公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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国際交流
 

映画祭レポート


◇釜山国際映画祭 2024/10/2-11
  Busan International Film Festival

 

**受賞結果**
New Currents Award
(最優秀新人作品賞)
The Land of Morning Calm   Park Ri-woong(韓国)
Ma - Cry of Silence  The Maw Naing
(ミャンマー,韓国,シンガポール,フランス,ノルウェイ,カタール)
Kim Jiseok Award
Village Rockstars 2,    Rima Das(インド,シンガポール)
Yen and Ai-Lee  Tom Lin Shu-yu(台湾)
BIFF メセナ賞
(最優秀ドキュメンタリー)
Works And Days Park Min-soo, Ahn Kearn-hyung(韓国)
Another Home Frankie Sin(台湾,香港,フランス)
Sonje 賞(短編)
Yurim   Song Ji-seo(韓国)
A Garden In Winter Eleonore Mahmoudian, 松井宏(日本,フランス)
KB観客賞
(*ニューカレンツ部門観客賞)
The Land of Morning Calm  Park Ri-woong(韓国)
Documentary Audience Award K-Number  Jo Se-young(韓国)
Flash Forward部門観客賞 Memories of a Burning Body  Antonella Sudasassi Furniss (コスタリカ,スペイン)
CGV Art House 賞 Fragment Kim Sung-yoon(韓国)
NETPAC 賞 The Land of Morning Calm Park Ri-woong(韓国)
国際批評家連盟賞 Tale of the Land   Loeloe Hendra
(インドネシア,フィリピン,台湾,カタール)

(映画タイトルは英語題名) *日本からの出品作品はこちらから



**概観**


賑わうメイン会場前

第29回釜山国際映画祭は例年通り釜山市の海雲台地区と映画祭発祥の地である南浦洞地区にて開催された。公式上映作品は63か国から224本を数えたとのこと。「映画の殿堂」屋外会場で行われたオープニングセレモニーには韓国の主だったスターたちが続々と華やかに登場し、韓国随一の映画祭であることを印象づけた。政府からの助成金の大幅な減額により予算的には大変厳しいと聞いてはいたが、映画祭会場周辺の賑わいをみた限りでは縮小した感じは見受けられなかった。




盛況のマーケット



今年の公式ビジュアル

 コロナ禍以降の韓国映画界は大きく様変わりをし、資本・人材の両面において配信への比重意向が加速したという。韓国映画の興隆とともに発展してきたと言っても過言ではない釜山映画祭は、その流れに呼応するかのように2021年から配信作品の部門である「オンスクリーン」を設け、配信ドラマも上映してきた。そして今年はオープニング作品に劇場公開を予定していない、Netflixの配信作品『戦と乱』を選定した。韓国の錚々たる制作陣・キャストで臨んだ大作であるが、配信・超大作作品が選ばれたことによる波紋もよんだ。On Screen部門には日本のNetfilx制作の『さよならのつづき』も選出され、主演俳優たちがオープニングのレッドカーペットに登場、喝采を浴びていた。もっとも配信作品はオープニングを含めて10本ほどにすぎない。とはいえ、配信会社の積極的なプロモーションも相まって、この10本のインパクトは大きかった。業界関係者からはいろいろな意見が出ているものの、観客たちは配信の作品たちと劇場向け作品との間に特に違いを感じていないのではと思われ、配信作品たちの上映時も等しく盛り上がりをみせていた。

スポンサー名前入りポスター

 1996年のスタート以来、「アジア映画の発掘」を掲げ、アジアの新進作家たちの登竜門的な位置づけを守ってきた釜山映画祭。創設以来、その年の欧米の映画祭ですでに評価された作品を含め、映画通が好むであろう作品が多く選出されてきた。が、近年は大衆を意識した作品が増え続け、今年は大衆性重視に大々的に舵を切った。上映作品においては上述した開幕作品、配信作品に加えて防弾少年団(BTS)のドキュメンタリー「RM:Right People, Wrong Place」のワールドプレミア上映がたいへんな話題となり、またドラマなどの映像コンテンツを表彰する共催イベント「アジアコンテンツアワード&グローバルOTTアワード」には国内外のスターが集まり、さまざまな賞の授与も行われ大盛況であった。

釜山映画祭の新プレジデント、パク・クァンス氏は会見で「従来の映画祭フォーマットでの開催は今年が最後」と話していた。パク氏はまたスポンサーを増やし、政府支援に頼らない形を作るとも語った。今回はNetfilxとChanelが大型スポンサーであり存在感が際立っていたが、来年の第30回がどのような形で開催されるのか注目される。来年は例年よりかなり早い、9月17日より開催されることがすでに発表されている。


 






**日本映画**


黒沢清監督『Cloud クラウド』Q&A


 今年も日本映画の存在感は大きかった。黒沢清監督が「アジアン・フィルムメーカー・オブ・ザ・イヤー」を受賞。過去には日本からは鈴木清順監督、是枝監督、坂本龍一氏、若松孝二監督らが受賞している。オープニングセレモニーの中で賞を授与された黒沢監督は釜山映画祭への感謝の思いを真摯に語り、ガラ上映となった直近の二作品『蛇の道』『Cloud クラウド』のティーチイン、またマスタークラスにも登場と精力的に動いていた。オープニングセレモニーにはドレスアップした日本の映画人も多数姿を見せた。『劇場版 孤独のグルメ』の監督・主演の松重豊氏はひときわ大きな歓声を浴びていた。同作のドラマ版は韓国でも放送されており、釜山を舞台にした回もあることから松重氏の知名度は抜群とのことである。『ナミビアの砂漠』『ぼくのお日さま』『Happyend』等、若手監督の作品も各部門にわたって上映された。上映にともない、短期間でも大勢スタッフ一同で訪れる作品チームもあり、観客や映画関係者と積極的に交流するなど映画祭を満喫している様子が随所でみられた。BIFFメセナ賞(最優秀ドキュメンタリー)賞審査員を藤岡朝子氏、Sonje(最優秀短編)賞審査員を山中瑤子監督が、NETPAC賞審査員を五十嵐耕平監督が務めた。クロージング作品の『Spirit World』はシンガポールのエリック・クー監督が手掛けたが、主に日本を舞台に描かれ日本の俳優が多数出演している。

黒沢清監督、記者会見


 映画祭併設マーケットのACFM(Asian Contents & Film Market)では、マーケット部門の新ディレクター、エレン・キム氏の指揮のもと、主にプロデューサー同士の交流を推進するプログラム「プロデューサー・ハブ」がスタートした。日本からも多くの監督やプロデューサーが参加し、韓国をはじめアジアの国々との合作に向けたミーティングやネットワーキングに励んでいた。ACFMの目玉ともいうべき企画マーケット、「Asian Project Market(APM)」は質の高い企画が選出され、その中でも優れた企画には複数の賞が授与されることで知られている。今回APMが選出した30企画の中に日本からは三作品が入り、三作品とも受賞に至った。外山文治監督の『Life Redo List』がONE COOL AWARD、中川俊監督の『90 Meters』が、ARRIアワード(ARRI機材を提供される)、松永大司監督の台湾との合作作品『Until That Day』(仮題)は「TAICCAアワード」を受賞した。


今年から始まった「プロデューサー・ハブ」












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