公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇マカオ国際映画祭 2017/12/8-14
International Film Festival & Awards - Macao
**主な受賞結果** | ||||
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最優秀作品賞 | 『Hunting Season』Natalia Garagiola監督(アルゼンチン・アメリカ・フランス・ドイツ・カタール) | |||
審査員賞 | 『Wrath of Silence』Yunkun Xin監督(中国) | |||
最優秀監督賞 | 『Custody』Xavier Legrand 監督(フランス) | |||
最優秀男優賞 | Song Yang(『Wrath of Silence』での演技に対して) | |||
最優秀女優賞 | Jessie Buckley(『Beast』での演技に対して。Michael Pearce監督。イギリス) | |||
最優秀新人俳優賞 | Thomas Gioria(『Custody』での演技に対して) | |||
最優秀脚本賞 | Samuel Maoz『Foxtrot』(Samuel Maoz監督。イスラエル、ドイツ、フランス、スイス) | |||
技術貢献賞 | Benjamin Kracun(『Beast』の撮影に対して) | |||
観客賞 | 『Borg/McEnroe』Janus Metz監督(Sweden) | |||
NETPAC賞 (最優秀アジア映画賞) |
『Angels Wear White』Vivian Qu監督(中国) | |||
功労賞 | Udo Kier | |||
年間国際俳優賞 | Donnie Yen |
**日本からの出品作品**
部門 | 作品 | |||
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BEST OF FEST PANORAMA | 『Oh Lucy!』 平柳敦子監督 (日本・アメリカ) 『おじいちゃん、死んじゃったって。』 森ガキ侑大監督 |
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CROSSFIRE | 『羅生門』 黒澤明監督 | |||
FOOD SPECIAL PRESENTATION | 『ラストレシピ 〜麒麟の舌の記憶〜』 滝田洋二郎監督 |
**概観**
2016年に第一回映画祭が開催されたマカオ映画祭。とはいえ、今回は大きく様変わりし、運営関係者が一様に「実質的な第一回目」として気合いを入れて迎えた第二回マカオ映画祭。世界有数のカジノの街であり、ポルトガル情趣に溢れた世界遺産の数々で有名なマカオであるが、映画文化という点では発展しているとは言い難い。街の大型シネマコンプレックスで観られるのはハリウッドや香港、中国の娯楽大作のみで、それ以外の種類の映画に触れる機会はほとんどない。
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企画マーケットにも力を入れている。 |
映画祭会長の文綺華氏、及び新アーティスティックディレクター、マイク・グッドリッジ氏はともに映画祭の目的として「新監督の紹介、中国と西側の映画人との交流の活性化、マカオ人の国際映画の鑑賞を促進」を挙げている。前回は準備不足のため反省点も多かったとのことであるが、今回は新ディレクターの指揮のもと、満を持しての開催となった。作品選考は英国人のグッドリッジ氏以下、イタリア、アルゼンチン、日本、台湾、オランダなどで映画祭に関わってきた国際的なチームで臨み、国際色豊かなラインナップとなっていた。空席の目立った前回とは大きく異なり、映画祭側の広報活動が功を奏したのか、集客面でもかなり満足のゆく結果が得られたとのことである。オープニング作品は『パディントン2』。映画祭の敷居を無駄に上げずに、家族連れで気軽に足を運んで欲しいとの思いを込めての選択だったそうである。万人が近づきやすいオープニング作品に比して、コンペ部門の10作品やその他の部門の作品の多くは、『Foxtrot』『Custody』といった、すでに今年の世界の映画祭を唸らせた硬派なアート系作品であった。結果、アルゼンチンのNatalia
Garagiola監督のデビュー作「Hunting Season」が最優秀作品賞を獲得した。映画祭は企画マーケットにも注力しており、優れた企画にはプロジェクト・マーケット賞を授与している(賞金1万米ドル)。またマスタークラスにはパン・ホーチョン監督とジョン・ウー監督という豪華な講師を配するなど、映画の上映のみに終始せず、映画祭としての企画も充実してきている。
国際的な映画スターたちの来場も相次いだ。カルチャーセンター正面にはレッドカーペットが敷き詰められ、ジェレミー・レナー、ドニー・イェン、ミシェル・ヨーをはじめ800人近いゲストが来場した。映画『悪魔のはらわた』など数多くのホラー映画に出演し、カルト的な人気を持つ俳優ウド・キアが功労賞を受賞した。今回の受賞は300本以上の映画に出演してきたキアの功績を讃えるもの。73歳を迎えた今も精力的に活動しており、最近ではアレクサンダー・ペイン監督の話題作『ダウンサイズ』にも出演、まだまだ現役の輝きを放っていた。
メイン会場・マカオカルチャーセンター。 レッドカーペットが敷かれている。 |
マカオカルチャーセンター内で、 数々のビジネスミーティングが行われた。 |
マカオ映画祭のメイン会場はフェリー埠頭からほど近い、マカオカルチャーセンター。開会式・閉会式及びマーケットに係るイベントもカルチャーセンター内で行われた。会場の入口にインフォメーションが設置されており、たいていのことはここで解決する仕組みになっている。スタッフやボランティアが状況をよく把握しているおかげで、かなり効率良く動けた。マカオタワー内の映画館も会場となっており、ヴェネチア映画祭で金獅子賞を受賞したギレルモ・デル・トロ監督の『シェイプ・オブ・ウォーター』など、集客が特に期待できる作品が上映された。そして『Oh
Lucy! 』や『羅生門』の上映会場は昨年オープンしたというシネマテーク「戀愛・電影館」。世界遺産の聖ポール天主堂跡近くの古い西洋建築をリノベーションしたものだという。カラフルなシートが並ぶミニシアターでは若い観客たちの姿が目立った。
**日本映画**
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『おじいちゃん、死んじゃったって。』 チーム |
監督作1〜2本までの新人を対象としたコンペティション部門に日本の作品は残念ながら選出されなかった。が、「フード・スペシャル・プレゼンテーション」と銘打った部門で『ラストレシピ 〜麒麟の舌の記憶〜』が上映され話題をよんだ。「嵐」の人気はマカオでも非常に高く、そのメンバーである二宮和也氏の主演作ということで、二宮氏のマカオ入りはなかったものの、チケットは全上映作の中で真っ先に完売する人気ぶりだったという。日本からはさらに『Oh Lucy! 』(平柳敦子監督)、『おじいちゃん、死んじゃったって。』(森ガキ侑大監督)と計3本の新作と、クラシック作品の部門に黒澤明監督の『羅生門』が出品された。
マカオ映画祭と提携関係を結んでいる業界紙『Variety』が「アップ・ネクスト・アワード」を新設。同賞はアジアの次世代スターに贈られる賞で、今回は8名のアジア新進スターに授与され、日本からは女優・忽那汐里氏が選ばれた。忽那氏はバイリンガルという強味を生かし、今回のマカオでも上映された平柳敦子監督の日本・アメリカ合作映画『Oh
Lucy!』、ジャレッド・レトー主演『The Outsider』、『デッドプール』の続編などのハリウッド作品にも出演。女優デビューして10年経つが、近年は国際的にも活動の場を広げている。ともに選出されていた他の7人もすでに自国の内外で幅広く活躍しているアジア各地から精選された新鋭たちで、アジアの若手映画人たちを盛り立てようというマカオ映画祭の姿勢がここにも垣間見られた。