公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇全州(チョンジュ)国際映画祭 2015/4/30-5/9
JEONJU INTERNATIONAL FILM FESTIVAL
**受賞結果** | ||||
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International Competition部門 | グランプリ | Poet on a Business Trip (JU Anqi監督:中国)) |
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最優秀作品賞 | Navajazo (Ricardo SILVA監督:メキシコ) |
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審査員特別賞 | Parabellum (Lukas VALENTA RINNER監督:アルゼンチン、オーストリア、ウルグアイ) |
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Korean Competition部門 | グランプリ | Alice in Earnestland (AHN Goocjin監督) | ||
Korean Competition for Shorts(短編)部門 | グランプリ | Blossom (HAN Inmi監督) | ||
最優秀監督賞 | A Crevice of Violence (LIM Cheol監督) | |||
審査員特別賞 | A Lonely Bird (SEOJUNG Sinwoo 監督) | |||
CGV Movie Collage Award | -(配給支援) | With or Without You (PARK Hyuckjee監督) | ||
-(次回作制作支援) | To be Sixteen (KIM Hyeonseung監督) | |||
NETPAC賞 | Under the Sun(AHN Seulki監督:韓国) |
**概観**
各種パーティ復活 |
チョンジュ映画祭広場に 集う人々 |
昨年は映画祭直前に発生したセウォル号沈没事故の影響で、かなりの自粛モードの中で開催されたが、今回は従来通りの映画祭らしい華やかさに包まれていた。韓国の映画人も今回は多数参加し、レッドカーペットを盛り上げた。各種スポンサーによるパーティも復活。特に積極的に参加したいわけではないが、通常の状態に戻ったことになんとなくほっとする。
全州映画祭の開催時期は(日本ほどではないものの)韓国でも‘ゴールデンウィーク’とよばれるホリデーシーズン。チョンジュ市も観光客誘致に力を入れているとのことであるが、とにかくたいへんな人の多さである。現在は高速鉄道KTXがソウルから繋がったのも一因であろう。映画祭会場からもほど近い伝統家屋が数多く残る保存地区、「韓屋村」は休日の昼間は人をかき分けなければ進めないほどの強烈な混雑ぶりで、ほとんどテーマパークと化している。一訪問者としてはかつての風情が失われてしまったのは残念である。
今回の映画祭のテーマとして’Expansion’(拡張)、を掲げ、いろいろな点での「拡張」を試みたチョンジュ映画祭。特に空間としての広がりに力を入れたとのことである。具体的には映画祭会場を増やしたことが挙げられる。なかでも特筆すべきはチョンジュスポーツ競技場における屋外上映の導入であろう。オープニング、クロージング両セレモニーも同競技場にて行われた。広く市民に映画祭への積極的な参加を呼び掛けるのが主目的とのことで、クロージングセレモニーとそれに続くクロージング作品は入場無料。さらに新設のシネコン‘CGV
Jeonju Hyoja’がメイン上映館として加わった。 ‘CGV Jeonju Hyoja’は映画祭関連施設が集まる市の中心部「シネマストリート」からバスで20-30分ほどの場所に位置するが、シャトルバスの運行が比較的スムーズに機能していたためそれほどの不便は感じられなかった。映画祭側の発表によると、今年は47か国より200本の作品が上映され(長編158、短編42)、観客動員数は75.351人で、昨年に較べ6.874人増。これら上映施設の増加によって総上映回数は440回、昨年より109回増加したとのことである。
100作品のポスター展 |
「広く市民に向けた映画祭」を志向している様子は屋外上映の導入以外にも随所にうかがえた(数年前のメインプログラマーの解雇事件の引き金となったのはこの「市民に向けたサービス的要素の欠如」といった問題だった)。個人的には映画祭の主役はあくまでも映画なので、イベントはほどほどで良いと思ってしまうが、運営資金の多くを市や州に頼っている場合そうもいっていられないのだろう。映画祭の中心地シネマストリートは大勢の人が繰り出す中、さまざまなイベントが展開されていた。
なかでも道行く人々の目を引いたのは100作品のポスター’展。韓国を代表するグラフィックデザイナーたちが今回のチョンジュ映画祭公式出品作品のうち100作品の図柄を独自にデザイン、それらがバナーとなってシネマストリートを飾る様は壮観であった。
