公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇釜山国際短編映画祭 2016/4/22-26
BUSAN INTERNATIOANL SHORT FILM FESTIVAL
http://www.bisff.org/
**受賞結果** | ||||||
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International Competition部門 | グランプリ | Eden Andrea Ramirez Pulio監督(コロンビア) | ||||
Excellence Award | Tendeness Emila Zielonka監督(ポーランド) | |||||
審査員特別賞 | A Woman and Her Car Loic Darses監督(カナダ) | |||||
スペシャル・ メンション |
Senior Teacher Sha Mo監督 (中国) 7 Sheep Wiktoria Szymanska監督 (ポーランド/UK/フランス/メキシコ) |
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Busan Cinephile Award | 90 Degrees North Detsky Graffam監督(ドイツ) | |||||
Korean Competition 部門 |
グランプリ | Deer Flower Kim Kangmin監督 | ||||
Excellence Award | From Now On Lee Kyeongwon監督 | |||||
審査員特別賞 | Bargain Lee Chunghyun監督 | |||||
スペシャル・ メンション |
Half-Day Choi Jinyoung監督 The Plants:Jakarta Monorail Park Yongseok監督 |
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Busan Cinephile Award | Bargain Lee Chunghyun監督 | |||||
NETPAC賞 | Sul-Hee Bae Teonhee監督(韓国) |
**日本からの出品作品** | ||||
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Competition | 「想い出の中で」 完山京洪監督 | |||
Landscape of Asian Shorts | 「きつね憑き」 佐藤美代監督 | |||
Shorts For Family | 「エンドローラーズ」 吉野耕平監督 |
**概観**
閉会式 主催者、受賞者、審査員らが壇上に |
今年の出品作の監督たち |
釜山国際短編映画祭は今年で33回目を数えた韓国最古の歴史ある短編映画祭である。開催当初は"韓国短編映画祭"として、韓国作品のみを対象としていたが、2000年に”釜山アジアン短編映画祭”と改称し、その後2010年に現在の"釜山国際短編映画祭"となり、以後フィクション、ドキュメンタリー、アニメーションなどジャンルを問わず短編映画を上映している。国際審査員による賞(賞金も出る)も複数設けられている。今年は109か国から4497本の応募作品があり、40か国から140作品が出品された。上映の多くは「5作品を1セット」で1プログラムとされていた。短編とはいえ、応募資格が60分以内の作品であることから、なかには長編を一本観たような感覚を覚える作品もある。韓国の短編映画の水準は非常に高いとよくいわれるが、特に釜山国際短編映画祭は著名監督たちの長編監督デビューへの登竜門の場となったこともことでも知られており、主だったところでは『シュリ』のカン・ジェギュ監督や、『ユリ』のヤン・ユノ監督、『17才』のキム・テヨン監督など韓国を代表する監督が挙げられる。今回もかなりクオリティの作品にいくつか遭遇した。主な観客は学生と思われる若者たちであるが、土日は意外にも中年以上の大人の姿も少なくなかった。作り手である監督たちも概ね若く、映画祭全体が非常にフレッシュ、活気に溢れている。韓国人監督の作品の場合は、友人や関係者が多数詰めかけて、監督を激励したり、記念撮影を楽しんだりといった微笑ましいシーンもあちこちでみられた。カタログをみるに女性監督も多い。
