公益財団法人川喜多記念映画文化財団

千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル

パノラマ

コラム


◇上海電影博物館
  Shanghai Film Museum


1Fロビーの大きな吹き抜けの空間には
映画機材が吊り下げられて飾られている
 

 上海市徐匯区漕渓北路595号。ここ上海で映画文化が花開いた戦前期、映画スタジオがオープンした場所だ。この撮影所跡地に2013年6月、上海電影博物館(上海映画博物館)が開館した。巨大なビルの1階〜4階が展示スペースになっており、一気に4階までエレベーターで上がり、上の階から順に観る作りになっている。展示されているのは、100年に渡る中国映画の世界。映画のしくみや映画そのものを展示するというよりも中国映画に焦点をあてた構成だ。上海を中心とした中国の映画スターや監督、撮影機材や特殊メークなどの技術展示、そして映画上映を楽しむことができる。入場料は大人200元。

<膨大な映画関連資料>

 広いスペースに圧倒されてしまったが、4層からなる展示エリアには実に3000点もの映画資料が展示されている。映画スターや監督の写真、カメラや映写機もひとつふたつではなく歴代のものがずらりと陳列され、スケールの大きさに目をみはるばかりだった。
 プリント缶が壁面一面にディスプレイされているのを見るのも初めての経験だったが、上海国際映画祭では数少ない例外を除きほぼすべての作品がDCP上映されている今、プリントはもはや映画史上の資料なのかもしれない。
 中国映画が国際映画祭等で受賞した際のトロフィーを一堂に集め展示したケースの巨大だったこと。オープンまで5年をかけ、多大な予算を持って完成した大きな施設である。その他、映画撮影風景のジオラマや租界時代の上海の街並みの再現など立体的に見せる展示も多くあり、上海生まれの作家張愛玲の愛したカフェが復元されているコーナーもあった。

4Fに着くと電飾レッドカーペットの花道。
センサーが感知し左右から歓声と
シャッター音が流れる
 
壁一面にコラージュされた中国映画人たち
 
 
 
謝晋監督の特集展示
 
 
 
サイレント映画の展示コーナー
 
 
 
アフレコ体験コーナー
 
 
 
8mm, 16mm, 35mmの他、1970年代に
中国で使用された35mmを4等分した
8.75mmフィルム用映写機も展示されている
 


<テクノロジー>

 膨大な資料の量と共に印象深かったのは、ハイテクだった。上海映画史100年をまとめたデータベースをタッチスクリーンで操作し自由に見ることができる。まるでハリウッド映画にでてくる近未来の世界のようだった。
 また、閲覧者が自由に操作できるサービスとしては、上海映画文化が花開いた戦前戦中の年代の名作が観られるコーナーが設置されていた。これは映画そのものを鑑賞できるサービスである。5席強のスツールが客席風に置かれ、10本ほどの作品の中から観客が自由に選ぶと大きなモニターに映し出されるようになっていた。この操作もすべてタッチパネルで閲覧者の自由自在である。

 上海アニメーションのコーナーも充実しており、ここでもいくつかのアニメーション作品を自由に観ることができる。

 
 
 
 
手塚治虫との交流にも
触れられている
 

 さまざまな製作会社の映画をここまで自由に使うのは、著作権の問題上、日本では全く不可能であろう。    こういったことが可能になるのは、中国での著作権の考え方の違いはもちろん、同じ住所内に本部を構える上海電影(集団)公司(博物館もグループの一員)の存在も大きいと思う。この場所は、中華人民共和国成立以後(1949年〜) には上海電影製片廠(現在の上海電影(集団)の母体となったスタジオ)として常に上海映画界の中心に存在してきた。
 博物館内の上映施設としては、4Dのシアターを含む4つの映画館が設置されている。来訪時は上海アニメの4D上映を行っていた。特集上映も企画され、中国映画以外のプログラムも組まれている。展示・上映の他、上海電影博物館はフィルムアーカイブとして資料収集・修復、出版事業なども行っている。

《神女》上映当日の
電影博物館正面玄関
 

 6月15日、博物館の上映プログラムに組まれていたのは、デジタル復元された阮玲玉主演の《神女》(『女神』)だった。1934年の公開以来、この日まで上海で上映されたことはなく、まさにこの作品が制作された第五スタジオ跡地の会場で上映されたことは意義深いことだったと思う。フルオーケストラの伴奏付きで上映され、スタジオを思いおこさせる天井の高い箱型の空間に設けられた200席は満席だった。  《神女》を修復したのは北京の中国電影博物館だが、一方、映画祭のオープニングを飾った謝晋監督の《舞台姐妹》は上海電影資料館がデジタル復元した作品で、4KのDCPとして色彩も美しく蘇った。映画祭プログラム内では、今年新たに世界各国の名作を上映する4Kリマスター部門が設けられるほどデジタル化への積極的な取り組みが見られ、『太陽がいっぱい』や『タクシードライバー』『フィラデルフィア物語』などの名作が上映されていた。阮玲玉主演作としてはもう一作品《恋愛与義務》リマスター版が台湾の電影資料館の協力のもと弁士付きで上映された。




映画祭情報トップページへ