公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇全州(チョンジュ)国際映画祭 2017/4/11-5/6
JEONJU INTERNATIONAL FILM FESTIVAL
**受賞結果** | ||||
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International Competition | グランプリ | Rifle Davi Pretto監督(ブラジル) | ||
最優秀作品賞 (Woosuk Award) |
The Park Damien Manivel監督(フランス) | |||
審査員特別賞 | In Between Maysaloun Hamoud監督 (イスラエル・フランス) The Human Surge Eduardo Williams監督 (アルゼンチン・ブラジル・ポルトガル) |
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Korean Competition | グランプリ | The Seeds of Violenc IM Taegyu監督 | ||
Korean Competition for Shorts(短編)部門 | グランプリ | Alone Together BAE Gyung-heon監督 | ||
最優秀監督賞 | Bomdong CHAE Euiseok監督 | |||
審査員特別賞 | Hye-Young KIM Youngsam監督 | |||
CGV Arthouse Award upcoming project prize | -(配給支援) | The Seed of Violence IM Taegyu監督 | ||
-(次回作制作支援) | Happy Bus Day Lee Seungwon監督 | |||
NETPAC賞 | Blue Butterfly Effect. KIM Heecheol監督(韓国) | |||
最優秀ドキュメンタリー賞 | Blue Butterfly Effect. KIM Heecheol監督(韓国) |
**概観**
第18回チョンジュ国際映画祭は「Outlet for Cinematic Expression(映画表現の解放区)」をスローガンに掲げ、4月27日から10日間にわたり開催された。表現の自由を脅かす権力に屈しない姿勢を、スローガンにして前面に打ち出しているところが頼もしい。朴槿恵(パク・クネ)前政権下における釜山映画祭への上映作品選考への介入問題、政府に批判的とされる文化人(映画人を含む)のブラックリスト作成問題など、「表現の自由」について韓国映画界が大きく揺れていたことが念頭にあるのはいうまでもない。上映作品は今年も一般市民が楽しめる商業映画や世界各国から選りすぐられた野心作等と並んで、韓国の政治・社会問題にを材を取った劇映画・ドキュメンタリーが存在感を放っていた。
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屋外上映会場・チョンジュドーム |
今年も全州映画祭は改革を続行した。念願だったという屋外上映を一昨年に導入した際にはチョンジュ・スポーツ競技場が使用されたが、昨年は多目的広場「CGVチョンジュ映画祭ステージ」内に暫定的に設置した野球場のような施設に移した。そして今回は‘チョンジュ・ドーム’と名付けられた3000人収容可能なドーム型の会場を多目的広場内に作り、屋外上映のみならず開幕式・閉幕式も開催した。昨年は雨や寒さの中での上映に悩まされたというが、ドームでは天候の影響を受けないという意味でも主催者側・観客側双方にとってありがたい形態である。これに伴い昨年までの部門名’アウトドア・スクリーニング’は’チョンジュドーム。スクリーニング‘に改称された。尚、チョンジュ・ドームにおいては作品上映の他に市民向けの音楽イベントなどもさかんに行われていた。またわれわれ外国人ゲストにとっては映画祭のメインエリアであるシネマ・ストリートからすぐ近くに外資系大型ホテルが映画祭開催直前に開業し、今回の宿泊地となったのも朗報であった。毎年、時間があいてしまった時に徒歩では帰りづらいホテルに戻るかどうか悩ましかったので。
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イラストがかわいいい 「インフォメーションデスク」側面 |
