公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇全州(チョンジュ)国際映画祭 2016/4/28-5/7
  JEONJU INTERNATIONAL FILM FESTIVAL

 

**受賞結果**
International Competition部門 グランプリ Sand Story  Elite Zexer監督(イスラエル)
最優秀作品賞 Short Stay  Ted Fendt監督(アメリカ)
審査員特別賞 The Wounded Angel  
エミール・バイガジン監督(カザフスタン・仏・独)
Korean Competition部門 グランプリ Our Love Story  Lee Hyunju監督
Delta Boys  Ko Bongsoo監督
スペシャル・メンション Breathing Underwater  Koh Heeyoung監督
Korean Competition for Shorts(短編)部門 グランプリ Summer Night  Lee Jiwon監督
最優秀監督賞 Cyclical Night  Paik Jongkwan監督
審査員特別賞 Deer Flower  Kim Kangmin監督
CGV Movie Collage Award -(配給支援) Breathing Underwater  Koh Heeyoung監督
-(次回作制作支援) Delta Boys  Koh Bongsoo監督
NETPAC賞 Spy Nation  Choi Seungho監督(韓国)

 *日本からの出品作品はこちらから

 

**概観**


新たに映画祭会場に加わったCGV
  
 ポスターに彩られたシネマ・ストリート。
  

全州映画祭は良い意味で試行錯誤を繰り返している。17回目を迎えた今回、同映画祭発祥の地である「シネマ・ストリート」とよばれている地区に映画祭会場、関連施設を集中させた。昨年、屋外上映を導入するにあたり、チョンジュ・スポーツ競技場を使用したが、今年はシネマ・ストリートに沿った多目的広場「CGVチョンジュ映画祭ステージ」内の特設屋外施設に変更。また、シネマ・ストリートに今年2月に誕生したCGVをメイン会場として(前回使用したメインエリアからやや離れたCGV Jeonju Hyojaに代わって)組み入れ、よって、徒歩3分ほどの距離にある3つのシネマコンプレックス(メガボックス、チョンジュ・シネマタウン)すべてを映画祭で使用できるようになった。映画祭を訪れる観客のためのラウンジ、国内外からの映画関係者たちが休息を取れるラウンジ、プレスセンターなどすべて徒歩圏内にあり、たいへん便利。シネマ・ストリートから一本入った道に‘映画ホテル’という名の近代的なホテルが昨年末に開業していた。「映画地区」の趣きがますます増している。


‘100作品のポスター展’のポスターや、
関連商品を扱うショップ


昨年に引き続き‘100作品のポスター展’がシネマ・ストリートを中心に街を彩った。そこからほど近い通りにそれらのポスターを扱う特設の店もできており、他にも映画関連本、ポストカードなどを販売。連日多くの人が詰めかけており、映画祭側によると一日当たり200人以上が訪れたとのことである。屋外上映会場を擁する「CGVチョンジュ映画祭ステージ」においては、映画上映のほかにも音楽ライブやトークが盛んに行われ、休日を中心に連日大盛況、祝祭ムードに満ちていた。



今年は45か国より211本(長編163 本、短編48本)の作品が上映された。総上映回数は503回、そのうち219回の上映は完売であった。過去二年ほどはトータル10日間の期間中、7日目に贈賞を行う「閉会式」を行い一区切りをつけ、残りの3日間は市民向けの作品上映、といったやや変則的な形態を取っていたが、今年はかつてのように最終日である10日目(5月8日)に贈賞も含めた「クロージングセレモニー」を執り行う形に戻した。

シネマ・ストリート入口。昨年までの’JIFF’から
‘Jeonju Film Fesitval’に変わっていた。


今年も同映画祭は「チョンジュ市の映画祭」であるという点を強調し、市民との協力関係を強化し、理解を求めようとしている姿勢があちこちにうかがえた。’’Jeonju, Spring Cinema City’(チョンジュ、春のシネマの都)を今年のモットーに挙げ、プレスリリースに「今年から従来の通称’JIFF’を使用しないことに決定した」とあり、注意してみてみるとポスターその他にたしかに使用されておらず、すべて’Jeonju IFF‘となっていた。今後はこの通称でゆくとのことである。






