり、決してアクセスは良くないが、一度来訪するとリピート者が絶えない。各会場や、シャトルバス乗り場、シネマストリートでの交通整理、インフォメーションセンター、あらゆる場所できびきびと働くボランティアの人々の動きには目を瞠り、またとても助けられた、との声も多数。この映画祭の300人のボランティアは総じて非常に感じが良く、優秀である。「街中が映画祭をサポートしてくれている感じがする」と語っていた監督も。閉会式である受賞者(他国の監督)が壇上で「われわれを常に支えてくれた黄色いジャケットの皆さん(=ボランティアスタッフ)にも心からお礼を言いたい」と言っていたが、それは多くの参加者たちの感想でもあった。