公益財団法人川喜多記念映画文化財団
千代田区一番町18番地 川喜多メモリアルビル
映画祭レポート
◇ヴェネチア国際映画祭 2019/8/28-9/07
Mostra Internazionale d'Arte Cinematografica
**受賞結果** | ||||
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金獅子賞 (最優秀作品賞) |
JOKER(USA) Todd Philipps | |||
銀獅子賞 (審査員グランプリ) |
J'accuse (フランス、イタリア) Roman Polanski | |||
銀獅子賞 (最優秀監督賞) |
Roy Andersson for ‘About Endlessness’ (スウェーデン、ドイツ、ノルウェー) |
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審査員特別大賞 | La Mafia Non E Piu Quella Di Una Volta (イタリア) Franco Maresco |
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最優秀男優賞 | Luca Marinelli (‘Martin Eden’ by Pietro Marcelloでの演技) | |||
最優秀女優賞 | Ariane Ascaride (‘Gloria Mundi’ by Robert Guediguanでの演技) | |||
最優秀脚本賞 | Yonfan for ‘No.7 Cherry Lane’ (香港) | |||
MARCELLO MASTROIANNI賞 (最優秀新人俳優賞) |
Toby Wallace (‘Babyteeth’ での演技) | |||
LION OF THE FUTURE “LUIGI DE LAURENTIIS” VENICE AWARD (最優秀第一作監督作品賞) |
You will die at 20 Amjad Abu Alala (スーダン・フランス・エジプト・ドイツ・ノルウェー・カタール) |
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オリゾンティ部門最優秀作品賞 | Atlantics (ウクライナ) Valentyn Vasyanovich | |||
GOLDEN LION FOR LIFETIME ACHIEVEMENT (生涯功労賞) |
Pedro Almodovar (スペイン) Julie Andrews (英国) |
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JAEGER-LECOULTRE GLORY TO THE FILMMAKER (監督ばんざい!賞) |
Costa Gavras(ギリシャ・フランス) | |||
Venezia Classici Awards 最優秀復元賞 | Ecstacy(チェコスロヴァキア, 1932) Hustav Machaty |
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Best VR Awards 最優秀VR賞 | The KEY (USA) Celine Tricart | |||
Best VR Experience Awards 最優秀VR体験賞(INTERACTIVE CONTENT) | A LINHA(ブラジル) Richardo Laganaro | |||
Best VR Story Awards 最優秀Story VR賞 (LINEAR CONTENT) | Daughters of Chibok (ナイジェリア) Joel Kachi Benson |
**概観**
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今年のメインビジュアル |
今年も豪華な作品群であった。米国アカデミー賞を視野に入れたであろう作品から、芸術性で定評のある監督の新作まで華麗な作品が並んだコンペティション部門は観る前から期待が高まった。そして予想通り高水準の21作品の中から金獅子賞(最高賞)を獲得したのはトッド・フィリップス監督の『JOKER』であった。明らかなハリウッド映画で、しかもアメコミ作品の最高賞受賞は驚きの結果といえなくもないが、作品のトータルでの質の高さ、メッセージ性、主演のホアキン・フェニックスの圧倒的な演技を鑑みれば納得である。またフィリップス監督によれば「この作品をこのように作るにあたって多くの反対もあった」。審査委員長ルクレシア・マルテル監督はその中でも果敢に成し遂げた勇気に言及し讃えた。審査結果は満場一致ではなかったという。そして「満場一致である必要もない」と審査委員長。多様なバッググラウンドと嗜好を持つであろう有識者である7人の審査員の意見が完全に一致する方がむしろ珍しいのかもしれない。高いレベルの作品がひしめいているとなれば、尚更である。とはいえ、概ね妥当な結果であったといえるだろう。下馬評ではトップだったドレフュス事件に題を取ったポランスキー監督の『J’Accuse』は、監督の過去の事件について取沙汰されたり、今回金獅子に輝けば三大映画祭すべてで最高賞の獲得となる、などと何かと注目の作品であったが、次席にあたる審査員グランプリ賞(銀獅子)を受賞した。昨年の金獅子賞に輝いた『ROMA』のように、配信大手ネットフリックス社製作作品も二本、コンペ部門入りしていたが、今年は賞には絡まなかった(が、興味深い作品たちであった)。今回のコンペ部門の21作品は欧米からの作品がほとんどであることや、女性監督作品が二本しかないことへの批判の声も記者会見等で上がっていたが、映画祭ディレクター、ベルベラ氏はあくまでも作品の質をみて決定するとしており、それはそれで良い。最近は一部ジャーナリストたちの地域や性別バランスへのこだわりが少々行き過ぎているように感じられる。
