公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流

映画祭レポート


◇カンヌ国際映画祭 2023/5/16-27
  FESTIVAL INTERNATIONAL DU FILM DE CANNES

 

**主な受賞結果**
パルム・ドール Anatomy of A Fall Justine Triet
グランプリ The Zone of Interest Johathan Glaizer
審査員賞 Fallen Leaves Aki Kaurismaki
名誉パルム・ドール Harrison Ford, Michael Douglas
最優秀監督賞 Tran Anh Hung(for "The Pot-au-feu")
最優秀女優賞 Merve Dizdar (in "About Dry Grasses")
最優秀男優賞 役所広司 (in "PERFECT DAYS")
最優秀賞脚本賞 坂本裕二 ("怪物"の脚本に対し)
カメラ・ドール Inside the Yellow Cocoon Shell Thien An Pham
エキュメニカル賞 PERFECT DAYS Wim Wenders
ある視点賞 How to Have Sex Molly Manning Walker
ある視点・審査員賞 Les Meutes Kamal Lazraq
ある視点・監督賞 La Mere de tous les Mensonges Asmae el MOUDIR
国際批評家連盟賞 ・コンペティション: The Zone of Interest Johathan Glaizer
・ある視点: The Settlers Felippe Galvez
・批評家週間: Power of Alley Lillah Halla

 *日本からの出品作品はこちらから



**概観**

 

 第76回カンヌ国際映画祭はマイウェン監督・主演、ジョニー・デップ出演のフランス映画『Jeanne du Barry』で幕を開けた。昨年は通常開催再開とはいっても、日本を含むいくつかの国は帰国時のPCR検査証明を求めており、移動の際の煩雑さや参加にあたっての心理的不安が残っていたとみえ、アジア地域からの来訪者はまだ少なかった。が、今回は完全に回復したと言って良い。天候は会期半ばまでは雨がちで気温も低め、なかなかきついものがあったが、後半には回復した。ハリウッド・スターも例年以上に大挙して訪れた。オープニング作品出演のジョニー・デップから始まり、ウェス・アンダーソン、マーティン・スコセッシ監督作品の豪華俳優たちなどでレッド・カーペットは連日大賑わいで、祝祭感に溢れていた。

 併設のフィルムマーケットも大盛況。

 カンヌ映画祭はハリウッドとも絶妙に良好な関係を保っている。今回はハリソン・フォード主演の『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』、スコセッシ監督最新作『キラー・オブ・ザ・フラワームーン』のワールドプレミアの場となり、最も映画祭がにぎわう週末の夜を盛り上げた。ハリソン・フォード氏とマイケル・ダグラス氏にはカンヌ映画祭より、名誉パルム・ドール賞(=生涯功労賞)が贈られた。昨年のトム・クルーズ氏に続いて、ハリウッド・スターへの贈賞である(ダグラス氏に関してはプロデューサーとしての評価も加わっている)。ベテラン監督たちの活躍が顕著な回でもあった。ラインナップ発表時には沸き立っても、いざ作品が披露されるとがっかりさせられることもままあるベテラン監督たちであるが、30年ぶりに新作を発表したビクトル・エリセ、痛快な短編作品を発表したペドロ・アルモドヴァル、いつまでもその瑞々しさ溢れる作風に驚かされるアキ・カウリスマキ、日本語映画を見事な完成度で作り上げたヴィム・ヴェンダースなど、今回に関しては総じてレベルが高かった。とはいえ、不出来なベテランの作品ももちろんそれなりに見受けられ、カンヌ映画祭にはぜひとも積極的に若手・中堅の監督をよりフィーチャーして欲しいとの思いに駆られる。2021年に『プレミア(プルミエール)部門』が設立された際には、大御所監督たちのための‘殿堂入り’部門かと期待した。「コンペティション部門の枠では収まりきれない良作」というのが定義のようだが、少し前の‘ある視点’部門のように「コンペに手が届かなかった作品たち」という色合いがどんどん濃くなっていて、微妙な立ち位置の部門ととらえざるを得ない。部門を問わず、フランス映画、もしくはフランスが絡んでいる作品が例年以上に多かった。

             
 今年のビジュアルモチーフは
カトリーヌ・ドヌーヴ

 公式ポスターは女優のカトリーヌ・ドヌーヴの、若き日の写真をモチーフとしたものであった。使用された写真は1968年公開のフランス映画『別離』の撮影中に、サントロペ近郊のパンプローヌ海岸で撮られた一枚。モノクロのシックなポスターが、カンヌの街を映画祭モードに包んでいた。ドヌーヴは開会式のレッド・カーペットにも参加していた。フランス映画界を代表する俳優としての存在感は健在である。









