公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

シナリオを書いてみませんか? その1  2012年8月21日掲載

 
 

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●シナリオを書くということ(2)



 次にト書きです。昔は、ト書きは客観的、具体的でなくてはならないと言われていました。しかし、最近の人はかなり情感をのせたト書きを書きます。シナリオが単なる設計図でなく、読み物としての役割も果たすようになったからです。ただ、ある脚本家が気持ちが乗りすぎて「心の火が燃え盛った」と書いたところ、監督が焚き火の火をセリフの間に挿入しました。こんなことが起こらないように、私はなるべく具体的な人物の動きのみを書くことを薦めています。

 最後のセリフによる表現はやさしいようで難しいものです。なるべく説明的にならず、日常の喋り言葉で、その人物の心理を的確に表現しなければならないのです。登場人物が知っていること(登場人物の過去を教えるためなど)をまだ知らない観客に知らせる為に語り合うシーンを良く目にしますが、日常生活でそんな会話はあり得ません。感情が伴わず説明するだけのセリフになってしまい、観客をしらけさせてしまいます。シナリオはキャッチボールに例えられると書きましたが、セリフは話し合う人物同士の感情が行き来しないといけないのです。ときに無言の反応も観客に強く訴えかけることもあります。ある有名脚本家のシナリオにはよく「・・・・・」というセリフが書かれていて有名になりました。セリフが無くても、充分人物の意思は伝えられることを証明しています。セリフは思いつくままにだらだらと書くものではありません。要点を簡潔に書き、その中で、ストーリーを観客に説明していかなければならないのです。確かにセリフは意思の伝達手段として非常に便利なものですが、観客にきちんとインパクトを与えながら、綴っていくということは難しいことです。心して書かなければなりません。

<その2へつづく>   

執筆者紹介 岡田晋吉

 1935年、「鎌倉」生まれ、慶応義塾大学文学部仏文学科1957年卒業。
 石原裕次郎とは慶応義塾大学の同期である。 1957年、日本テレビ放送網株式会社に入社。アメリカ製テレビ映画の吹き替え担当を経て、1964年から日本製テレビ映画のプロデューサーとなる。 作品は、アメリカ製テレビ映画:「世にも不思議な物語」「幌馬車隊」など、テレビ映画としては、「青春とはなんだ!」「飛び出せ青春」「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「俺たちの旅」「俺たちの朝」「あぶない刑事」「いろはの“い”」「俺たちは天使だ!」「忠臣蔵」「白虎隊」「警視K」など多数。 竜雷太を初めとして、松田優作、中村雅俊、勝野洋などを育てた。
 現在は「公益財団法人川喜多記念映画文化財団」の業務執行理事。

 

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