5日間という短めの映画祭ではあるが、通常のプログラムはもちろんのこと、特別企画・イベントもほどよく効率的に組み込まれていた。今年は「特別ゲスト国」としてオーストリアがフィーチャーされており、’スポット・オン・オーストリア’と題して、在韓国オーストリア大使館の協力の下、オーストリアの実験的な短編作品、ミュージックビデオ風音楽作品などで編成された充実の特別プログラムが組まれた。オープニングセレモニーでは映画と音楽のコラボレーションともいうべき、前衛的なパフォーマンス『Tristes Desetrs - A Robot’s Tale』が披露された。今回のインターナショナル・コンペ部門の審査員でもあるオーストリアのStephanie Winter監督の監修。役者たちのダンスやDJも加わり、見応えのある舞台に観客も満足げな様子であった。また次年度の「特別ゲスト国」はカナダに決定しているということで、カナダからはその前哨戦として5本ほどプログラムが組まれていた。幅広い層の市民に映画を届ける努力も随所にみられる。「ショート・フォー・ファミリー」部門においてはその名のとおり、家族みんなで観られるタイプの作品を提供し、「カーテンコール」部門では世界各地の映画祭ですでに上映されている短編の中から選りすぐった作品をセレクトし、釜山の市民に届けようと試みている。また「ムーンライト・シネマ」と題し、週末の夜に市内の景観の良い場所二か所で、主にファミリー向け作品の野外上映を行っていた。そして質疑応答をできるだけ多く設けるよう努めているとのことであった。
’ムーンライトシネマ‘。野外での鑑賞。 |
メイン会場「釜山市シネマセンター」の夜の様子 |
映画祭のメイン会場は10月の釜山国際映画祭と同じ、通称「映画の殿堂」、釜山シネマセンター。オープニング及びクロージングセレモニーも同センターにて行われた。どちらの式もいくつかの挨拶など式典の必須メニューはきちんと組み込まれていながら、堅苦しさのない気持ちの良い式であった。オープニング映画は中国のYing Liang監督による『A Sunny Day』。Ying Liang監督の現在の拠点である香港を舞台に、父娘のお互いへの思いやりや葛藤を情趣豊かに描いた佳作であった。それに続くパーティーでは地元の婦人たちが韓服に身を包み、韓国茶や菓子をその場で給してくれるなど、韓国らしい趣に溢れたホスピタリティが印象的であった。ゲストたちへのケアは非常に手厚く、スケジュールなどの指示も的確。鮮やかな黄色のフリースを着たボランティア(ほとんどが学生)のきめ細かな心遣いと熱心な仕事ぶりにもいろいろな場面でとても助けられた。(韓国の他の映画祭でもボランティアの‘制服’は黄色いフリースだが、取り決めがあったりするのだろうか)韓国のやはり他の映画祭でもよく聞く話であるが、国際映画祭のボランティア志願者はとても多く、選ばれるのはなかなかに狭き門なのだという。この熱意はどこからくるのだろう。映画祭側の主催によるゲスト同士の交流の会が映画祭会場付近でほぼ毎晩開かれており、5日間の間にほとんどのゲストと顔見知りになることができた。
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ゲストたちの交流の場が毎夜設けられていた |
**ショート・フィルム・フォーラム**
BISFFショートフィルム・フォーラム |
若者たちが楽しげに集う和やかな空気の中で進行する映画祭であるが、その一方で硬派なセミナーも充実している。映画祭プログラムの一環として、‘BISFFショートフィルム・フォーラム’と銘打ち、隣接する会場で活発な討議が繰り広げられた。「アジアにおける短編映画の現在と未来」を主題とし、シンガポール、マレーシア、日本、中国、台湾それぞれの国の現場に精通している識者たちがパネラーとモデレーターとなり、各国の短編映画制作や行政機関による支援の状況などが語られた。かなり貴重な話の数々であったのだが、大幅に時間がおしてしまい、後半は駆け足になってしまったのが惜しまれる。聴衆との質疑応答があればさらに良かったのではないかとの思いも残った。ともあれ、主催者(釜山短編映画祭と地元の大学や研究センターによる共同主催)と参加者の短編映画に対する情熱が感じられる意義深い行事であった。
**日本映画・日本人ゲストなど**
インターナショナル・コンペティション部門には日本からは完山京洪監督作『想い出の中で』が出品された。そしてショート・フォー・ファミリー部門出品の吉野耕平監督作『エンドローラーズ』はVIPOの企画であるndjc(若手映画作家育成プロジェクト)の中の一作品。釜山国際短編映画祭では昨年もndjc 作品の一本が選ばれている。ndjcは優れた若手映画作家の発掘と育成を目的に、本格的な映像制作技術と作家性を磨くために必要な知識や技術を継承するためのワークショップや制作実習を実施するプロジェクト。具体的にはシナリオ開発と35mmフィルムによる撮影を必須とした完成尺25分以上30分以内の短編映画の制作を行っている。同映画祭もVIPOからの近年のアプローチを歓迎しているという。また日本からの応募が他国に比して少ないため、より積極的な参加を望んでいるとのことであった。世界から識者が審査員やゲストとして訪れ、温かい雰囲気の中、適切な批評を受ける機会にも恵まれる同映画祭。日本からのさらなる応募を呼びかけてゆきたい。