公益財団法人川喜多記念映画文化財団

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パノラマ

シナリオを書いてみませんか? その2  2012年8月28日掲載

 
 

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●ハコ書きについて



構成力の良いシナリオのため
「ハコ書き」は極めて有効です

 シナリオ技術の一つに、「ハコ書き」というのがあります。書きたいシナリオの全体を、幾つかのシークェンス分け、さらにその中を各シーンに分割して、その一つ一つを独立したもの(箱)と考えて、内容を書き、あらためてその箱を組み合わせる技術です。ある著名な脚本家は壁に大きな模造紙を張り付け、何本もの縦、横の線を引き、碁盤の目のような形をつくり、その一枡ごとに自分の書きたい情景をメモにして張り付けていきます。この作業をすると、ストーリーの中でその情景がどの辺に登場するかを考えることができるのです。「電車の中で会う」「教室で友達に話す」「自室で父に叱られる」などなど。最初の内は模造紙に空白が目立ちますが、だんだんと空いている枡が埋まっていき、最後に作品が完成するのです。この作業を「ハコ書き」といいます。このストーリーを分解して更に再構築する作業は、手間が掛かるようで、無駄な作業だという人もいますが、構成力の良いシナリオを書く為には、極めて有効な作業であると思います。そればかりではなく、ある程度、無作為に枡に書き込んでいくわけですから、通常の頭で考えているだけでは気がつかない新しい意外な発見もすることができます。

 「柱」の設定に関してもう一つ注意しなければならないことがあります。撮影のとき、同じ場面はまとめて撮影出来るようにスケジュールを組むので、同じ場所を違う言葉で書きますとスタッフを困らせてしまいます。撮影時に一番大変なことは、撮影場所の移動なので、なるべく同じ場所でドラマが進行していくように書くことも重要なことです。同じ場所(「柱」)がたびたび登場すると、観客の方も、馴染みのある場所になり、リラックスして臨めるので、好感をもって見てくれることになります。ホームドラマの居間や、刑事ドラマの捜査課の部屋などがその例に当ります。ドラマで成功するためには、登場人物を観客の身近な人としてイメージし、かつ好感をもって迎えられるよう描くことが大切です。そうしないと、観客は主人公の人生を自分のこととして受け入れ、共感してくれないからです。

 いずれにしろ、頭を使って、もっとも適切と思われる場所と位置を厳選し、そのシーン(「柱」)を設定しなければなりません。

<その3へつづく>   

執筆者紹介 岡田晋吉

 1935年、「鎌倉」生まれ、慶応義塾大学文学部仏文学科1957年卒業。
 石原裕次郎とは慶応義塾大学の同期である。 1957年、日本テレビ放送網株式会社に入社。アメリカ製テレビ映画の吹き替え担当を経て、1964年から日本製テレビ映画のプロデューサーとなる。 作品は、アメリカ製テレビ映画:「世にも不思議な物語」「幌馬車隊」など、テレビ映画としては、「青春とはなんだ!」「飛び出せ青春」「太陽にほえろ!」「傷だらけの天使」「俺たちの旅」「俺たちの朝」「あぶない刑事」「いろはの“い”」「俺たちは天使だ!」「忠臣蔵」「白虎隊」「警視K」など多数。 竜雷太を初めとして、松田優作、中村雅俊、勝野洋などを育てた。
 現在は「公益財団法人川喜多記念映画文化財団」の業務執行理事。

 

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