*受賞結果*


 昨年のパルム・ドール受賞者リューベン・オストルンド監督が率いた、ブリー・ラーソン、ポール・ダノたちで構成された9人の審査員団(男性4人・女性5人)。今年も昨年に続き、概ね順当な受賞結果であった。コンペティション部門の21作品は、過去のパルム・ドール受賞監督作品が4本(ダルデンヌ兄弟、クリスチャン・ムンジウ、オストルンド、是枝裕和)入っていた。そのうち7本が女性監督というのはこれまでで最多とのことである。力作が並んでいた中、コンペ部門の最高賞を受賞したのはフランスのジュスティーヌ・トリエ監督による『Anatomy of A Fall』。出演者たちの迫真の演技と脚本の妙が光った法廷劇であった。トリエ監督はジェーン・カンピオン、ジュリア・デュクルノーに続き、パルム・ドールを受賞した3人目の女性監督となった。グランプリ受賞作『The Zone of Interest』(下馬評ではどちらかといえばこちらがパルムとの声が高かった)と、パルム・ドール受賞作のどちらにもサンドラ・フラーが主演という興味深い結果となった。映画祭の規定によりフラーが主演女優賞に選ばれることはなかったのが、仕方がないとはいえなんとも割り切れない思いが残った。それ以外もプレスをはじめとする映画祭参加者たちの予想とだいたい一致した回であった。


 アジア映画とアジアの作家たちが評価された年とも言えそうである。コンペティション部門には東アジアからの出品は公式には日本からのみであった。ワン・ビン監督のドキュメンタリー『Youth』は賞には絡まなかったものの、好評を博していた。監督の国籍も撮影場所も出演者も言語もすべて中国であるが、製作はフランス・オランダ・ルクセンブルグである。最優秀監督賞を受賞したトラン・アン・ユン監督の『The Pot-Au-Feu』もフランスによる製作。ベトナム出身で、作風にもベトナムの香りが漂っているが、長きにわたりフランスを拠点としている。トルコの巨匠、ヌリ・ビルゲ・ジェイラン監督の『About Dry Grasses』からはメルヴェ・ディズタルが女優賞。そして日本の坂元裕二氏が脚本賞、役所広司氏が主演男優賞に輝いた。コンペティション部門以外ではベトナムの新人、ティエン・アン・ファム監督の『Inside the Yellow Cocoon Shell』がカメラ・ドールを受賞し(監督週間からの選出)、批評家週間では、アマンダ・ネル・ユー監督の『Tiger Stripes』が審査員グランプリ(最優秀賞)を受賞。マレーシアの女性監督初のカンヌ映画祭出品となった作品でもある。

各国のパビリオン。
日本は海側の好位置に配されていた。
 

**日本映画**


北野武監督と「首」出演俳優。
大歓声に包まれた。

 日本映画の面目躍起の年であった。是枝監督、坂元裕二氏、役所広司氏、北野監督など、ベテラン勢の活躍が素晴らしかった。日本ですでに認知度の高い人々なために、日本のメディアでの取り上げ方も大きかった(海外でももちろん大きく取り上げられたが)。 是枝監督の今回の出品作は『怪物』。是枝監督のカンヌ映画祭コンペ部門への出品は7回目とのこと(カンヌ映画祭への出品は9作目)、すっかり常連監督のひとりになっている。直近の2作品はフランスとの共同製作、韓国製作、といった外国映画であった後の、満を持しての日本作品であるという意味でも期待が高まっていた。テレビドラマ界では名脚本家としてすでに名声を博している坂元裕二氏が脚本を手掛け、故・坂本龍一氏が音楽を担当した。坂本氏にとっては今作が映画音楽としての遺作ということでも注目が集まっていた。コンペ部門のトップバッターとして、17日夜に公式上映を迎えた『怪物』であるが、上映後には「『万引き家族』の時以上だったかもしれない」と是枝監督が言うほどの万雷の拍手に包まれた。結果、坂元氏は脚本賞を受賞。また日本映画として初のクィア・パルム賞にも輝いた。


レッドカーペットに整列する「怪物」チーム

  
スタンディングオベーション

  

会期の後半に満を持して登場したのは、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督による『PERFECT DAYS』。同作はヴェンダース監督が渋谷区のトイレプロジェクトに賛同し、当初は短編もしくは何らかの映像作品の予定であったが、制作側と協議を重ねる中で長編劇映画として完成した、というユニークな成り立ちを持つ。公共トイレ清掃員・平山の日常を丁寧に追った同作は、平山を演じた役所広司氏の主演男優賞受賞、そして作品にはエキュメニカル賞をもたらした。日本人俳優が主演男優賞を受賞するのは2004年の柳楽優弥氏以来、19年ぶり二人目の快挙である。


スタンディングオベーションにこたえる
ヴェンダース監督

監督週間へはフランスを拠点に活動している平井敦士監督の短編『ゆ』、インディペンデント映画普及協会が運営するACID部門において、昨年の山崎樹一郎監督の『やまぶき』に続いて二ノ宮隆太郎監督の『逃げ切れた夢』といった、若手監督の作品が上映されたのも喜ばしい。クラシックス部門では小津安二郎監督の『長屋紳士録』、『宗方姉妹』の二作品がそれぞれ東宝、松竹より上映された。会場が満員になることは少ないクラシックス部門であるが、この小津作品に関しては違っていた。ヴェンダース監督をはじめ、小津ファンたちが詰め掛けた会場は超満員で、配給会社に招待チケットを求める声が絶えなかったという。海外における小津作品の人気の証左といえるだろう。








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