公益財団法人川喜多記念映画文化財団
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シナリオを書いてみませんか? その1 2012年8月21日掲載
●シナリオを書くということ(2)
次にト書きです。昔は、ト書きは客観的、具体的でなくてはならないと言われていました。しかし、最近の人はかなり情感をのせたト書きを書きます。シナリオが単なる設計図でなく、読み物としての役割も果たすようになったからです。ただ、ある脚本家が気持ちが乗りすぎて「心の火が燃え盛った」と書いたところ、監督が焚き火の火をセリフの間に挿入しました。こんなことが起こらないように、私はなるべく具体的な人物の動きのみを書くことを薦めています。
最後のセリフによる表現はやさしいようで難しいものです。なるべく説明的にならず、日常の喋り言葉で、その人物の心理を的確に表現しなければならないのです。登場人物が知っていること(登場人物の過去を教えるためなど)をまだ知らない観客に知らせる為に語り合うシーンを良く目にしますが、日常生活でそんな会話はあり得ません。感情が伴わず説明するだけのセリフになってしまい、観客をしらけさせてしまいます。シナリオはキャッチボールに例えられると書きましたが、セリフは話し合う人物同士の感情が行き来しないといけないのです。ときに無言の反応も観客に強く訴えかけることもあります。ある有名脚本家のシナリオにはよく「・・・・・」というセリフが書かれていて有名になりました。セリフが無くても、充分人物の意思は伝えられることを証明しています。セリフは思いつくままにだらだらと書くものではありません。要点を簡潔に書き、その中で、ストーリーを観客に説明していかなければならないのです。確かにセリフは意思の伝達手段として非常に便利なものですが、観客にきちんとインパクトを与えながら、綴っていくということは難しいことです。心して書かなければなりません。