公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇台北ゴールデンホース映画祭 2018/11/8-25
  Taipei Golden Horse Film Festival

 

**主な受賞結果**
NETPAC 賞 With All My Hypothalamus (フィリピン)
Dwein BALTAZAR
国際批評家連盟賞 『迫り来る嵐』(中国) DONG Yue

**第55回金馬奨**
最優秀作品賞 『象は静かに眠っている』(中国) by HU Bo
最優秀監督賞 Zhang Yimou(中国:For ’SHADOW ’
最優秀主演男優賞 Xu Zheng (中国:’Dying To Survive’)
最優秀主演女優賞 Hsieh Ying-Xuan (台湾:’Dear EX’)
最優秀助演男優賞 Ben Yuen (香港:for ’Tracey’)
最優秀助演女優賞 Ding Ning (台湾:’Cities of Last Things’)
最優秀新人監督賞 Wen Muye (中国:for ‘Dying To Survive’)
最優秀ドキュメンタリー賞 Our Youth In Taiwan(台湾)by FU Yue
最優秀アクション監督賞 Hun He,Hua Yan, 谷垣健治(中国:for ‘Hidden Man’)
特別功労賞 Liao Ching-sung

**日本からの出品作品**
Windows on Asia 『ルームロンダリング』 片桐健滋監督
『人魚の眠る家』    堤幸彦監督
Ten Years 『十年 Ten Years Japan』
早川千絵・木下雄介・津野愛・藤村明代・石川慶 監督
Midnight Express 『パンク侍、斬られて候』 石井岳龍監督 (日本・中国)
Director in Focus: Tsukamoto Shinya (塚本晋也監督特集) 『斬、』 『KOTOKO』 『六月の蛇』
『鉄男』『鉄男U Body Hammer』
Restored Classics 『たんぽぽ』 伊丹十三監督
A Tribute to Takahata Isao X Studio Ghibli
(高畑勲監督×スタジオジブリ特集)
『かぐや姫の物語』 高畑勲監督
『となりの山田くん』 高畑勲監督
『平成狸合戦ぽんぽこ』 高畑勲監督
『おもひでぽろぽろ』 高畑勲監督
『火垂るの墓』 高畑勲監督
『となりのトトロ』 宮崎駿監督
『柳川堀割物語』     高畑勲監督
Golden Horse Awards Nomination 『Last Letter』  岩井俊二監督(中国・香港・日本)
『空海―KU-KAI― 美しき王妃の謎』 陳凱歌監督(中国・日本)



**概観**


賑わう上映会場‘新光影城’

 台北ゴールデンホース(金馬)映画祭の歴史は1962年に台湾映画の普及を目的に発足した金馬奨の創設に遡る。その後「世界中の映画を通して芸術と文化の相互理解を深める」のテーマのもと、映画祭、プロジェクトプロモーション、アカデミーが加わり、現在に至っている。台北ゴールデンホース映画祭の中に「金馬奨」という映画賞と「映画祭」が併存しているという構造となっており、今回は「映画祭」の表彰式は15日、「金馬奨」は17日であった。映画祭には広く世界中の作品が集められているが、金馬奨ノミネート作品をはじめ、中華圏及びアジアの作品の比重がやはり多い。今回は56か国からの175作品が出品され、どの作品にも英語字幕付きでの上映であった。が、質疑応答の際には英語通訳はつかず、内容が把握できないのは非中国語圏人としては残念だった。生誕100周年を記念したイングマール・ベルイマンのレトロスペクティブや、10人の著名な映画人たちによるマスタークラスなど、本格的な映画好きを満足させる充実の内容。会場は常に観光客や若者でごった返している繁華街・西門地区にまとまっており、パーティーなどの催しもほとんどが西門地区で執り行われた。地域柄も手伝ってか、映画祭の観客は圧倒的に若者。質疑応答時の熱心で的確な質問や、鑑賞時のきちんとしたマナーなど(上映中にスマホが光ることはまずなかった)、映画への熱意が随所に感じられた。それにしても客席に中高年の人々の姿は見当たらなかった。これはアジア圏の映画祭での典型的な光景で、台北に限ったことではない。欧米や日本では若者の映画館離れが嘆かれて久しいがまるで逆である。映画祭以外の、一般の上映はここまで極端ではないらしいが。


会場前のカフェでくつろぐ人々


 金馬奨は中国語圏のアカデミー賞という位置づけであり、歴代の受賞作・受賞者のリストには錚々たる名前が並んでいる。今回から台北金馬映画祭及び金馬奨のディレクターに就任したのは、台湾出身で世界的に活躍するアン・リー監督、そして金馬奨審査委員長は中国出身でやはり国際女優のコン・リー氏で、この賞の重みを感じさせる人選である。かつては台湾と香港の作品が中心だったが、ここ数年の間に中国からのノミネート作品数は増え続けており、今回の授賞式も中国本土においても放映された。台湾、香港、そして中国本土から名だたる多くの映画人たちが台北市の國府記念館に集い、華やかに式が進行したところまでは例年通りであったが、受賞者のひとりから台湾と中国の関係をめぐる政治的発言がなされたことにより状況は一変した。最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した台湾のフー・ユー監督の「われわれの国家が真の独立した個体としてみなされることを願う」との受賞スピーチ中での発言を受け、中国の俳優がそれを打ち消すような発言で返し、式典後に開かれた金馬主催のパーティーにはほとんどの中国の俳優、監督らが欠席。賞を獲得した中国映画の打ち上げパーティーでは報道陣は締め出され、複数の中国の映画関係者が翌日早々に台湾を離れた。この一件は大々的に報じられ、今後の金馬奨に中国作品の参加はなくなるのではないかとの懸念も持ち上がっている。この懸念に対し、台湾の文化部長(大臣)は「金馬奨は全ての中国語映画製作者を歓迎する」と公式に述べたが、次回の中国側の金馬奨への対応が注目される。


アン・リー映画祭ディレクターと
NETPAC賞受賞者Dwein BALTAZAR監督(中)
  
映画祭事務職にて:
歴代ディレクター左)ホウ・シャオシェン監督 
中)アン・リー監督 
右)女優シルヴィア・チャン氏
  







**日本映画**


日本文化が総じて非常に好意的に受け入れられている台湾。台北ゴールデンホース映画祭においても毎年数多くの日本映画が上映されており、監督特集や特別上映会が組まれるなど日本映画への関心の高さが窺える。今回は塚本晋也監督特集として最新作『斬、』をはじめ5作品が上映され、塚本監督も来訪を果たした。また、昨年逝去した高畑勲監督を称え、高畑勲監督×スタジオジブリの特集が組まれ人気を博した。これに伴い、スタジオジブリからは野中俊作氏が登壇し、トークに参加した。

アクション監督の谷垣健治氏が『Hidden Man(英題)』で共同アクション監督であるハー・ジュン氏、イム・ワー氏と共に最優秀アクション監督賞を獲得したのも朗報であった。日本では『るろうに剣心』シリーズのアクション監督としても知られる谷垣氏は、ドニー・イェン主演作をはじめとした中華圏の作品も数多く手がけており、満を持しての初受賞となった。今回は「モンスター・ハント」の続編『捉妖記2』では単独名義、『Hidden Man』ではチームで、二作品でのノミネートを果たしていた。




メイン会場前の金馬
  
歴代映画祭ポスター
  







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