シネマストリートに設置された「チョンジュ・ラウンジ」や「チョンジュ映画祭広場」においては連日、野外ライブやフリーマーケットといったイベントが繰り広げられ、たいへんな賑わいをみせていた。必ずしも映画を観に来たお客さんばかりではなかっただろうが、まあそれはそれで良いにちがいない。
**出品作品**
お祭り要素はさておいて、映画祭の主役は映画である。屋外上映では多くの市民の人々が楽しめるであろう、大衆向け作品が上映されたが、やはりチョンジュ映画祭の真骨頂は秀逸なインディペンデント映画のプログラム。セクション分け等にいくつかの再構築が行われつつも、チョンジュ映画祭が培ってきた「オルタナティブな映画を積極的に上映する」スタイルを踏襲している。今年も基本的にエッジの効いた個性豊かなアート系作品で構成されていた。
インターナショナル・コンペ部門をはじめ、昨年に引き続き南米の作品が確かな存在感を示していた。また今年は’Greek New Wave’と銘打って、近年勢いのあるギリシャ映画の新潮流を特集。遥かギリシャより招かれた監督たちは、積極的に各作品の解説などに励んでいた。ドキュメンタリー作家として確固たる地位を築いているワン・ビン監督(中国)のユニークなミニ特集も見応えがあった。ワン監督の三作品(『Father and Sons』『Man with No Name』『Traces,』)の上映に加えて、同監督作の約40の写真と映像で構成された小エキシビションも好評を博した。このエキシビションは映画関係者たちが集うチョンジュ・シネマコンプレックスにて開催されており、同監督の作品を観なれているであろう関係者の歓心を得た。
韓国映画に関しては長編・短編ともに徹底してインディペンデント映画(そのほとんどがプレミア)の上映に努めていた。チョンジュ映画祭の短編部門は高水準の作品が揃うことで定評があり、業界からの注目度が高い。昨年2014年の入賞作品『Hosanna』が、チョンジュ後に2015年2月のベルリン映画祭短編部門に出品されたり、昨年の受賞監督の長編作品デビューが決定したり、といった実績が好循環を生んでいる。
インディペンデント作品を応援する姿勢は作品の上映のみではない。今回もCJ−GCV社による‘ムービー・コラージュ賞’は健在で、インディペンデント系作品の配給とマーケティングを支援している。また2009年に映画祭10周年を記念して立ち上げられたプロジェクト・マーケット「全州プロジェクトプロモーション(JPP)」においては製作やポストプロダクションに関してのさまざまな支援対策を組んでいる。このJPPへの参加を目的に、週末だけソウルからやって来る業界関係者も多い。
チョンジュ映画祭の看板企画として2000年の映画祭創設時より注目を集めてきた「チョンジュ・デジタル・プロジェクト」は昨年からそれまでの短編3本のパッケージから、長編3本の制作に変更になっている。このプロジェクトによって映画を上映するだけでなく、制作・配給まで手掛けることになり、インディペンデント映画を推進するチョンジュ映画祭の象徴ともいうべきプロジェクトとみなされている。今回から ‘デジタル’の文字が消え、「チョンジュ・シネマ・プロジェクト」に名称が変更された。確かに今となっては‘デジタル’が主流なのだから、あえて付ける理由はないだろう。
今回新設された’Cinematology’は「映画を通じた教育」をモットーとし、世界の映画史、映画作家などを提示すべく、作品の上映に加えて、監督や識者によるトークプログラムを織り交ぜ。今回はファスビンダー、アルトマン、ソクーロフといった巨匠についてのドキュメンタリー、エイゼンシュタインを主役に据えたフィクションなど見応えのある9本で構成。いわゆる「シネフィル」の人々をも満足させるセクションとなった。
**日本映画・日本人ゲストなど**
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『トイレのピエタ』Q&A (松永大司監督、野田洋次郎氏) |
コンペティション部門に日本からは松永大司監督作『トイレのピエタ』が出品された。松永監督は過去にドキュメンタリー『ピュ〜ぴる』や短編作品が数回チョンジュ映画祭で上映されており、同映画祭との相性が良い監督である。今回は初の長編フィクション作品にて、満を持してのコンペティション部門出品となった。『トイレのピエタ』は漫画・手塚治虫氏の病床日記に触発されて脚本・演出を手がけたオリジナル作品。主演の野田洋次郎氏は映画初主演ではあるものの、ミュージシャンとしての人気も高く、野田氏の舞台挨拶付上映にはコアな若い韓国人女性ファンたちが多数駆けつけていた。残念ながら受賞は逸したが、注目度は抜群で大いに好評を博した。
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『フリーダ・カーロの遺品』Q&A (小谷忠典監督) |
今回も日本からの招待作品のうち、ほとんどの作品の監督が映画祭に参加し、積極的に現地の人々と交流を楽しんでいた。日本語で話しかけてくる観客も少なくない。参加した監督たちによると、チョンジュ映画祭は「リラックスしつつ、多くの刺激を受ける映画祭」。ここ数年は国際交流基金ソウルセンターが映画祭に参加している日本関係者が集う会を主宰してくれており、日本においてはあまり接する機会のない日本人同士が交流する良き機会になっている。