金獅子賞受賞の『JOKER』 |
ヴェネチア映画祭ディレクター、 アルベルト・バルベラ氏 |
三回目を数えたVR部門は今年も人気が高く、予約を取るのもなかなか難しい状態にあった(この部門は一般向けチケットの販売はなし)。近年はVR部門を設ける映画祭も増加しているが、「島」(ラッヅァレット・ヴェッキオ島:メイン会場近くの船着き場から舟で2分ほど)そのものを会場にしてしまっている点でもヴェネチア映画祭は力が入っている。日本関連作品も毎年選出され、今年は東弘明監督(『攻殻機動隊GHOST CHASER』)がトークイベントにも登壇、存在感を示した。また、ヴェネチア映画祭は過去の業績に対しても十分に光を当てている。功労賞として表彰されたペドロ・アルモドヴァル監督には功労賞、コスタ・ガヴラス監督には「監督ばんざい賞」が授与された。これまでの輝かしい活動を讃える意味はもちろんのこと、現役として質の高い作品を発表し続けてもいる両監督には今後の創作活動へのエールにもなったのかもしれない。俳優部門の功労賞を受けたジュリー・アンドリュース氏の溌溂とした姿も印象的であった。
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夜のメイン会場 |
今回もハリウッドやヨーロッパの有名俳優たちやモデルなどいわゆるセレブの来訪が多く、華やかさは年々増している。とはいえ、カンヌ・ベルリン両映画祭とは異なり、作品を売買するマーケットは存在しないため、せわしなくならず、映画祭全体に‘余裕’が感じられる。著名な映画関係者やスターが、エクセルシオールホテルの船着き場に到着する姿はたいへん絵になるため、多数のパパラッチが待機している様子は壮観である。そして撮られる側も総じて上機嫌である。優雅でどことなくのどかなロケーションの成せる技であろう。
全体の上映本数も限られており、工夫次第では上映作品のほとんどを鑑賞することができる。なんといってもアクレディテーション所有者は列に並びさえすれば(チケットを引き換えたりする必要もなく)作品を観られるというのはとても助かる。並ぶ列も昨年までは「どこかの地点からごちゃごちゃになる」状態であったが、列の区分けをかなり明確にしたことによって改善されすっきりした。一般の人々もオンラインで普通にチケットを購入できる。一般のお客さんも確実に増えているのではと感じられる。メイン会場まわりの広場や飲食スペース、トイレなども充実してきている。アクレディテーションなしでは入れないエリアも増加し、会場付近数か所には警察官による手荷物チェックが厳しくなったのがやや面倒ではあったが、セキュリティ上仕方がないのだろう。
メイン会場前の広場。 人々のくつろぎの場となっている |
皆が集う‘Lion’s Bar’ |
**日本映画**
是枝裕和監督の『真実』で幕を開けた第76回ヴェネチア映画祭。日本人監督の作品がオープニング作品として初選出されたのは快挙であった。もっともほぼ全員フランス人キャストによる全編フランス語(ところどころ英語も入る)の同作はしっかりフランス映画である。出資状況をみても一応合作とはいえ、ほとんどがフランス資本である。近年、アカデミー賞有力候補作品で占められていたオープニング作品枠にヨーロッパ映画が選ばれたのもかなり久しぶりとのことである。同作は非常に好意的な反応をもって迎えられ、惜しくも受賞は逃したが、主演のカトリーヌ・ドヌーヴへの女優賞への期待の声も多く聞かれたほどであった。外国人の監督が外国語で作品を制作する場合、どうにも違和感が出てしまうのが常であるからその点でも快挙である。高評価を得て安堵の表情でオープニングを終えた是枝監督は短い滞在期間中、ひたすら取材に対応している様子であった。残念ながら『真実』以外に公式部門に日本作品はなかった。が、併行部門である<ベニスデイズ>に、オダギリジョー監督の『ある船頭の話』が選出された。この部門は設立されて今回が16回目であるが、日本映画の選出は同作が初めて。オダギリ監督と出演者である柄本明氏、村上虹郎氏がプレミア上映に参加した。オダギリ氏はコンペ部門の『サタデー・フィーバー』(ロウ・イエ監督・中国)には俳優として重要な役で出演してもおり、監督・俳優どちらとしても招かれたことに感慨深げであった。
ヴェネチア映画祭と縁の深い塚本晋也監督が、今年はコンペティション部門の審査員として映画祭を訪れた。塚本監督がコンペ部門の審査員を務めるのは97年に続き二度目。同じ映画祭の同じ部門で二度審査員として請われるのはかなり異例で、映画祭から塚本監督への信頼の高さがうかがえる。毎日3本作品を観て、数日に一度審査員ミーティングがあり、といった非常にタイトなスケジュールだったという。無事日程を終了し、「きっと今後の映画作りの何か大きな役になってくれるのではないか」と語った。
**ジャパン・フォーカス**
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‘ジャパン・フォーカス’の 記者会見 |
プレス・業界関係者向けの日本映画の特集上映&交流イベント「ジャパン・フォーカス」が9月2日と3日の2日間にわたって行われた。日本とイタリア間の映画・映像分野における関係強化を図るためにANICA(イタリア映画・マルチメディア産業協会)と公益財団法人ユニジャパンの共催によるイベントで、イタリア・日本を中心に多くの記者で賑わった。上映作品は秋以降に日本公開を控えている新作、『人間失格 太宰治と3人の女たち』(蜷川実花監督)、『楽園』(瀬々敬久監督)、『カツベン!』(周防正行監督)、『蜜蜂と遠雷』(石川慶監督)の四作品。蜷川実花監督、村上虹郎氏といった上記作品の関係者による合同記者会見も開かれ、彼らは同日のレッドカーペットへも登壇した。また日本とイタリアの他に、アメリカ・中国の関係者を交えた国際共同製作に関するセミナーも開催され、交流の場としての映画祭を生かそうとしている日伊の団体の姿勢がみてとれた。