CGV Jeonju IFF ステージ。屋外上映、ライブなどのイベントが盛んに行われた。


**出品作品**

映画祭開催の可否で揺れる釜山映画祭の混乱をよそに、チョンジュ映画祭は今回も果敢に政治的問題を扱った映画を何本もラインナップに盛り込んだ。もともとチャレンジングな作品選択が特徴の映画祭であるが、ここしばらくは比較的穏当な作品が多かった。しかし今年は面目躍起とばかりに‘攻める’作品がひしめいていた。韓国の情報機関である国家情報院のスパイねつ造事件を扱った『Spy Nation』(チェ・スンホ監督)は映画祭中、特に話題をさらった一作で、最優秀ドキュメンタリー賞及びネットパック賞を受賞した。また、李明博政権時に与党側から送り込まれた社長の就任に反発したり、政権に批判的な報道を行った結果失職したジャーナリストたちの復職闘争を扱った『Seven Years-Journalism without journalists』(キム・ジンヒョク監督)の上映にあたっては当事者のジャーナリストたちが登壇し、報道規制を強く非難する一幕もあった。こういった作品への注目度は高く、チケットは早々と完売したとのことである。ファミリー層向けの大衆的な作品、芸術性の高い作品も少なからず上映する一方で、体制に対して批判的な映画を臆さずに上映するところがチョンジュ映画祭の魅力といえるだろう。韓国内でメディアへの政治介入が問題化しているこの時期に政治的に微妙なテーマの作品をあえて選択、上映する意味は非常に大きい。

今年の特集上映は‘Shakespeare in Cinema’と題し、数あるシェイクスピア戯曲の映画化作品の中から、ブリティッシュ・カウンシルの協力の下、『ヘンリー四世』『リア王』『マクベス』『テンペスト』『リチャード三世』等、見応えのある8作品をデジタル上映。クラシックファン以外も楽しめる特集となった。もうひとつの特集はチリの近年の秀作選。南米作品の紹介に熱心なチョンジュ映画祭らしい試みであった。

4月末、韓国政府からの今年度の国際映画祭育成支援事業への助成金が発表された。全額カットも噂された釜山映画祭への助成金は大方の予想に反して増額されたのに対し、チョンジュ映画祭へは前年比4000万ウォン(約370万円)の削減であった。何らかの圧力では、との声も一部にはあると聞く。前述のように、チョンジュ映画祭のプログラミングは大衆的な作品や芸術性の高い作品など多様なタイプのものから成っており、別に論議を呼びそうな作品ばかりに偏っているわけでは決してない。映画祭開催前に韓国のメディアに対し、キム・ヨンジン氏(チーフ・プログラマー)も映画祭組織委員長でもあるキム・スンス氏(チョンジュ市長)も「表現の自由」の大切さを訴えていた。今回のように社会批判を込めた作品を含む多様な作品が選出、上映され続けてゆくことを期待したい。


Jeonju IFF広場にて。
オブジェやバナーは映画祭の名前入り。


**日本映画・日本人ゲストなど**

残念ながらインターナショナル・コンペティション部門に日本からの出品作はなかった。さらに言えば同部門はほとんどがアジア圏以外の国の作品で占められていた。ここしばらくアジア圏の作品が減少している傾向にあったが、今回はより顕著といえるだろう。「韓国映画コンペ部門」は別枠としてあるので韓国映画は別にして、それ以外のアジア映画の存在感がおしなべて希薄であった(もっともそれはチョンジュ映画祭に限ったことではないが)。日本映画出品作も微減した。とはいえ、今回も日本からは招待作品のうち、ほとんどの作品の監督もしくは関係者が映画祭に参加し、上映時の質疑応答をはじめ映画祭体験及び現地の人々と交流を楽しんでいた。濱口竜介監督作の『ハッピーアワー』は5時間28分を休憩なしの上映とのことで少々心配していたが、ほぼ退出者もなく、観客の反応も非常に良い上映であったとのことである。

上映後、観客からの質問に答える
舩橋淳監督。 

また、舩橋淳監督の『道頓堀よ、泣かせてくれ! DOCUMENTARY of NMB48』は日本同様、独自の‘アイドル文化’をもつ韓国の観客は興味をそそられる部分が多かったようで、さまざまな質問の飛び交う、充実の質疑応答であった。






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