映画祭の発表によると上映作品は58の国と地域から229本、観客動員数は7万9107人でいずれも過去最高を記録したとのことである。チョンジュ映画祭の会期は韓国の大型連休に重なっているため、この時期韓国各地から旅行客が観光地・チョンジュ市に大挙して押し寄せる。とはいえ、旅行客が映画上映に足を運ぶのは稀で、映画祭の観客は圧倒的に市民で占められている。映画祭運営側もチョンジュ市民の支持を得、市民を映画祭に近づけるべく努力を続けているのが随所に見て取れる。300人を超えるボランティアスタッフ(主に若者)が会場周辺のあちこちに点在し、観光客や映画祭のゲストに丁寧に応対し、映画祭を支えていた。恒例となった‘100作品のポスター展’が今年もシネマ・ストリートを中心に街を彩った。「CGVチョンジュ映画祭ステージ」や公式会場のひとつであるメガボックス前においては、音楽ライブやトークショーが頻繁に行われており、大学生と思われる若者たちを中心に連日盛り上がりをみせていた。
シネマストリート: 通りに沿って映画祭バナーがはためく |
メガボックス前: 毎日さまざまなパフォーマンスが繰り広げられていた |
**出品作品**
「Outlet for Cinematic Expression( (映画表現の解放区)」をスローガンとした今回のチョンジュ映画祭には前回に劣らぬチャレンジングな作品が目白押しであった。たとえば朴槿恵前大統領(*上映作品の選考が行われていた時期はまだ現役の大統領であった)の両親である故・朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領とその夫人を崇拝し、娘である朴槿恵氏を半ば盲目的に支持している人々に迫ったドキュメンタリー『ミス・プレジデント』。この‘崇拝派’ともいうべき人々をメディアが取り上げるのは異例とのことで、それを映画祭という場で上映するのはさらに異例だそうだ。映画祭カタログのプログラムディレクターによるこの作品の解説文には歯に衣着せぬ刺激的な言葉が並んでいて興味深い。またチョンジュ映画祭が製作を支援する「チョンジュ・シネマ・プロジェクト」の一作品として上映された『Project
N』(Lee Chang-jae監督)は、一弁護士から国のトップである大統領に上り詰めた故・盧武鉉(ノム・ヒョン)元大統領の人物像に迫った作品であった。『State
Authorized Textbook(=国定教科書)』(Baek Seungwoo監督)は朴槿恵前大統領が推進し、物議を醸し出した国定歴史教科書をテーマとしたドキュメンタリーで、この国定教科書は文在寅現大統領によって廃止される見込みとのことである。
チャレンジングな作品たちが注目される一方で、映画祭のプログラムは市民への目配りもほどよく利いており、韓国のスター俳優を招いての商業映画の上映やファミリー向け作品も一定数きちんと確保し、和やかな祝祭感を演出していた。そして各国から選出されたメインの作品群及び特集上映(マイケル・ウィンターボトム、イム・グォンテグ両監督の特集、イタリアの近年の秀作選など)は今年も非常に充実しており、本格的な映画愛好家を満足させるに足る、世界各地から作家性の強い作品が並んでいた。インターナショナルコンペティション部門においては少々再考が必要かもしれない、と個人的には思う。同部門の10作品の内訳はアルゼンチン、メキシコ、ブラジル、チリといった南米勢、フランス・カナダなどフランス語圏勢、そして韓国映画が1本入っているが、他のアジア勢の姿はない。昨年も同様の傾向で、少々バランスの悪さを感じる。もちろん作品の質が最重要視されるのは言うまでもないが、この部門の作品本数を増やすなどしてアジア映画の入る余地を作る工夫はされても良いように思える。
**日本映画・日本人ゲストなど**
チョンジュ映画祭開催前の日本では、「朝鮮半島の緊張状態が一触即発、この時期の訪韓な無謀なのでは」といった論調の報道が大々的になされていた。が、招待を受けた監督及び関係者のほとんどがチョンジュ映画祭への出席を敢行した。実際に訪韓してみるとソウルの空港でもチョンジュでも拍子抜けするほど通常と変わらない生活が繰り広げられており、日本の報道との落差に驚きを禁じ得なかった。
参加した監督たちは例年同様、韓国の観客の人々の真面目な鑑賞姿勢や熱い反応、積極的な質疑応答、充実のホスピタリティに対して感激の様子であった。上映後の質疑応答はそれなりの時間を取ってはいるが時間内に終わることの方が珍しく、終了後にも会場のロビー等で監督や関係者を囲んで意見交換や記念写真の撮影で盛り上がっている光景があちこちでみられた。なかでも『Start
Line』の質疑応答は見応えがあった。聴覚に障害のある監督の作品ということで、まず監督の日本手話を日本語で発する通訳、その日本語を韓国語に訳す通訳と、そして韓国語を韓国手話に訳す通訳という3人の通訳がつき、4つの言語(日本語、韓国語、日本手話、韓国手話)が飛び交うという他の上映ではまず見られない形で行われたが、通訳者間の連携も良く、興味深い質問も続出し、今村監督も感激の面持ちであった。
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今村監督質疑応答: 左端)韓国語→日本語通訳さん 左から二人目)今村監督 右端)韓国語→韓国語手話通訳さん |
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三島監督質疑応答:映画祭再訪の喜びを語った |